特集 新天地を安全に暮らそう!

拝啓 
陽春の候  読者の皆様にはさわやかに新年度をお迎えのこととお慶び申し上げます
さて、新天地で新しい生活を始める方も沢山いらっしゃることと思います。そんな皆様に、不慣れな土地での新しい生活を安全で安心なものとするための備えをご一緒に考えたく特集をお届け申し上げます。 
敬具

 春は就学や就職或いは転勤のため、新しい土地で希望に満ちた新しい生活が始まる季節です。しかし不慣れな土地での生活は何かと大変です。もしものとき、あなたはどこに避難し、誰に助けを求めますか?自分の身をどう守りますか?墨田区の例を見ながら、一緒に考えましょう。

パンフを持って町に出よう

 新しい住民を迎える自治体の多くは、窓口に行政サービスや地域の情報と一緒に防災関連のパンフレットやガイドを準備しています。
 例えば、東京・墨田区では、転入者のために「すみだガイドマップ」、「すみだ防災パンフレット 地震に備えて」そして「すみだ わたしの便利帳」を三点セットとして手渡し、「よくお読みください」と声をかけています。
 ガイドマップの表紙には「新しいまちを発見する一つの手がかりは、地図を手に自分の足で歩いてみること。」と書いてあります。折りたたみ式のパンフレットを開けば、墨田区内の見所や行事、施設一覧が記され、裏面はガイドマップになっていて避難場所が赤く記されています。これを片手に歩けば、街の魅力と一緒に、いざというときの避難経路と避難場所も確認できるわけです。
 新天地に赴いた皆さんの中にも防災のパンフレットを受け取られた方も多いと思います。
 「いざというとき、どうするか?」を考えながら、防災パンレットやガイドを手に街を歩かれてみてはいかがでしょうか?

墨田区が転入者に渡す
「すみだガイドマップ」
(墨田区役所提供)
「すみだガイドマップ」の地図(墨田区役所提供)

街のサインは身を守る道しるべ

 街を歩けば、さまざまな防災の標識があります。墨田区でも「災害時一時集合場所」、「避難場所」などの標識があります。このような避難場所は、万が一被災した場合の避難と同時に安否確認、公助の対象になる場所ですから、真っ先に確認しておく必要があります。その他、「消火栓」「防火すいそう」「洪水に注意」「津波に注意」「避難はしご」などがあります。建物の中にも消火器設置場所や避難誘導口「非常口/ EXIT」などの大事なサインがあります。
 街を歩いて見つけた、パンフレットやハザードマップにはない標識や危険な箇所を赤ペンで書き込めば、マイ・ハザードマップができあがります。今号と前号(第61号)の「防災リーダーと地域の輪」では、子どもたちの防災マップづくりをご紹介しています。参考になるかもしれません。

避難場所を示す墨田区の標識(墨田区役所提供)

若い世代は災害に強い?

 高齢者や障害者の皆さんが災害時要援護者になりやすいと思われがちですが、健康で元気な若い世代は大丈夫なのでしょうか? データを見れば、そうとも言えません。
 1995年の阪神・淡路大震災で6千人を超える方々が犠牲になりましたが、その年代構成を見ると、 20〜24歳の若い男女が多く犠牲になっています(図1)。神戸には大学がたくさんあり、下宿やアパート住まいの学生が多かったこと、彼らの住まいの耐震強度が足りなかったこと、地元コミュニティとの関係が希薄だったことなどが原因と言われています。若者に限ったことではありませんが、犠牲者の多くは自宅での建物倒壊や家具の転倒などが原因で亡くなっています(図2)。

図1 性、年齢別(5 歳階級)死亡数(出典:兵庫県医師会)
図2 阪神・淡路大震災における犠牲者の死亡場所(出典:兵庫県監察医)

安全な住まいの基準

 それでは災害に強い住宅や建物はどのようなものでしょうか?
 昭和25年に定められた「建築基準法」は建築物の耐震性、防火性などの基準を定めており、時代を経て基準が改正されてきました。なかでも昭和56年の改正は重要で、阪神・淡路大震災でも、この基準で建築された建物の被害は少なかったのです(図3)。新天地での住居探しにも、この基準がひとつの参考になるでしょう。また、昭和56年以前に建てられた建物については、耐震診断を受けているか確認することが大切です。

図3 阪神・淡路大震災時の建築物倒壊(出典:建築震災調査委員会)
阪神・淡路大震災で全壊した住宅(神戸市)(財団法人消防科学総合センター提供)

家具が凶器に変わる

 建物の耐震強度が確保されても、地震対策は充分ではありません。
 阪神・淡路大震災からのもうひとつの教訓は家具の転倒による被害です。犠牲者の死亡原因の83.3%が建物の倒壊や家具転倒による圧死及び窒息死でした(図4)。どこの家庭にもある電化製品や本棚などが、地震の衝撃で激しくはじき飛ばされ凶器となって人間に襲いかかります。本誌『ぼうさい』でも、家具が凶器に変わる恐ろしさと家具転倒による被害を最小限にとどめるための方法をたびたびご紹介してきました。『ぼうさい』のホームページで、「家具固定」を検索していただければ関連情報をご覧いただけます。

図4 阪神・淡路大震災の死亡原因(出典:内閣府)
冷蔵庫は最も倒れやすい家具のひとつ(上:震災で倒れた 冷蔵庫、
下:ベルトストラップで固定[ 本誌 58号より])

ご近所の方をご存知ですか?

