特集 なぜ、住宅の耐震化が進まないのか?

 兵庫県南部地震から15年。
 この地震で25万棟が全半壊し、多くの人々が亡くなりました。
 さらに、地震による建物の倒壊から火災が生じ、消火活動を妨げ、被害を広げました。
 大地震から命を守り、被害を軽減するためには、地震に強い住宅に住むことが大切です。しかし、すべての住宅が耐震化されているわけではありません。
 なぜ、住宅の耐震化が進まないのか。
 東京大学教授の目黒公郎先生とともに考えます。

地震による建物の倒壊

(1)地震と火災

 大正12年の関東地震が引き起こした関東大震災では旧東京市の4割が延焼しました。これによって、「地震では火災が怖い」というイメージが強まり、消防の充実に重点を置いた施策が図られてきました。そして、当時よりも火災に強い建物が多くなりました。しかし、平成7年の兵庫県南部地震が引き起こした阪神・淡路大震災でも、火災が発生し多くの被害をもたらしました。
 これらの地震での延焼火災の状況を調べてみると、その大きな原因の一つに建物の倒壊がありました。
 地震による火災の特徴は、小さな火災の同時多発です。平時の火災が1日平均2件前後という神戸市で、地震発生直後の14分間に同市の消防の対応力をはるかに超える53件の火災が発生しました。通常であれば、出火当初に地域住民が初期消火できる規模の火災でしたが、なぜそれができなかったのでしょうか。その理由の一つは、常時であれば火災が起きたら消火にあたる人たちが、倒壊した建物の下敷きになり、消火活動ができなかったこと、二つ目は本来消火活動にあたる地域住民が倒壊家屋の下敷きになった人たちを助けることを最優先にしたこと、三つ目は倒壊家屋の下からの出火は市民による消火活動が難しいこと、四つ目は倒壊した建物が道路を塞ぎ火災現場にかけつけられなかったこと、五つ目は住民が通常の火災と同じように消防車が来るのを待っていたことなどがあげられます。延焼火災の主な原因の一つに建物の倒壊があったことがわかります。地震時の延焼火災の問題は重要な課題ですが、この改善には建物の耐震性の向上も、大きな意味を持っています。建物が倒壊しなければ大規模延焼の問題は大幅に改善される可能性が高いのです。

写真提供:阪神・淡路大震災を記録し続ける会(撮影:Frank Carter)
写真提供:阪神・淡路大震災を記録し続ける会(撮影:長沼満)
写真提供:阪神・淡路大震災を記録し続ける会(撮影:勇山宏幸)
写真提供:阪神・淡路大震災を記録し続ける会(撮影:山田深雪)

(2)地震と建物の倒壊による人的被害

 阪神・淡路大震災では犠牲者の8割以上が建築物の倒壊によるものでした。また、亡くなった方々の年齢を見ると、高齢の方々が多い一方で、20〜25歳の若い人たちもたくさん亡くなっています。若い人たちに被害が多かった理由として、就学や就職のために神戸以外から来ていた多くの若者が、老朽化した安いアパート・独身寮などで生活していたことから、地震による建物の倒壊により、犠牲になったことがあげられます。

(3)地震に対する建築物の強さ

 阪神・淡路大震災では多くの建築物が倒壊しました。しかし、平成18年の新潟県中越地震では、兵庫県南部地震と同程度の強さの揺れでも、建物の被害は格段に少なかったのです。それはどうしてでしょうか。これらの地域の住宅が、積雪を考慮した雪国仕様の建物であったためです。強固な基礎、太い柱や梁、防寒のための小さな窓と多い壁、積雪対策のためのスレートやトタンなどの軽い屋根が地震に強い構造物を実現していたので、結果的に地震に強い構造の建物が多かったことから、建物の被害が少なかったのです。
 阪神・淡路大震災では、建築基準法の耐震基準が強化された昭和56年以前に建てられた建築物に多くの被害がみられました。昭和56年に導入された耐震基準(新耐震基準)は、中規模の地震(震度5強程度)に対しては、ほとんど損傷を生じず、きわめて稀にしか発生しない大規模地震(震度6強から震度7に達する程度)に対しては、人命に危害を及ぼすような倒壊などの被害を生じないことを目安としたものです。しかしこの基準を満たさない、いわゆる既存不適格建物が現在でも多数存在しています。
 地震はいつ起こるかわかりません。しかし、地震活動度の高い時期を迎えたわが国では、今後、30〜50年間に関東地震と同様のマグニチュード(M)8クラスの地震が4〜5回、兵庫県南部地震と同様のマグニチュード(M)7クラスの地震が40〜50回起こると予測されています。今日のわが国では、強い建物に住むことが地震被害から身を守るには最重要であり、そのためには耐震化が不可欠なのです。

関東地震の出火点と建物被害の重ね合わせ
阪神・淡路大震災の火災発生場所と震度の関係
(図提供:目黒公郎)
阪神・淡路大震災における犠牲者(神戸市内)の死因(平成21年度防災白書)
出典:「神戸市内における検死統計」兵庫県監察医、平成7年
現在危険性が指摘されている巨大地震
 【耐震補強前】        【耐震補強後】
あなたの家の地震時の挙動(耐震補強の前と後)
(図提供:目黒公郎)

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