3−1 震災対策 (9)中部圏・近畿圏直下地震対策



(9)中部圏・近畿圏直下地震対策

a 中部圏・近畿圏直下地震の姿

(a) 発生の可能性

中部圏・近畿圏には多くの活断層があり,次の東南海,南海地震の発生に向けて,中部圏及び近畿圏を含む広い範囲で地震活動が活発化する可能性が高い活動期に入ったと考えられるとの指摘もあり,実際,過去の事例によると,西日本では,東南海,南海地震の前後に地震活動が活発化する傾向が見られる(図2−3−47)。この地域の市街地は府県境界を越えて広域化しており,大規模な地震が発生した場合,甚大かつ広範な被害が発生する可能性がある。

図2−3−47 西日本の内陸における地震活動 図2−3−47 西日本の内陸における地震活動の図

(b) 被害想定

中央防災会議「東南海,南海地震等に関する専門調査会」では,地震発生のメカニズム等についての新たな知見を反映しつつ,防災的な観点から,中部圏,近畿圏に影響を与える地震動の強さ等の推計を行うとともに,この地域の特性を考慮に入れた上で,地震発生時の被害想定を実施した。

<1> 対象地震

名古屋,京都,大阪,神戸など大都市や工業地帯への影響,文化財保護,過去の地震発生時期等を考慮し,中部圏,近畿圏に存在する活断層で発生する地震のうち11のものを想定した。更に,名古屋市直下及び阪神地域直下には活断層は見られないが,これらの直下にもM6.9の地震が発生すると想定し,検討することとした(図2−3−48)。地盤構造モデル等を構築し,各地震について詳細な検討を進め,平成18年12月に想定震度分布を公表した(図2−3−49,50の<1>)。得られた震度分布を基に,各地震による被害想定及び対策の検討を行った。

<2> 上町断層帯の地震による被害想定結果

近畿圏において最大の被害をもたらす上町(うえまち)断層帯の地震では,大阪府を中心に,冬の昼12時・風速15m/sのケースで建物全壊棟数約97万棟,冬の朝5時・風速15m/sのケースで死者数約4万2千人の被害が想定される(図2−3−49)。この理由としては,活断層が大阪市の中心部を通っており,市街地の広い範囲が震度6強以上の領域となること,この地域の地盤が非常に軟弱であること,更に老朽木造家屋が密集している地区が多数存在していること,等が考えられる。

更に,経済被害については,直接被害額約61兆円,間接被害額約13兆円(いずれも冬の昼12時・風速15m/sのケース),交通寸断による影響人流量約5,300万人,影響物流量約3,700万トン,影響額約3.4兆円(いずれも6ヶ月復旧時)と想定される。

ライフライン被害については,冬の昼12時・風速15m/sのケースで,断水率約67%,停電率約41%,下水道機能支障率約31%,不通回線率約23%,ガス供給停止率約82%(いずれも1日後の大阪府内の値)と想定される。

避難者数については,冬の昼12時・風速15m/sのケースで,一日後の避難者数を約550万人,このうち親戚,知人宅に避難する人等を除いた実際に避難所で生活する人数は約360万人と想定される。また,交通機関がストップすることにより発生する帰宅困難者数を約200万人と想定した。

<3> 猿投−高浜断層帯の地震による被害想定結果

中部圏において最大の被害をもたらす猿投−高浜(さなげ−たかはま)断層帯の地震では,愛知県を中心に,冬の昼12時・風速15m/sのケースで建物全壊棟数約30万棟,冬の朝5時・風速15m/sのケースで死者数約1万1千人の被害が想定される(図2−3−50)。

経済被害については,直接被害額約24兆円,間接被害額約8兆円(いずれも冬の昼12時・風速15m/sのケース),交通寸断による影響人流量約6,600万人,影響物流量約4,000万トン,影響額約3.9兆円(いずれも6ヶ月復旧時)が想定される。

