Disaster Report 災害への取り組みレポート

「平成18年豪雪」を契機とした雪下ろしサポートについて
長岡技術科学大学准教授 上村 靖司

日本の広範囲に大きな被害をもたらした平成18年豪雪。屋根やはしごからの転落や家屋倒壊などの被害を受けた新潟県では、NPO法人などが雪かきを通した地域づくりに取り組んでいます。

雪害犠牲者ゼロに向けて

 気象庁が命名するほどの豪雪となった「平成18年豪雪」。全国で152人が犠牲になりました。
 平成16年から平成20年にかけて立て続けに起こった中越、福岡県西方沖、能登半島、中越沖、岩手・宮城内陸と5回の震災の犠牲者の合計が109人ですから、社会の注目の度合いと異なり、雪害が大きな災害であることが分かるでしょう。
 雪害が注目されにくい理由は3つあります。第一は、一つひとつの小さな被害が積もり積もって大災害になる「積分型災害」だということ。第二は、除雪作業中など雪国の暮らしの中で起こる「日常的な災害」であって、事故なのか災害なのか区別をつけにくいということ。第三は、雪国と言われる地域には日本の人口の17%しか住んでおらず、残り8割以上の国民にとっては現実感をもちにくいということです。
 さて、「雪害」と一言で言っても、それが何を指すのかは簡単ではありません。広い意味でとらえると、冬の交通事故や冬山登山などのレジャー中の事故も含まれますし、道路の交通傷害や農林業被害、送電鉄塔への着雪による停電など、社会機能の停止・不全も含まれます。前述の152人のように統計値として消防庁が把握している数字は、狭い意味での雪害で、日常的な冬の暮らしの中での人的被害を指します。昔と違い、集落が呑み込まれるような大規模な雪崩被害も起きていませんから、除雪中に屋根やはしごから転落したり、屋根や構造物の上に積もった雪の予期せぬ落下に埋没してしまったり、除雪機械に巻き込まれてしまったり、水路や池に転落してしまったりということが大半です。件数は多くありませんが、住宅が雪の重さで押しつぶされてそこに住んでいた方が亡くなったという事例も豪雪の時には発生しています。
 これらの被害を「ゼロ」にするには、一体どうしたらよいのでしょうか?
 除雪作業中の被害が圧倒的に多いわけですから、除雪作業から解放するのが最善の策です。特にはしごや屋根など高所での作業が重大な被害につながっていますから、「雪下ろし」からの解放が即効性のある対策です。しかし、個人住宅の雪下ろしを誰かに依頼したり、雪下ろしの必要のない構造の屋根(自然に滑落、熱を加えて融雪など、総称して克雪住宅と言います)にするには、コストがかかります。そのコスト負担ができる世帯は問題でなく、問題なのは、克雪化したり業者に委託したりする財力をもたない高齢者や障害者の単身・夫婦世帯なのです。
 自宅敷地内で、自分の判断で行う除雪作業を公的にサポートすることの難しさもあります。昔なら、大家族で、若い除雪の担い手もいて、そして地域コミュニティで協力し合って除雪を行っていました。核家族化、少子化・若者の流出による過疎高齢化で、担い手確保も地域の共助も難しくなった現代、この単純なようで複雑な雪害の問題は解決の糸口すら見えない状況になっています。
 私たちNPO法人中越防災フロンティアは、平成19年1月から、「越後雪かき道場」という新たな挑戦を始めました。除雪の経験のないボランティア向けの除雪技能訓練と安全講習のプログラムです。2冬期延べ15回におよぶ経験から、雪害ゼロに向けたヒントがいくつか見えてきました。第一は「協働」です。誰かが何とかするのではなく、住民も行政もボランティアも支援団体もそれぞれがそれぞれのできることを持ち寄ると、円滑に進みます。第二は「訓練」です。例えば命綱の使い方、除雪機の操作法、救命救急法(AEDを含めて)など。訓練をすれば確実に安全性は高まります。第三は「仕組み」です。声かけ、見守り、助け合い、共同作業、安全点検など、それらを当たり前として続けられる仕組みを文化にまで高めなくてはなりません。考えてみると、「雪かき道場」は、雪かきを通じた地域づくりそのものだと、最近考えています。

中越地震後の冬に損傷を受けた家の屋根の雪下ろしをする住民(平成17年2月3日、新潟県川口町田麦山)

一人暮らしの高齢者(雪下ろしを終えた自宅屋根の上で撮影)(平成18年1月13日 新潟県津南町)

中越地震後の冬、損壊を受けた状態で雪下ろしができなかったため、雪の重みで押しつぶされた家(平成17年1月29日 新潟県長岡市山古志竹沢)

3mを超える積雪に耐える家屋。中越地震後でも十分な強度をもっていたが、その後完全に倒壊した(平成17年2月3日新潟県山古志竹沢)

長岡技術科学大学 工学研究科准教授
上村 靖司
かみむら せいじ
昭和41年新潟県川口町生まれ。平成2年長岡技術科学大学大学院修士課程修了(機械創造工学専攻)。同大助手、米国レンセラー工科大学客員研究員、小山工業高等専門学校助教授を経て現職。専門は雪氷工学。新潟県中越地震・雪氷災害調査検討委員会総務幹事。NPO法人中越防災フロンティア理事。

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内閣府政策統括官(防災担当)

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