ミュージシャン 平原綾香さん
それが『ジュピター(Jupiter)』。この歌を聴くと勇気づけられると、被災地からラジオにリクエストが寄せられ続けました。
そして翌年から、長岡まつり大花火大会では、復興を願う花火とともに、この曲が人々の心に響きます。
また、新潟県中越地震の実話を映画化した『マリと子犬の物語』の主題歌『今、風の中で』を作詞し、旧山古志村で歌いました。
いま、私は感じています。歌にふるさとができました
お父さんもお祖父さんもジャズミュージシャン。そして大学時代に『ジュピター』でデビュー。クラシックの原曲を初めて聴いたときには、ポロポロ涙が出たそうです。それでこの曲をデビュー曲に選んだといいます。
「作詞をしたことがなかったので、自分の想いを文章にして何枚も書き、それを基に作詞してもらいました」
息づかいが感じられる独特の歌い方は、サックスの吹き方がベースになっているといいます。
「本格的に歌を習ったことはありません。音楽大学ではアルトサックスを学びました。それを吹くようなイメージで、歌を歌ったんです。だからサックスが私の歌の基本です」
この歌は、新潟県中越地震で被災された方々に愛され、ラジオでたくさんリクエストがありました。でも平原さんは、最初は実感がなかったといいます。
「多くの被災された方々に聞いていただいていることを知って、その方々の心に寄り添うことができるように歌っていきたいという気持ちになりました」
やがて長岡の花火大会では、復興のための花火「フェニックス」が打ち上げられるときに、毎年、この曲が流れることになります。平成17年には平原さん自身が40万人もの観客の前で歌いました。
「音楽って、すごい力を持っている。それを、新潟のみなさんのおかげで、改めて感じることができました」
また、3年後、映画『マリと子犬の物語』のために『今、風の中で』を作詞しました。
「被災した方々が主人公の歌にしました。そして、『ジュピター』の歌詞にもある『ひとりじゃない』という言葉を使いました」
被災した旧山古志村での試写会では、体育館に集まった人たちの前で歌いました。
「その時に見た、つらい状況の中でも復興に向けてがんばっている人たちの笑顔に、逆に勇気づけられました。その笑顔を想いながら、歌を作り歌っています」
今回、クラシック曲のカバーアルバムを発表した平原さん。なかでも、『新世界』には特別の想いがあるといいます。ドヴォルザークがアメリジャズとクラシックを学んだ私。サックスが私の歌の基本ですカからふるさとのボヘミアを想って作ったといわれる曲。日本では『家路』、海外では『ゴーイングホーム』として知られます。
「ふるさとである旧山古志村に帰ってこられた喜び、その大切なふるさとを元に戻す復興は、新世界を意味しています」
また、この曲は今年度、新潟の震災復興のイベント、「震災フェニックス.震災から立ち上がる文化の祭典.」のテーマソングです。
「歌を歌うと、新潟の人々の笑顔や、復興に向けてがんばる人の姿が浮びます。歌にふるさとができたことを実感しています」
撮影:浅田悠樹
Profile ひらはら・あやか
東京都出身。2003年、ホルストの組曲『惑星』の『木星』を歌にした『Jupiter』でデビューし、2004 年日本レコード大賞新人賞、2005年日本ゴールドディスク大賞特別賞。ドラマ『優しい時間』主題歌『明日』、NHKトリノ放送テーマソング『誓い』、映画『マリと子犬の物語』主題歌『今、風の中で』などをリリース。2008 年、ドラマ『風のガーデン』では主題歌『ノクターン』を歌い、女優としても出演。2009年にはクラシックカバーアルバム『myClassics!』を発表。
2009年5月、JCBホールでのライブ。ライブDVD『平原綾香PATH of INDEPENDENCE at JCB ホール』(ドリーミュージック)