ライフライン被害については,冬の昼12時・風速15m/sのケースで,断水率約56%,停電率約24%,下水道機能支障率約21%,不通回線率約14%,ガス供給停止率約99%(いずれも1日後の愛知県内の値)を想定した。

避難者数については,冬の昼12時・風速15m/sのケースで,一日後の避難者数を約250万人,避難所生活者数約160万人と想定した。また,帰宅困難者が約96万人発生すると想定される。

その他の地震についても,建物全壊棟数や死者数等の被害想定を行った。

図2−3−48 検討対象とした活断層等 図2−3−48 検討対象とした活断層等の図
図2−3−49 上町断層帯の地震(M7.6)により想定される震度分布及び被害想定結果 図2−3−49 上町断層帯の地震(M7.6)により想定される震度分布及び被害想定結果の図
図2−3−50 猿投−高町断層帯の地震(M7.6)により想定される震度分布及び被害想定結果 図2−3−50 猿投−高町断層帯の地震(M7.6)により想定される震度分布及び被害想定結果の図

<4> その他の特徴的な被害等

中部圏・近畿圏の特徴として,文化遺産が多く集中している点が挙げられる。特に近畿圏には,京都や奈良を中心に,全国の重要文化財(建造物)の約4割,国宝(建造物)の約7割が集中し,また,多くの世界遺産が存在している。これら文化遺産の数が多い地域に大きな被害を及ぼすと想定される6地震について,震度6強以上の揺れ又は一般の建物の焼失があるメッシュに所在する文化遺産を抽出し,被災可能性を評価した(表2−3−11)。

京都市に大きな被害を及ぼす花折(はなおれ)断層帯の地震では,京都盆地のほぼ全域が震度6強以上となり,全国の国宝(建造物)の約1/4に相当する約50件の建造物,重要文化財(建造物)の約1割に相当する約260件の建造物が,震度6強以上の揺れ又は一般の建物の焼失があるメッシュに所在する。

また,中央構造線断層帯の地震では,大阪府,奈良県,和歌山県で計47集落,約6,900戸の孤立集落が発生する可能性がある。更に,養老−桑名−四日市断層帯の地震では,四日市臨海地区の石油コンビナートで漏洩が約50施設,破損等が約700施設で発生すると想定される。

上記のほか,交通施設被害,建物倒壊による道路閉塞の発生,エレベーター内閉じ込め,地下街の被害,ターミナル駅の被害等の想定項目について推計を行った。

表2−3−11 被災可能性のある国宝・重要文化財(建造物)の数(冬昼12時,風速15m/s) 表2−3−11 被災可能性のある国宝・重要文化財(建造物)の数(冬昼12時,風速15m/s)の表

b 中部圏・近畿圏直下地震対策の概要

中央防災会議「東南海,南海地震等に関する専門調査会」では,これら中部圏・近畿圏の直下の地震の発生による被害想定結果をもとに,この地域が抱える地震防災上の課題を明確化した上で,効果的な地震防災対策のあり方について検討が行われ,平成20年12月に「中部圏・近畿圏の内陸地震に関する報告」をとりまとめた。

この報告を受け,中央防災会議では,中部圏・近畿圏直下地震における地震防災対策のマスタープランとなる中部圏・近畿圏直下地震対策大綱を平成21年4月に策定した。この大綱では,建築物の耐震化や火災対策等の予防対策,救助・救命対策等の応急対策,復旧・復興対策等に加え,中部圏・近畿圏の特徴を踏まえた以下のような対策を柱としている。

<1> 木造住宅密集市街地の防災対策の推進

<2> 京都,奈良を中心とする文化遺産の被害軽減

<3> 地下街,高層ビル,ターミナル駅等の安全確保

<4> ゼロメートル地帯の安全確保

<5> 大阪湾・伊勢湾に集積する石油コンビナート地域及び周辺の安全確保

<6> 中山間地域等における孤立危険性の高い集落への対応


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