 墨田区防災課長の斉藤好正さんは「阪神・淡路大震災で、災害発生直後、すぐに救出活動をしたのは近隣住民でした」と語り、何より隣近所のコミュニケーションが重要であると指摘します。助け合いの心が、いざというときに命を救うのです。
 阪神・淡路大震災では、倒壊した家屋などの下敷きになった約3万5 千人の77%に当たる2万7千人が近隣住民の手によって救出されています(図5)。
 万一災害が発生した時、あなたは近隣の知人、高齢者や障害者など災害時要援護者を助けてあげることができるかもしれません。もちろん助けられる側かもしれません。近所の方があなたのことを知っていたら、「あの人はこの部屋にいる」、「この時間は仕事に出ている」、「携帯電話を鳴らしてみよう」という対応ができます。近くの知り合いは安全と安心につながるのです。

図5 要救助者約3.5 万人の救出方法(出典:内閣府)

下町も苦労は多い

 墨田区では各町会・自治会それぞれ独自の半被(はっぴ)があり、お祭りとなれば住民が氏子として御輿(みこし)を担ぐなど、地域に連帯感があります。それでも住民の流出入は多く、みんなが知り合いとは限りません。どうすれば新旧住民の顔の見えるコミュニティをつくり、防災意識を高め、災害発生時に結束して「共助」を機能させることができるのか—。墨田区も苦心しています。
 区内の各町会・自治会は防災活動に新しい住民を取り込もうと、子どもがいる家庭にはPTAや子供会と連動して呼びかけ、また御輿(みこし)の担ぎ手を募集したりしています。墨田区も「各地域の防災訓練に競技性を取り入れてみるのも効果があるのでは」と呼びかけています。同区防災課主査の鈴木信浩さんによれば「防災訓練をゲーム感覚で楽しめれば、子どもからお年寄りまで、幅広い世代の参加が得られ、地域全体の防災意識の向上につながるのではないか」というわけです。

記憶を風化させない

 墨田区は、二つの大きな災禍を経験しました。ひとつは大正12年9月1日に発生した関東大震災です。全犠牲者約5万8千人のうち約4万8千人が現在の墨田区内の住民でした。二つめは第二次大戦中の大空襲です。その時は墨田区の大部分が焼け野原になりました。さらに、隅田川と荒川に挟まれる墨田区は、昭和30年代までたびたび洪水被害に見舞われてきました。
 しかし、科学技術の進歩や行政策の推進によって被害が減少していくと、人びとは過去の災害を忘れがちです。
 斉藤防災課長は「関東大震災から88年目、終戦から66年目になりますが、土地の記憶が風化してしまうことが一番恐い」と言います。阪神・淡路大震災関係者も、復興の進捗につれて住民の被災の記憶が薄れて行くことが最大の心配事だと話しています。
 「災害は忘れた頃にやってくる」という言葉の通りです。

墨田区の取り組み

 斉藤防災課長は「防災に対する意識を高めてもらうことが、われわれ自治体の役割です」と言います。墨田区では、区民の防災意識を高めるため、関東大震災が発生した日に因み、毎月1日を「墨田区防災の日」と定めています。その日の午前中は、全職員が防災服を着用し、来庁者に「防災の日」であることを告げると同時に職員の意識向上に努めています(表参照)。さらに、庁舎の入り口に看板を立て、防災無線を通じて区民に身のまわりの総点検を呼びかけています。このほか、1980年に発足した地域防災活動拠点会議、中学生自主防災組織、災害時要援護者サポート隊、地域防災リーダー制度など、多彩な仕組みが設けられています。

墨田区役所防災センター
墨田区庁舎屋上カメラ(左)。隣接するスカイツリー(右)に防災用カメラが設置され、
区内の状況を把握できるようになる(墨田区役所提供)

ダイヤル「171」を廻せ!

 いざ、新しい土地で大災害に見舞われ電話がつながりにくくなったら、あなたはどうしますか?
 阪神・淡路大震災では安否確認やさまざまな問合せの電話が急増し、電話がつながりにくい状態が地震発生直後から5日間続きました。この教訓からNTTでは、災害時に電話がつながりにくくなった時に、「171」をダイヤルすれば、安否などの伝言を録音できる「災害用伝言ダイヤル」と、インターネットを経由する「災害用ブロードバンド伝言板(web171)」の緊急サービス体制を整えています。同様に携帯電話各社も「ケータイ『災害用伝言板』」サービスを提供しています。

まず出来ることから始めよう

 災害はいつかやってきます。新しい生活を安心・安全に過ごしていくため、防災マップで身の回りの危険箇所を確認、家具を固定、隣近所と顔見知りになるなど、出来ることから始めましょう。

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

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