第5節 生業(なりわい)再建支援等
(1)中小・小規模事業者の支援
石川県を中心とする北陸地方等において製造業、中小企業の建物や設備の損傷等の被害が多数発生した。4月1日現在、被災地域外のサプライチェーンにも影響を及ぼしうる業種については、9割超が生産を再開又は再開の目処が立っている状況である一方、繊維、工芸品については、約2割の企業において生産再開の目処が立っていない状況となっている。特に、地震の揺れや輪島朝市通りの火災で店舗や工房の多くが倒壊・焼失した輪島塗など、被災地の重要な地場産業である伝統産業も甚大な被害を受けた。
被災事業者の再建支援のため、政府は1月11日に本災害を激甚災害(地域を限定しない本激)に指定し、「中小企業信用保険法」(昭和25年法律第264号)による災害関係保証の特例を適用した上で、1月25日には生業再建のための措置を含む支援パッケージを取りまとめた。中小企業庁等においては、被災事業者による施設・設備等の復旧費用を、石川県では最大15億円、新潟県、富山県、福井県の3県では最大3億円を補助する中小企業特定施設等災害復旧費補助金(なりわい再建支援事業)や、事業再建に係る費用を最大200万円補助する小規模事業者持続化補助金、被災地の商店街のアーケード・街路灯等の復旧や集客イベント開催への支援、そのほか日本政策金融公庫等による金融支援等を行っている。また、新型コロナウイルス感染症や令和5年5月の地震による事業への影響が続く中で、既往債務による二重債務問題に対応するため、「能登半島地震復興支援ファンド」を設立したほか、被災事業者の復旧・復興に向けた資金繰り支援を始めとする各種相談体制を構築し、上記ファンドでの債権買取支援等につなげるために「能登産業復興相談センター」を開設した。加えて、コロナ禍での民間金融機関による実質無利子・無担保融資(民間ゼロゼロ融資)等の返済条件変更時の追加保証料をゼロとする支援も行っている。さらに、伝統産業の復興については、輪島塗仮設工房の設置や、事業継続に必要な道具・原材料の費用を最大1,000万円補助する等の支援を行っている。
(2)農林水産業の支援
今般の災害により、農業においては、農地や農道、用排水路、ため池等の農業用施設の損壊に加え、畜舎や農業用ハウス、共同利用施設等が損壊したほか、農業・畜産用機械の被害が多数発生した。また、林野関係においては、広範囲での山地崩壊、林道等の被害や、木材加工流通施設や特用林産振興施設の被害が発生した。水産業においては、津波や地盤の隆起等により、漁船の転覆、沈没、座礁や漁港施設の損壊、共同利用施設の損傷等多くの被害が発生した。特に、世界農業遺産に登録された「能登の里山里海」のシンボルでもある白米千枚田(棚田)で大きな被害が生じたことや、イカ釣り漁船の拠点港として知られる鹿磯(かいそ)漁港(輪島市)をはじめとして、多くの漁港で地盤の隆起等により出漁できない状態が続いていることが、被災地の主要産業でもある一次産業の象徴的な被害となっている。
農林水産関係の支援のため、農林水産省は、機械・ハウス・畜舎等の再建・修繕への補助、水稲作の継続や他作物への転換のための種子・種苗の確保、農業用ハウス資材等の営農再開に向けた生産資材の導入、農作業委託への補助、漁船・漁具の復旧への補助、木材加工流通施設等の復旧・整備への補助、山地崩壊箇所の復旧・整備への補助、農地や農業用施設の復旧への補助を行っており、特に農地・農業用施設の復旧は激甚災害(地域を限定しない本激)指定により高い国庫補助率となっている。
林野関係に関しては、輪島市・珠洲市等で大規模な山腹崩壊などが発生し、そのうち被害が甚大な奥能登地域7ヶ所について、国直轄による災害復旧等事業に着手し、本格復旧に向けて継続的に支援している。
水産業に関しては、石川県内69漁港のうち60漁港で被災し、輪島市・珠洲市を中心に地盤隆起が多数確認された。これまでの方法での復旧に加えて、特に地盤隆起等による被害が大きい漁港(約20漁港)については、短期的な生業再開のための仮復旧と、中長期的な機能向上のための本復旧(泊地の浚渫や隣接地への沖出し等)の2つのフェーズに分けた復旧が必要であり、「大規模災害復興法」に基づく水産庁による代行工事(鵜飼漁港海岸、狼煙漁港)など、復旧工事を支援している。また、輪島港で海底隆起等により身動きが取れなくなった漁船(約200隻)をサルベージ船により移動しているほか、漁業者による漁場復旧の取組支援として状況調査、漂流・堆積物の除去、漁場環境の復旧・回復の活動を支援している。
今後、地域の将来ビジョンを見据えた復興方針の検討、復旧と連携した農地・農業用施設等の機能向上、景観にも配慮した棚田の復旧や観光とも連携した持続可能な里山づくり、山地災害発生の危険性が高い荒廃地における治山対策・森林整備、里海資源を活かした海業振興等の漁港施設等の機能向上等を支援することとしている。
(3)観光復興等への支援
地域の主要産業のひとつである観光産業もこの災害により大きな被害を受けた。4月1日現在で、能登地域についてはほとんどの宿泊施設で甚大な被害が出ており、稼働できていないほか、金沢・加賀地域等の石川県内の宿泊施設、新潟県、富山県及び福井県の宿泊施設は、稼働しているものの多数のキャンセルや予約控えが発生している。また、能登地域の代表的な観光地である輪島朝市は火災により約240棟、約49,000m2が焼失して再建の目処が立っておらず、有数の温泉街である和倉温泉(七尾市)では20余りの旅館・ホテルが全て被害を受けたが、一部の施設では支援者向けの宿泊拠点としての活用も行われている。
観光産業の復興支援のため、生業(なりわい)再建支援等の中小・小規模事業者支援策や、雇用調整助成金の特例等による被災事業者の従業員の雇用維持に加え、観光庁等においては、観光需要・経済活動の回復や風評被害の払拭等を図るため、3月16日の北陸新幹線金沢-敦賀間開業の機会も捉え、1月26日より被災地を始めとして北陸地域に関する正確な情報の発信、被災地の観光復興・北陸地域全体の誘客に資するプロモーションを重点的に行っている。また、旅行需要喚起策として3月16日より「北陸応援割」(補助率50%、最大2万円/泊)を実施し、さらに能登地域については復興状況を見ながらより手厚い旅行需要喚起策を検討することとしている。このほか、ふるさと納税を活用した特産品販売、旅行等を促進する。