過去の災害に学ぶ24

1858年4月9日 飛越地震 その1

安政5年に起こり、飛騨と越中の被害が多かったこの地震は、安政の飛越地震と呼ばれます。
この地震で立山連峰の山の一部が崩壊してカルデラに落ちたことは、よく知られています。
山崩れ、土砂崩れが起き、堰き止められた川や天然ダムなどが、さらに災害を誘発しました。

文:伊藤和明(NPO法人防災情報機構会長

なだれで岩石がぶつかりあって火花を発し、川筋が明るく見え、天然ダムが姿を現わした。

 1858年4月9日(安政5年2月26日)の未明、北アルプス立山連峰の西、現在の富山県と岐阜県の県境付近で、大地震が発生した。典型的な内陸直下地震であり、飛騨と越中での被害が大きかったために、「飛越地震」と名づけられている。
 この地震は、Aクラスの活断層である跡津川断層の活動によるものであり、その規模は、従来M7・0.7・1(理科年表など)とされていたが、近年、被害分布などをもとに再検討が進められた結果、M7・3.7・6と推定されている。またこの地震は、古文書の記録などから、2つの地震が相次いで発生した、いわばマルティプルショックであったことも明らかになっている。
 飛越地震については、地震時の状況や災害の様相、地震後の情報収集や復旧状況などについて記された古文書や絵図が、数多く保存されている。また、立山の鳶崩れなど、大地に刻まれた災害の傷あとが各所に残されていて、自然と人文の両面から、その地震像や災害像を復元することができる。
 強烈な揺れに見舞われた城下町の富山では、多数の家屋が倒壊し、各所で地盤の液状化による被害も生じた。震源から遠く離れた金沢や大聖寺でも、多くの家屋が全半壊した。
 とりわけ激甚な震害となったのは、飛騨地方である。神通川の上流部にあたる宮川や高原川の流域では、跡津川断層に沿う村々の被害が甚大で、家屋の倒壊率が100%近くに達した集落もあった。
 飛越地震は、山岳地帯を走る跡津川断層の活動による地震だったため、山崩れや土砂崩れが多発し、崩壊した土砂が川をせき止めて天然ダムを生じたり、主要な道路が寸断されるなど、厳しい山地災害の様相を呈した。
 飛騨の村々でも、各所で山崩れによって多くの家屋が埋まり、死者がでた。宮川や高原川、小鳥川などでは、川がせき止められていくつもの天然ダムを生じ、のちに決壊して下流域に洪水をもたらしたものもある。
 これら山崩れのなかでも、ひときわ規模が大きく、飛越地震の名を後世にとどめる要因となったのは、立山連峰の大鳶山と小鳶山の大崩壊であった。ほぼ南北に伸びる尾根の西斜面、現在は立山カルデラと呼ばれている凹地形の底に向かって、山体の一部が崩れ落ちたのであり、通称〝鳶崩れ.といわれている。
 立山カルデラは、観光コースの「立山黒部アルペンルート」が走る弥陀ヶ原の南に隣接しており、東西約6・5㎞、南北約4・5㎞の巨大な凹地形である。カルデラの斜面から流れ出す大小の川の水は、集まって湯川となり、西進する湯川は、やがて南からくる真川と合流して常願寺川となり、富山平野をうるおしている。つまり立山カルデラは、常願寺川の源流部にあたるのである。
 この立山カルデラは、いわゆる火山のカルデラではなく、長いあいだの侵食作用によって形成された凹地形、いわば〝侵食カルデラ.である。この地域の地質は、新第三紀の海底噴火によって堆積した火山噴出物から成っており、風化が進んで、一部は粘土化しているために、脆く崩れやすい岩質になっている。このような地質環境であるため、太古からの豪雨や地震によって崩壊が繰り返され、侵食カルデラが形成されてきたのである。
 大鳶・小鳶の大崩壊によって生じた岩屑なだれは、中腹にあった立山温泉を呑みこみ、カルデラ内の湯川から常願寺川を流下して堆積した。
 岩屑なだれが高速で流下したとき、無数の岩石がぶつかりあって火花を発し、その光によって、川筋が明るく見えるほどだったという。
 湯川の上流部では、水流がせき止められ、多くの天然ダムを生じた。また、湯川の谷を流下した土砂は、真川との合流点に達し、真川の谷を逆流して堆積し、高さ100mをこえる天然ダムが形成された。
 このように、山地激震によって生じた大規模な地変は、やがて次なる大災害を誘発することになったのである。

立山カルデラの全景(撮影:菊川茂氏)

『地水見聞録』から市中破裂略図(富山県立図書館所蔵)

立山大鳶山抜図(富山県立図書館所蔵)

飛越大地震PROFILE
プレート断層の活動による直下型地震
マグニチュード :7.3 〜7.6(未明)/死者:約410 人:内訳:平野約20 人、山間約250人溺死約140 人/全半壊家屋:約2,700 戸

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