3 原子力防災の改善


3 原子力防災の改善

平成23年3月11日に発生した東日本大震災では,東京電力福島第一原子力発電所において,地震及び津波により長期間にわたる全交流電源喪失及び原子炉の冷却機能の喪失に陥ったことから,原子炉の炉心が損傷して大量の放射性物質が環境中に放出されるという深刻な事態に至った。

この事態に対しては,同日20時50分に,福島県知事が,同発電所の半径2km圏内の避難を指示し,その後,原子炉の状況等に鑑み,「原子力災害対策特別措置法」に基づき,原子力災害対策本部長が,福島県知事を含む関係地方公共団体に対して,住民の避難等を指示した。具体的には,同日21時23分に同発電所の半径3km圏内の避難と半径3〜10km圏内の屋内退避を,3月12日5時44分に半径10km圏内の避難を,同日18時25分に半径20km圏内の避難を,3月15日11時には半径20km圏内の避難と半径20〜30km圏内の屋内退避を,それぞれ指示した。

しかし,避難指示区域への立入禁止の周知にもかかわらず,当該区域の立入りが確認されたことから,住民防護の観点から,「原子力災害対策特別措置法」において読み替えて適用される「災害対策基本法」に基づき,同発電所の半径20km圏内を警戒区域に設定した。また,事故発生後からの累積線量や発電所の状況に鑑み,緊急時避難準備区域及び計画的避難区域が設定された。

原子力安全委員会は,東京電力福島第一原子力発電所事故からの教訓及び国際的な考え方を取り入れ,防災対策の抜本的な見直しを図るため,6月16日,同委員会原子力施設等防災専門部会に対して,「原子力施設等の防災対策について」(昭和55年6月原子力安全委員会決定,平成22年8月一部改訂)及び関連の指針類に反映させるべき事項を検討し,報告するよう指示を行った。

この指示を受けて,原子力施設等防災専門部会防災指針検討ワーキンググループにおいては,「『原子力施設等の防災対策について』の見直しに関する考え方について(中間取りまとめ)」を取りまとめ,平成24年3月22日に原子力安全委員会に報告した。中間取りまとめにおいては,予防的防護措置を準備する区域(PAZ)の範囲の目安をおおむね5km,緊急防護措置を準備する区域(UPZ)の範囲の目安をおおむね30km,プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域(PPA)の範囲の参考値をおおむね50kmとすること等の考え方(図表1-1-26参照)や,オフサイトセンターの在り方に関する課題等が示された。

図表1-1-26 PAZ,UPZ,PPAについて 図表1-1-26 PAZ,UPZ,PPAについての図表

また,今回の事故時の対応においては,<1>意思決定を行う官邸の情報不足,<2>情報の入手・伝達ルートの機能不全,<3>官邸と原子力安全・保安院の広報の二元化による混乱,<4>オフサイトセンターの機能不全,<5>膨大な原子力被災者に対する当初の支援対応体制の整備不足等が課題となった。

これらの課題に対して,政府としては,<1>PAZの考え方を踏まえ,直ちに避難指示を行う等,可能な限り新たな考え方を取り入れた対応を行えるようにするとともに,原子力災害対策本部の事務機能を強化して情報収集の迅速化を図る等,対応方針を迅速に決定し実施する体制の構築,<2>発電所・事業者本店等におけるTV会議システムを整備する等官邸の意思決定を支える情報収集機能の改善,<3>原子力災害対策本部事務局の広報担当は閣僚の会見に同席して専門的説明を補佐する等情報発信の一元化,<4>オンサイト対応については,電力会社本店等に政府と事業者との連絡拠点の確保等を行い,オフサイト対応については,オフサイトセンターにおける通信途絶に備えたモバイルネットワークの配備,放射線防護対策としての防護服やマスクの充実等を図る等,オフサイトとオンサイトの拠点を分担した上で各機能の向上,<5>避難後の住民支援について被災者支援チームが特化して対応する等事後対策の充実等,原子力緊急事態が発生した場合における対応の改善を進めている。

今回の事故を踏まえて,原子力安全や原子力防災の法体系等についても様々な課題が出てきた。このため,事故から得られた知見を基に新たな安全規制の仕組みの導入,安全基準の強化等を含め,原子力安全や原子力防災の法体系等の見直しも進めることとしている。

そして,政府は,関係組織の再編及びその機能強化を行うとともに,今般の原子力発電所の事故を踏まえた原子力安全規制の強化と,原子力災害対策本部における本部員の拡充等による体制強化等強固な防災体制の構築を行うべく,関係法案を第180回通常国会に提出した。


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