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ミュージシャン 平松愛理さん

自分を育ててくれた神戸が震災に襲われた平成7年1月17日、
私はなぜ、その場にいなかったのか……
平松さんは、長い間、罪悪感にさいなまれていました。
「音楽で、何か神戸の役に立ちたい!」
そんな思いから始まったライブが、
毎年、1月17日に行われている「KOBE MEETING」。
この日だけは神戸を訪れてほしい、そんな思いが込められています。

毎年、神戸に集まって あの日のことを考えたい

 実家も大きな被害を受けたものの、ツアー中だったため、現地に入れたのは2月になってから。
「異国情緒にあふれ、おしゃれでカラフルだった町が灰色になっていた。みんな防塵マスクをしてデイバッグを背負い、無言で歩いていて。こんなの神戸じゃないって思いました」
 何か自分にできることは?と考えていた時、淡路島出身の作詞家・阿久悠先生から声がかかり、「美し都〜がんばろや We Love KOBE」を作曲。その4年後、震災遺児を支援しているあしなが育英会「レインボーハウス」の完成記念日に、遺族の前でこの曲を歌うことになりました。深く重い悲しみを背負って生きていく遺族を前に、マイクはなく、グランドピアノ1台に向かって、震える手で曲を奏で始める平松さん。そして、サビに差しかかかった時、
 「みなさん、一緒に歌い始めてくださったんですけど、一斉に泣き出されてしまって。あの時の空気、景色、気持ちとか、すべて思い出してしまう歌の力を感じると同時に、『私は人を泣かせるために歌っているんだろうか』と、すごく辛くなりました」
 音楽で本当に神戸の役に立てるには? そんな思いで始めたのが、「KOBE MEETING」。
 「この日の出来事を忘れないよう、全国の人に振り返っていただきたかったんです。そして、神戸を訪れて、おいしいもの、美しい景色などを感じてほしいと思いました」
 1年に1回、2時間余りのライブ。その準備に、1年の4分の1を費やしています。毎年、必ず来てもらうためには「クオリティの高いライブをしなければ」と、前日は一睡もできないほどのプレッシャー。
 それでも、平松さんが感じていた罪悪感は消えませんでした。地元の取材では「震災には触れないでください」と前置きされ、被災した友人からは「もう、みんな思い出したくないねんで」と言われたことも。
「自分は必要だと思って頑張ってるけど、実は人を傷つけているだけなの?って。ようやく罪悪感が薄れてきたのは、ここ数年です。「KOBE MEETING」が定着して、ふだんのライブとは明らかに違うお客さんが来てくれるようになりました。世代も幅広いし、しかも北海道から沖縄まで。責任重大ですけど、毎年同窓会のように集まって、あの日のことをみんなで一緒に考えたい」
 今年でデビュー20年。一番好きな音楽を仕事にしたことで逃げ場がなくなり、苦しい時もあったそうです。
「神戸に拠点を移し、数十年ぶりに会った恩師に「花と太陽」という曲を贈ったんです。幼い頃に母親を亡くしたと知り、恩師の子ども時代に向けて『あなたの未来にはたくさんの生徒が待っている』と。これは神戸にいるから書けた曲。今は、人の心の芯を温められるような歌を書けたら、って思い始めています」

平松愛理さん

撮影:花井智子

平松愛理さん

Profile ひらまつ・えり
兵庫県神戸市出身。1989年にデビュー以来、「部屋とYシャツと私」「マイセレナーデ」「もう笑うしかない」など、女性の日常を描いた楽曲が多くの共感を得ている。現在までにアルバム11 枚、シングル25 枚などをリリース。他アーティストへの楽曲提供や執筆活動も行っている。今年8 月には、全国4 カ所にて『SLOW ROOM』〜 20th Anniv. Tour 〜を開催。秋には新作をリリース予定。

「KOBE MEETING」

「KOBE MEETING」は、平松さんが伝えたいテーマのもとに選曲。今年のテーマは「今、自分に出来る何か」

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