第2章 科学技術の研究
1 災害一般共通事項
(1)情報収集衛星による自然災害観測・監視技術
内閣官房内閣情報調査室においては、情報収集衛星を運用し、災害発生時に関係機関に対して情報収集衛星で撮像した被災地域の画像の提供を行うなど、被災等の状況の早期把握等に貢献した。
(2)総合科学技術・イノベーション会議による防災科学技術研究の推進
総合科学技術・イノベーション会議においては、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)及び統合イノベーション戦略等に基づき、防災・減災機能強化のための科学技術研究、危機管理技術等の研究開発の推進を図った。
<1>戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第3期の「スマート防災ネットワークの構築」において、衛星、AI、ビッグデータ、デジタルツイン等の最新の科学技術を最大限活用し、国民一人ひとりの確実な避難や広域経済活動の早期復旧等を実現するため、国や地方自治体の災害対応に関する意思決定を支援するための情報システム等の研究開発及び社会実装の取組に着手した。
<2>研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)
「研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)」において、人工衛星による迅速な被災状況の把握体制の構築(文部科学省)、AIやリモートセンシング技術による高精度な降雨・洪水予測(国土交通省)など、防災・減災に資する技術の研究開発と社会実装に向けた取組を推進した。
(3)防災リモートセンシング技術の研究開発
国立研究開発法人情報通信研究機構においては、電波や光を用いて広範囲の大気状況や地表面の様子を迅速に把握するリモートセンシング技術に関する研究開発を行った。また、総務省では膨大なリモートセンシングデータをリアルタイムで伝送するための研究開発を進めた。
(4)レジリエントICTに関する研究成果の展開等
国立研究開発法人情報通信研究機構においては、災害に強い情報通信技術に関する研究を行った。その成果として、同機構の開発した災害に強い地域分散ネットワーク技術「NerveNet」が、令和4年の和歌山県白浜町に続き、宮崎県延岡市等で新たに導入された。また、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」において、企業らとともに開発した「防災チャットボットSOCDA」が企業のサービスとして社会実装された。同第3期「スマート防災ネットワークの構築」においては、公衆通信途絶環境下でも接近時通信により情報共有を維持するシステム(機関横断情報通信システムX-ICS)や映像データ収集・集約技術などの課題が採択され、研究開発に着手した。加えて、令和6年1月1日に起きた「令和6年能登半島地震」の発生を受け、令和5年12月28日に試験公開を停止した「耐災害SNS情報分析システム(DISAANA)」を発災3時間後に緊急措置として再稼働し、令和6年3月29日まで運用した。
(5)グローバル環境計測技術の研究開発
国立研究開発法人情報通信研究機構においては、雲、降水等の大気海洋圏の高精度計測のために、電波センサー技術、解析・検証技術等の研究開発を行った。
(6)消防防災科学技術研究推進制度(競争的研究費制度)の促進
消防庁においては、消防防災科学技術研究推進制度(競争的研究費制度)により、火災等災害時において消防防災活動を行う消防機関等のニーズ等が反映された研究開発課題や、「科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)等の政府方針に示された目標達成に資する研究開発課題に重点を置き、消防機関等が参画した産学官連携による研究開発を推進した。
(7)災害時の消防力・消防活動能力向上に係る研究開発
消防庁消防研究センターにおいては、大規模自然災害時においてより多くの国民の生命を守るため、要救助者を迅速かつ安全に救助するための現場対応型情報収集システムと情報分析・評価手法の開発及び自力避難困難者の円滑かつ安全な避難に関する研究開発等を行った。
(8)衛星等による自然災害観測・監視技術
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構においては、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)等を運用し、国内外の防災機関に大規模災害における被災地の観測画像の提供を行う等、災害状況の把握に貢献した。
(9)災害をリアルタイムで観測・予測するための研究開発
国立研究開発法人防災科学技術研究所においては、内陸部を震源とする地震、海溝型巨大地震及び津波、火山噴火による被害の軽減に向けた陸海の基盤的地震観測網等を活用した研究開発、地震・火山・津波防災に関する各観測システムの安定的運用継続を実施した。具体的には、陸海の基盤的地震観測網のデータ等を活用した地震動・津波即時予測研究等、火山観測網やリモートセンシング技術等を活用した火山活動や噴火現象の把握及び火山災害のリスクコミュニケーションの在り方等の研究を実施した。
(10)災害リスクの低減に向けた基盤的研究開発の推進
国立研究開発法人防災科学技術研究所においては、各種自然災害のハザード・リスク、現在のレジリエンスの状態を評価するとともに、各種災害情報を各セクター間で共有・利活用することで連携・協働し、予防力・対応力・回復力を総合的に強化する災害対策・技術について研究開発を行い、社会全体への浸透を目指した。特に、ゲリラ豪雨等の予測技術開発やハザード評価技術等の研究開発を行い、ステークホルダーと協働し成果の社会実装を図った。
(11)農作物、農業用施設等の災害防止等に関する研究
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構においては、耐冷性・耐寒性・耐湿性・高温耐性品種の育成や、作物の気象災害の防止技術に関する研究、農村地域の強靱化に資する防災・減災技術の開発に関する研究を行った。
(12)漁港・海岸及び漁村における防災技術の研究
国立研究開発法人水産研究・教育機構においては、漁村地域の防災・減災機能を強化するために、漁港施設・海岸保全施設の耐震・耐津波に関する研究を行った。
(13)港湾・海岸及び空港における防災技術の研究
国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所においては、既往の災害で顕在化した技術的な課題への取組を継続しつつ、沿岸域における災害の軽減と復旧に関する研究開発課題に取り組んだ。
(14)船舶における防災技術の研究
国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所においては、船舶の安全性向上や海難事故防止に係る技術開発を進めることにより、海難事故を削減するため、海難事故等の原因究明手法の深度化、防止技術及び適切な再発防止策の立案に関する研究等を行った。
(15)災害等緊急撮影に関する研究
国土地理院においては、関係機関の迅速な災害対応に資することを目的に、デジタル航空カメラや航空機SAR等を用いた、地震、水害、火山噴火等の被災状況の把握、迅速な情報提供を行うための手法の検討を行った。
(16)自然災害からいのちと暮らしを守る国土づくりに関する研究
国立研究開発法人土木研究所においては、自然災害の外力が増大し激甚化しているとともに、自然災害の発生が頻発化していることへの対応として、災害予測技術の開発、大規模な外力に粘り強く耐える施設の開発など、新たな技術的課題へ即応するための研究開発を行った。
(17)気象・水象に関する研究
気象庁においては、気象研究所を中心に気象業務に関する技術の基礎及びその応用に関する研究を推進した。特に気象観測・予報については、台風や線状降水帯等による集中豪雨等の監視・予測技術に関する研究等を行った。また、地球温暖化対策に資するため、数値モデルの改良を行った。
(18)生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)に関する研究
環境省においては、環境研究総合推進費により、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)、気候変動適応及び緩和、並びに生物多様性保全を同時実現する方法と評価手法の確立に関する研究を推進した。
(19)気候変動による災害激甚化に係る適応の強化
環境省においては、適応法に基づき2025年度に予定している次期気候変動影響評価に向けて、科学的知見の収集・整理や評価方法の検討等を行うとともに、気候変動影響により気象災害の更なる激甚化が予測されていることから、気候変動を踏まえた将来の気象災害の影響評価を行った(後掲 第3章1-4(81))。