記者の眼

台風報道と防災の新たな時代

 10月8日、台風第18号が2年ぶりに上陸し、日本列島を縦断した。この台風では死者行方不明者5名(10月28日現在、内閣府)、各地で暴風により農作物に被害が出たほか、高潮も観測された。さらに首都圏では主要なJR在来線が半日にわたって運休、竜巻によって家屋などにも被害が出た。
 台風第18号は、久しぶりに上陸の可能性がある台風であるとともに、その勢力とコースから、伊勢湾台風の再来として高い注目を集めた。上陸2日前、台風は本州から千キロ以上も離れた沖縄・南大東島の南海上を北上していたが、テレビ欄には、「猛烈台風北上中、伊勢湾台風並みの勢力」との文字が踊った。
 まだ日本から遠く離れていた時点で、これだけ注目された理由のひとつに、気象庁が行った「これまでより早い解説」がある。
 気象庁担当になってまだ1年、これまでの台風取材では現場に出ることが多く、接近から上陸通過まで全体を通じて見ることが少なかったが、今回はこれまでとは違った気象庁の姿勢を感じた。今まで気象庁の台風解説といえば、気象事象についての予測や解説をするものだと思っていたからだ。そんななか、上陸2日前の記者発表で、気象庁予報課の主任予報官は、特に防災面に力点を置いて説明を行った。
「台風上陸までまだ時間的余裕があるので、明日の日中のうちに身の回りの準備を」
「風雨が激しくなった後の避難行動は、困難を伴います」
 24時間以内に予想される各地域の雨量や風、波の情報だけではなく、具体的な防災対応や行動への踏み込んだ説明があったことには驚いた。気象庁長官も、定例記者会見で、台風第18号に関しては、「予報の現場の好判断で、(防災に重点を置いた情報提供が)いいタイミングでできたのではないか」と話している。
 こうした防災行動を呼びかけた背景には、7月の兵庫県佐用町での豪雨被害での教訓もあったという。台風第9号に伴う集中豪雨に見舞われた佐用町では、避難途中の住民が深夜の暗闇と激しい雨のなか、濁流に流され死亡した。
 最終的な避難勧告や避難行動を指示する権限は、各自治体の長にあるわけだが、気象台の出す気象予測を分析して的確に判断するのは、緊急時には、かなり高度な技術も必要であり難しい。台風情報にも警戒すべき事項として明記されるが、より一層踏み込んだ情報提供には、今後も期待したい。
 伊勢湾台風から今年でちょうど50年。気象レーダーや気象衛星の普及によって、台風に対する予報は飛躍的に向上した。またハード面では、大規模河川の堤防整備、護岸整備といった対策によって、数千人規模の死者が出る台風災害は減少した。一方、地球温暖化の影響で、今後、より強力な勢力の台風が接近すると分析する専門家もいるなど、新たな台風災害に脅かされようとしている。
 局地的豪雨や集中豪雨と違い、台風では、今年から始まった5日先予報に代表されるように、時間的な猶予もあり、事前に防災情報を発表することが可能である。行政による、こうした減災のための取組をうまく活用しつつ、テレビ報道を見る人の生命を守る立場として、さらに気象・災害報道に取組んでいきたい。

中濱 弘道さん

日本テレビ報道局社会部
中濱 弘道
なかはま・ひろみち
平成14 年4 月日本テレビ関連制作会社入社。スポーツニュース番組制作などを経て、平成19年4月から報道局社会部遊軍、平成21年1月から気象庁記者クラブ勤務。気象・災害担当

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.