記者の眼

緊急地震速報の有効活用を

 「ピロリロリン、ピロリロリン」

 テレビやラジオで大地震の到来をチャイムで知らせる緊急地震速報。本格運用の始まった2007年10月から半年間、1件も出なかった速報が、私が気象庁担当となった2008年4月以降、既に9つの地震(このコラムを執筆した12月中旬時点)で発表されています。
 学校で習ったと思いますが、地震の際にP波と呼ばれる小さな揺れ(初期微動)が早く届き、その後にS波と呼ばれる大きな揺れ(主要動)が来ます。緊急地震速報はこの2種類の波の時間差を利用し、各地にS波が到達する時間や震度を予想するものです。最大震度5弱が予想されれば、気象庁が速報を出します。
 ですが、実際はほとんどの地震で強い揺れの前に間に合っていません。2008年6月の岩手・宮城内陸地震で震度6強を観測した岩手県奥州市では、強い揺れから4秒以上たった後に速報を発表。地震検知から速報発表まで20.8秒かかった岩手県沿岸北部の地震(7月)でも、震度6弱の岩手県全域、青森県南西部などに間に合いませんでした。
 P波とS波の時間差がほとんどない震源周辺では効果がなかったり、地震の規模を速報基準の震度5弱より過小に予測するといった技術的な課題も浮き彫りになりました。
「役に立たない緊急地震速報は止めて、予算をほかに回すべき」との意見も根強くあります。でも、10秒、いや数秒でも猶予があれば、とっさに机の下に飛び込むなどの対策は取れます。確実な地震予知ができない中、うまく利用すれば有効な被害防止策になると期待されている以上、気象庁には観測地点を増やしたり、予測式の精度を高めるなど速報技術の向上に努めてもらいたいと思います。
 もう一つは、市民への周知徹底です。東京の民間調査会社がアンケートしたところ、岩手・宮城内陸地震で被災した仙台、盛岡、福島市民計683人のうち、緊急地震速報を聞いたのは267人で、強い揺れの到達前に聞いた人は89人と全体の1割強にとどまりました。
 国も、東北6県の小中学校や病院、工場など計2378カ所に調査したのですが、強い揺れの到達までの猶予時間の有無を答えた595カ所のうち、計算上は到達まで20秒以上余裕があった地域でも、速報が「間に合った」のは約3割にすぎないことが分かりました。
 気象庁によると、発表からテレビ・ラジオ放送が始まるまでに約1〜3秒、チャイムが鳴り自動音声が警戒を呼びかけ終えるまでに約7秒程度かかるとのこと。加えて、視聴者が緊急地震速報と認識するまでにも時間がかかるといい、気象庁は「チャイムや自動音声では気づかず、アナウンサーの放送で気づく例もあるのでは」と分析、対応に苦慮しているのが現状です。
 少なくとも、学校や病院、デパートなど公共施設や多くの人が集まる場所には、緊急地震速報を自動的に館内に流す専用装置の導入を促進し、市民もテレビやラジオだけでなく、携帯電話の受信サービスなども活用してもらいたい。また、速報が出た後の行動を事前に決めておくなどし、いざというときに即座に動けるよう常に心がけておくべきだと思います。

樋岡徹也さん

毎日新聞東京本社社会部
樋岡 徹也
ひおか てつや
1997年毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道センターで愛知県警、遊軍担当などを経て、08年から社会部

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