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令和4年版 防災白書|特集 第3章 第2節 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策の検討


第2節 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策の検討

(1)検討の経緯

日本海溝・千島海溝沿いの海溝型地震に対する防災対策については「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進基本計画」等に基づき政府全体で重点的に進めてきたところであるが、中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」(平成23年9月28日)の提言を踏まえ、住民等の生命を守ることを最優先とし、とりうる手段を尽くした総合的な津波対策を確立するため、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波を想定した対策の見直しを行った。

平成27年2月には「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会(以下本節において「モデル検討会」という。)」を内閣府に設置し、最大クラスの地震・津波による震度分布、津波高等の検討を行い、結果を令和2年4月に公表した。さらに、同月に「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ(以下本節において「日本海溝・千島海溝WG」という。)」を防災対策実行会議の下に設置し、令和3年12月に最大クラスの地震・津波による人的・物的・経済的被害想定結果を、令和4年3月には被害想定に対する防災対策を取りまとめ公表した。

(2)最大クラスの地震の震源域・震度分布・津波高等の推計結果

モデル検討会では、東北地方太平洋沖地震の大すべり域の北側領域(岩手県以北の日本海溝及び千島海溝沿いの領域)における最大クラスの津波断層モデルの検討にあたり、過去6千年間における津波堆積物資料を基に推定することを基本とし、岩手県沖から北海道日高地方の沖合の日本海溝沿いの領域を日本海溝モデル、襟裳岬から東の千島海溝沿いの領域を千島海溝モデルとして区分けし検討を行った。

この津波断層モデルから推定された地震の規模は、日本海溝モデルがモーメントマグニチュード(Mw)9.1、千島海溝モデルがMw9.3である。この津波断層がずれ動いた際は、岩手県から北海道の太平洋側の広い範囲で強い揺れが想定される(図表3-2-1)。

津波高は、東北地方太平洋沖地震と比べると、青森県以北で今回推計した津波高の方が高くなり、岩手県内では、海岸地形にもよるが、宮古市付近より北で今回推計した津波高の方が高くなるところがある(図表3-2-2)。

図表3-2-1 震度分布図(左:日本海溝モデル、右:千島海溝モデル)
図表3-2-1 震度分布図(左:日本海溝モデル、右:千島海溝モデル)
図表3-2-2 想定される沿岸津波高
図表3-2-2 想定される沿岸津波高
(3)被害想定結果

被害想定結果は地震の発生時期や時間帯の前提条件により大きく異なるが、日本海溝モデル・千島海溝モデルのそれぞれについて取りまとめている(図表3-2-3)。

被害想定では、被災地が積雪寒冷地であることを踏まえ、津波から難を逃れた後、二次避難が困難で、屋外で長時間寒冷状況にさらされることで低体温症により死亡のリスクが高まる者を低体温症要対処者とし、その人数を低体温症要対処者数として今回新たに算出している。

また、被害想定では防災対策を徹底することにより、死者数が8割減になる、低体温症要対処者となるリスクを最小化できるなど、被害量を減じることができることも併せて示している(図表3-2-4)。

図表3-2-3 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震 被害想定結果 概要
図表3-2-3 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震 被害想定結果 概要
図表3-2-4 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震 防災対策の効果
図表3-2-4 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震 防災対策の効果

行政のみならず、地域、住民、企業等の全ての関係者が被害想定を自分ごととして冷静に受け止め、何ら悲観することなく、

<1>強い揺れや弱くても長い揺れがあったら迅速かつ主体的に避難する。

<2>強い揺れに備えて建物の耐震診断・耐震補強を行うとともに、家具の固定を進める。

<3>初期消火に全力を挙げる。

等の取組を行うことにより、一人でも犠牲者を減らす取組を実施することが求められる。

(4)最終報告

日本海溝・千島海溝WGでは被害想定結果を踏まえ、当該地震の特徴及び課題を整理し、対策の基本的方向性を明らかにし、具体的に実施すべき対策を最終報告書に取りまとめた(図表3-2-5)。

図表3-2-5 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策について 最終報告 概要
図表3-2-5 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策について 最終報告 概要

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害の特徴は、「巨大な津波により膨大な数の死者が発生」、「建物被害、ライフライン・インフラ被害など、甚大な被害が発生」、「北海道から千葉県までの広域にわたり被害が発生」することである。これらに加え、被害が想定される地域の特性である「積雪寒冷地特有の課題」や「北海道東北地方沿岸地の特性」による影響も考慮した基本的方向が、次のとおり示された。

<1>津波からの人命の確保

津波対策の目標は、津波から「命を守る」ことである。避難意識の改善や避難タワー等の活用・整備等の取組により、被害を減らすことが可能である。防災教育や防災訓練を通じた住民の避難意識の向上、津波避難タワーや避難路の整備等による避難距離や避難時間の短縮、低体温症のリスク軽減のため避難場所・避難所での防寒対策に取り組む必要がある。

<2>各般にわたる甚大な被害への対応

死傷者発生の主要因は津波によるものだが、火災、建物倒壊による死者数はそれに次ぐものであり、自力脱出困難者の発生や道路閉塞、火災、避難者の発生等も被害拡大の要因となる。これらについても対応するため、耐震化、出火・延焼防止対策、ライフライン・インフラ施設の耐震化・耐浪化等の取組を推進する必要がある。

<3>広域にわたる被害への対応

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震では、日本海溝モデル・千島海溝モデルの双方で、千葉県から北海道にかけて、高さ3m以上の大津波が襲来するなど、広域にわたり被害が発生する。しかし、積雪寒冷下では救助・物資運搬等の活動に時間を要し、本州等からの広域支援が十分に機能しない懸念がある。このため、積雪寒冷を踏まえた広域的な支援体制の構築、救助・物資運搬等の人員・装備備蓄の確保、行政・企業等の事業継続計画(BCP)の策定・充実を推進する必要がある。

<4>対策を推進するための事項

対策を推進するに当たり、防災意識の高い地域社会の構築、科学的知見の蓄積・デジタル技術の活用等の取組を総合的に推進する必要がある。また、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の想定震源域近傍でMw7.0以上の地震が発生した際には、巨大地震の発生の可能性が普段より高まるため、後発の巨大地震に備えた注意を促す情報発信と、それを受けて行政・企業・国民が普段からの地震への備えの再確認をし、後発地震が発生した際の円滑な避難等、被害を軽減するための準備が必要となる。

また、被害想定等を踏まえ、「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」の改正案が議員立法により国会に提出され、衆参両院の審議を経て、令和4年5月13日に可決・成立した。


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