特集 事業の継続

焼津冷凍

東海地震の脅威に備える中小企業

 東海地震は、今後30年以内の発生がほぼ確実視されている。
 静岡県藤枝市の株式会社焼津冷凍は、マグロとカツオ、茶葉や冷凍食品をマイナス60度と30度で冷凍保存する冷凍倉庫業を業務としているが、地震を想定した事業継続計画(BCP)を策定し、「元気・平気・笑顔プロジェクト」と名づけて取組んでいる。
 きっかけは6年前の派遣社員の死亡事故だった。そのため力を入れた社員の安全対策が会社の安全対策につながり、BCPに取組むことになった。また、マグロなど水産業界が衰退し売り上げが減少するなか、顧客に必要とされ、信頼されるという企業理念で、企業価値を高めて、売り上げをアップするためにも、BCPが必要だと考えた。
 BCP を導入した最初の防災訓練は、早朝5時に地震が発生したという想定で行っていた。
 今年の8 月11日に、駿河湾沖を震源とする地震が発生したが、まさに訓練で想定したケースとほぼ同じだった。地震の発生を聞き、社長と幹部が5時半には出社、早々と7時前には状況確認、7時半には社員の安否確認が完了した。この地震でBCPの必要性を社員一同実感したという。
 8 月には2回目のBCP による防災訓練を実施。マイナス60 度の冷凍庫の中からの人命救助、フロンガスを想定した酸欠状態の酸素マスク使用と心肺蘇生、AEDの訓練。冷凍業には電気と水が欠かせないが、水の確保対策のため、川を堰き止めてポンプで水を送る訓練などを行った。
 一般的にBCPでは、業務の目標復旧時間が重要なのだが、焼津冷凍のBCP では、目標復旧時間を電力会社による電力復旧の想定に合わせて、1 週間としている。また、マグロだけで数十億の商品を預かっている同社だけに、取引先がつぶれたら立ち行かないため、地域や取引先とともに、BCP を推進しようとしている。
 焼津冷凍は中小企業で、耐震対策などコストの負担も大変だが、それを売り上げ向上のための投資として考え、企業経営戦略の一つとして実践している。これこそ、これからの企業のあるべき姿勢といえるだろう。さらに、取引先や地域も一緒にBCP を推進するという視点も、欠かせないものといえる。

消防署の協力による訓練

対策本部の連絡作業

メールによる安否確認と連絡など

マイナス60度の冷凍室からの救出訓練

冷凍室の冷凍マグロ

社会的責任としてのBCP
 BCPは環境問題に似ているともいえる。今から約10年前、多くの企業はそのコストから環境問題に対して消極的だったが、社会全体が地球温暖化防止に目を向け、「エコ」の方向性が社会全体に認知されてくると、むしろ環境に対応した姿勢を示さなければ支持されないという状況になってきた。いわば、環境問題への適切な対応が企業の「社会的責任」となったのである。
 それはBCPも同様である。「この会社の事業が継続することで、救われる人がこの地域、社会にこれだけいる」という認識をその企業自らが持ち、社会的影響と社会的責任を自覚してBCPをしっかり準備すること、それがまさに社会的責任として認識されつつある。
 さらに私たち市民の側も、BCPを策定している企業を高く評価していくことが求められている。市民や社会から、BCPを策定している企業の姿勢が評価されることで、企業の意識が変わり、より安全な社会の実現に大きく進んで行くことが期待されるだろう。

日ごろから考え、取組む
 防災についていわれることに、「想像力」がある。仮に、「いま災害が起こったら」どうするかを、日頃から想像し準備することが、個人が災害から身を守る意味できわめて重要ということだ。しかしこれは個人だけに限ったことではなく、企業や仕事にも当てはまる。被災の際の事業の継続、顧客企業との関係や、従業員の安全の確保などについて、予め想像力を働かせ準備する必要がある。
 もちろん、BCPを作ればそれで事足るのではない。災害に際してそのBCPがどのように機能するか、シュミレーションし、訓練をしておくこと、もちろんその際には、個別企業の利益追求から、顧客や地域、関わる人々への責任を果たすという価値観の転換でのぞむことが肝要である。
 最後に、大林教授に、今後について聞いた。
 大林教授  BCPはいきなり完全なものが作れるのではなく、製品やサービスの改善のように、一歩ずつ高めていく活動です。日本企業はむしろ得意なタイプの活動だと思います。トラブルへの強さを、競争力としてもアピールしてください。

大林 厚臣

慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授
大林 厚臣 おおばやし・あつおみ
1961 年生まれ。1983年京都大学法学部卒。
(株)日本郵船勤務を経て、1996年シカゴ大学で行政学博士号取得。1996年慶應義塾大学大学院経営管理研究科専任講師、1998 年助教授を経て現職。2000〜 1 年スタンフォード大学客員研究員、2001〜 3年日本原子力研究所研究員、2003年〜科学技術振興機構研究員。2003 〜 5年中央防災会議専門調査会委員、2005 年中央防災会議企業評価・業務継続ワーキング・グループ座長、2006 年企業等の事業継続・防災評価検討委員会座長、2008 年〜事業継続計画策定方策に関する検討会座長。

説明画

イラスト:吉田静佳

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