Disaster Report 海外災害レポート

2009年スマトラ島沖地震

 9月30日、インドネシア・スマトラ島沖でM7.6の地震が発生し死者1000人以上の大災害となりました。被災状況と復興活動を報告します。

2009年9月30日午後5時16分頃、インドネシア・スマトラ島西部パダン沖で発生したM7.6の地震により、1000人以上が死亡する災害が生じました。アジア防災センター(ADRC)は10月4日〜8日に緊急調査団を派遣し、被災状況把握と、インドネシア政府・州・地方自治体や関連機関の活動状況把握を行いました。

地震の特徴

 インド洋東端に位置するスマトラ島の西沖合はスンダ海溝が南北に伸びていて、オーストラリアプレートがユーラシアプレートの下に沈み込むプレート境界となっています。2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震・インド洋大津波は記憶に新しいですが、今回の地震はプレート境界ではなくプレート内部の深い場所で発生した地震であるため、数十センチの海面変動はあったものの津波による被害は発生しませんでした。

 震源(★)と震度分布(改正メルカリ震度)、パダン市、パリアマン市の位置関係
出典:OCHA Indonesia Earthquake, Situation Report No.16(20 Oct. 2009)

被害の特徴

 被災地域ですが、西スマトラ州都のパダン市とその北のパリアマン市と周辺地域のパダン・パリアマン県が主な被災地です。被害規模は、死者・行方不明者1100人以上、全壊家屋約11万5000棟、半壊・一部損壊13万5000棟以上、経済損失は約2049億円と推計されています。
 パダン市はインドネシアで11番目に大きい都市であり、地震に強いと考えられていた中高層の近代建造物に被害が多くみられたのが、今回の地震の特徴です。
 パダン市内では、比較的大規模な行政施設(官公庁、会議場など)、商業施設(銀行、ホテル、ショッピングモールなど)が全壊・半壊している場合が多く、鉄筋コンクリート建物の1階部分が崩壊している場合が多くみられました。面的な被害があったのは中華街地区ですが、その他の市内では被害は点在している状況でした。
 これに対し、パリアマン市やパダン・パリアマン県では低層の個人住宅や学校などの被害が広範囲にわたっていました。学校の多くは鉄筋コンクリート柱の本数が少なく、使われている鉄筋や帯筋の本数や太さが不十分で、柱と梁の接合部の脱落防止加工もあまりみられませんでした。また壁を構成するレンガの接合に使われているモルタルは、石膏と荒砂で代用するなど接着強度が不十分な状態でした。なお、2006年ジャワ島中部地震との相違として、屋根は瓦葺きではなくトタン屋根が多いことから、屋根の重さにより建物が崩れたわけではなく、横揺れに対する柱と壁の耐力不足が原因と考えられます。
 地元アンダラス大学では政府の要請により、州内の被災建物の応急危険度判定を行う計画を立てていましたが、事前準備や急遽動員された学生の専門知識などに課題があると思われました。
 地震が雨季の初期に発生したことと、もろい火山灰土の地域であることから、地震直後に各地で土砂崩れが発生し、今回の地震被害の半分近くとなる500人以上が死亡・行方不明となりました。生き残った住民によると、地震直後に轟音とともに山が崩れ、避難する余裕がなかったとのことです。
 地震の強度は気象庁震度でV弱〜V強程度と思われ、ビルの2階から階段を下りて避難した人やガスコンロを止めて避難した人がいる一方で、揺れが大きく部屋の外に出られずに床に転がった人もいました。揺れている最中に避難ができたとの証言から、動けなくなるほど激しい揺れではなかったことと、建物の倒壊が急激ではなかったことが推察されます。

 1 階部が潰れた公的施設。大きな屋根構造が特徴的(パダン市内、10月5日)

被災者の生活

 土砂崩れ被害を受けた集落には避難テント村もありましたが、被災者の多くは自宅前でテント生活を送っていました。自宅前に残ることでコミュニティが持続し、住民相互の助け合いができるとともに、必要物資の取りまとめや配給にも役立っていました。なお子どもたちは道路に出て、生活再建のための募金集めをしていました。コミュニティ自身がこうやって再建費用を集める光景は被災地の各所でみられました。

 レンガ造の被災家屋。鉄筋の柱がないか、きわめて細い(パリアマン市内、10月6日)

今後の支援

 山間地以外への救援や配給は迅速で、2004年スマトラ沖地震・インド洋大津波や2006年ジャワ中部地震などの教訓が生きていました。地震を感じてすぐに山のほうへ住民が避難したことも評価できます。
 課題としては、既存木造住宅の耐震化が進んでいないことと、特に公共建築物の耐震性が低いことがあげられます。さらにパダン沖合は地震の空白域があり、近い将来に津波を伴う巨大地震の発生が想定されています。そのため地震と津波両方に対する備えが必要です。
 住宅については、低コスト耐震住宅建築や耐震化指導、公共建築物については、耐震診断や耐震補強が必要と考えられます。今回アンダラス大学が取組んだ応急被災度判定も制度化する必要があります。
 また、今回土砂崩れがあった地域は再発の危険性が高いため、集落移転などの対応を検討するとともに、同様のリスクを持つ集落を調査する必要があります。
 なお津波については、津波警報が確実に住民に伝達されるシステム整備と、関連する防災教育の継続が重要であると考えられます。

(アジア防災センター主任研究員 荒木田勝「インドネシア・スマトラ島沖地震に係る緊急調査結果報告」より)

 100人以上の死者行方不明者を出したタンディキット村。学校、民家などが土砂に埋まった(パダン・パリアマン県内、10月7日)

 被災者が住居の近隣に設置されたテントに避難をしている(パダン・パリアマン県内、10月6日)

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.