特集 風水害の危険! そのとき、 あなたは?

台風災害は、こうして起こる!

ひとつとして同じ台風はないものの、それぞれの台風の特性と引き起こされる災害は密接に関係している。できるだけ被害をおさえるためにも、台風のメカニズムを知っておこう。
気象庁予報部予報課太平洋台風センター 佐々木喜一

暴風

進行方向の右側では風速に移動速度が加わる

 台風は巨大な空気の渦巻きで、地上付近では中心に向かって反時計回りに強い風が吹き込みます。このため、台風の周辺では暴風に対する警戒が必要となります。特に、台風の進行方向の右側では、台風の風の速度に台風の移動速度が加わって風が強くなるため、台風の移動速度が速いほど暴風に対する警戒がいっそう必要となります。
 また、台風の中心付近(眼)に入ると一時的に風が弱まり、天気も回復したかに見えますが、中心が通過したあとには台風後面の強い吹き返しの風が吹くため、警戒を緩めることはできません。

知っておきたい災害
平成14年 台風第21号
 平成14年台風第21号は、強い勢力のまま10月1日夜、神奈川県に上陸し、関東地方を時速60kmで通過しました。この台風の通過に伴い、太平洋側沿岸部で広範囲に暴風となり、茨城県潮来市では送電線の鉄塔が倒壊するなど、関東地方から北日本にかけての太平洋側で大きな被害が出ました。

暴風によって倒壊した、茨城県潮来市の送電線の鉄塔。
平成14年台風第21号における10月1日9時の地上天気図。夜には関東地方を通過し、翌朝、北海道に上陸。

左/暴風によって倒壊した、茨城県潮来市の送電線の鉄塔。(写真提供:東京管区気象台)
上/平成14年台風第21号における10月1日9時の地上天気図。夜には関東地方を通過し、翌朝、北海道に上陸。

高潮

南に開いた湾の西側を北上するとき南よりの強風が吹き続ける

 台風が接近して気圧が1ヘクトパスカル低下するごとに、海面が約1cm上昇します。また、強風で海水が海岸に吹き寄せられて、さらに海面が上昇します。特に南に開いた湾の西側を台風が北上する場合、南よりの強風が吹き続けて大きな高潮が発生。過去50年間に潮位偏差が1m以上となった高潮は、東京湾、伊勢湾、大阪湾、瀬戸内海、有明海などの南に開いた湾で発生しています。特にV字型の湾では、高潮が一段と大きくなる傾向があります。

知っておきたい災害
平成16年 台風第16号
 最近では、平成16年8月30日に九州を縦断し、中国地方を北東進した平成16年台風第16号が、山陽と四国地方の瀬戸内側を中心に顕著な高潮被害をもたらしました。同日夜には台風の接近に加え、瀬戸内海の地形の効果などにより、干潮に近いタイミングで、比較的高潮が起こりにくい高松港などで記録的な高潮が発生。台風の接近時には、満潮時以外にも注意が必要です。

高潮のために道路が冠水した高松市福岡町。
高潮のために道路が冠水した高松市福岡町。(写真提供:高松市)

大雨

台風の湿った南風が前線の活動を活発にする

 台風によって大量の雨が短期間のうちに広い範囲に降るので、河川の増水による水害、山がけ崩れや土石流などの土砂災害が発生します。台風が遠く南海上にあっても、日本付近に前線が停滞している場合には、台風からの湿った南風が前線の活動を活発化させて大雨となることがあります。台風の発生・接近数が多い8月よりも9月に大災害をもたらす台風が多いのは、9月には日本列島に前線が停滞していることが大きな要因の一つです。

知っておきたい災害
平成17年 台風第14号
 台風が日本の南海上にあった9月3日から4日にかけては、本州上に停滞している前線に向かって温かく湿った空気が流入して、各地で非常に激しい雨が降り、東京都と埼玉県では局地的に1時間に100mmを超える猛烈な雨が降りました。その後、台風は九州の南海上から山陰沖に抜けるまで比較的ゆっくりとした速さで進んだため、九州・四国・中国地方では長時間にわたって大雨と暴風が続き、九州地方を中心に大雨による土砂災害や洪水などが発生しました。

東京都杉並区妙正寺川北原橋付近。平常時。
東京都杉並区妙正寺川北原橋付近。平成17年9月4日深夜、猛烈な雨が降ったときの様子。
東京都中野区妙正寺川北原橋付近。左は平常時。
右は平成17年9月4日深夜、猛烈な雨が降ったときの様子。(写真提供:中野区)

8月と9月は台風シーズンのピーク

 年間で最も台風の上陸が多いのは8月と9月。台風の月別発生数、接近数をみると8月が最も多く、次いで9月の順ですが、これまで日本に上陸・接近して大災害をもたらした台風の多くが9月に襲来しています。昭和の時代に、3000人を超える死者・行方不明者を出した「室戸台風」「枕崎台風」「伊勢湾台風」は、いずれも9月。この時期は特に注意が必要です。もちろん、台風がひとたび上陸・接近すればいつでも暴風雨や高潮などによる大災害の危険があるため、台風の動向には常に警戒が必要です。

地形や地理に左右される台風災害

 台風によって引き起こされる災害には、風害・水害・高潮害・波浪害などがありますが、これらは単独ではなく、複合して発生して大きな被害となります。また、一口に台風といっても、大型で広範囲に被害をもたらす台風、小さくても狭い範囲で甚大な被害をもたらす台風、前線の活動を活発化させて大雨による被害をもたらす台風などさまざま。日本付近の気圧配置とも相まって、被害の形態は状況によって大きく異なります。台風災害はそれぞれの場所の地形や地理的な条件にも大きく左右されるため、過去の災害の事例を参照して、どのような災害が起こりやすいかを前もって把握しておくことが重要です。

台風接近前に、早めの備えを

 台風がまだ日本の南海上にあっても前線の活動を活発化させたり、大気の状態を不安定にしたりして、局地的な豪雨となることがあります。また、台風は急に進路を変えたり速度を速めたりすることも。地元気象台が発表する最新の台風情報に十分注意し、台風が遠く離れているからといって油断せず、接近する前に大雨や暴風、高潮などによる災害に早めに備えましょう。

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