3−2 津波災害対策



3−2 津波災害対策

(1)津波の発生と災害の状況

津波は,地震による海底の急激な上下変動等の地形変化が原因で発生し,津波の規模は,主に地震の規模(マグニチュード)によって決まり,そのほか地震の起こり方等にも影響される。

津波は水深の深いところでは時速数百kmもの速さで伝播し,海岸に近づくにつれ,水深や地形による増幅効果等により何倍もの高さとなる。特に,津波が湾内に入る場合,湾奥では更に高くなることが多い。また,第1波よりも後続の波の方が高くなることがある。

我が国において,津波により大きな被害を生じたものとしては,表2−3−12のようなものがある。このほか国外においても,平成16年12月26日に発生したスマトラ沖大地震及びインド洋津波によって,インド洋沿岸各国で多大な被害が出たことは記憶に新しいところである。

表2−3−12 明治以降,津波により大きな被害をもたらした主な地震 表2−3−12 明治以降,津波により大きな被害をもたらした主な地震の表
(2)津波災害対策の概要

津波は,地域特性によって津波の高さや到達時間,被害の形態等が異なるため,地域防災計画等に基づき,地域の特性に応じて,海岸堤防や避難路等の施設整備等のハード対策に併せて,迅速かつ的確な津波警報等の発表,海岸堤防や津波警報を考慮した津波浸水予測図の作成,津波浸水予測図に基づく避難対象地域の指定,津波避難困難地域の抽出と津波避難ビル等の指定,津波警報を覚知した場合等の避難指示の発令,津波警報・避難指示伝達の迅速化による避難の的確な実施,実際の避難に有効な津波ハザードマップの公表,住民参加型の実践的な津波避難訓練の実施等のソフト対策が必要である。

a 迅速かつ的確な津波警報等の発表

気象庁は地震計による観測データを24時間リアルタイムで監視することにより,日本近海で発生する地震に対して即座に震源や規模等を推定し,津波の有無を判定し,津波の発生が予想される場合には津波警報等を地震発生後,最速2分以内で津波警報等を発表することとしている(緊急地震速報の技術の活用による)。津波警報等は津波の数値シミュレーション技術を利用した予測に基づき,府県単位程度の66の予報区( 附属資料28 )に対して,津波の高さ・到達予想時刻が具体的な数値で発表される。更に,平成19年度には津波予測のデータベースの改善や,地震発生メカニズムを活用した津波警報等の速やかな更新や解除を行うことにより,的確な津波警報等の発表に努めている。

発表された津波警報等は,地上回線や衛星回線を通じてただちに地方気象台等へ伝えられるとともに,気象情報伝送処理システムや防災情報提供システム,衛星回線などを活用して,ただちに受信端末を設置している防災関係機関や報道機関に提供される。また,それぞれの機関から住民,船舶などに伝達される(図2−3−51)。

また,海外で発生した地震により発生した大きな津波(遠地津波)が日本沿岸まで伝播し大きな被害を及ぼすことがあるが,日本から遠く離れた太平洋で発生した大地震に伴う津波に対しては,気象庁は世界の地震観測データを24時間リアルタイムで監視し,米国海洋大気庁の太平洋津波警報センターと密接な連携を取りながら,我が国沿岸に対する津波の影響を予測し,津波警報等を発表している。

表2−3−13 津波警報等の種類と津波の高さ 表2−3−13 津波警報等の種類と津波の高さの表
図2−3−51 気象業務法に基づく津波警報等の法定伝達ルート 図2−3−51 気象業務法に基づく津波警報等の法定伝達ルートの図

b 海岸保全施設の整備

平成16年12月26日に発生したインドネシア・スマトラ島沖大地震及び津波を踏まえて,国土交通省では,国内の津波対策の現状と課題について総点検を行い,今後の基本的な方針をとりまとめるため「津波対策検討委員会」を発足させ,17年3月に提言を公表した。提言では,事前予防対策としてのハード整備中心の考えから,事前から事後にわたりハード整備及びソフト対策をあわせて展開し,被害の最小化を目指すという考え方へ転換した対策を,省庁連携の下に推進するよう求めている。

この提言の施策を具体化するものとして,農林水産省及び国土交通省では,海岸堤防の耐震化等が不十分である現状を踏まえ,水門・陸閘の自動化・遠隔操作化や津波ハザードマップの作成をする上で必要とされる堤防等の耐震性調査や浸水予測調査等を推進する「津波・高潮危機管理対策緊急事業」を創設(平成17年度創設の「津波危機管理対策緊急事業」を,平成18年度にゼロメートル地帯の高潮対策へも拡充)し,津波対策を推進している。

c 津波浸水予測図の作成と津波避難計画の策定等

平成10年3月に国土庁,農林水産省,水産庁,運輸省,気象庁,建設省及び消防庁(省庁名は当時)が共同して,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」を取りまとめ,津波対策強化の基本的考え方,津波に対する防災計画の基本方針及びその策定手順等を示した。

また,府県単位程度の予報区に発表される津波警報等を効果的に活用し,事前に地域の津波による危険性を把握するためには,津波により浸水すると予測される区域を事前に地図上に表示することが有効であるため,同手引きの別冊として,国土庁,気象庁及び消防庁(省庁名は当時)が共同して,津波浸水予測図の作成方法等を示す「津波災害予測マニュアル」を同年3月に取りまとめた。

平成11年には,津波対策関係省庁連絡会議(国土庁・内閣官房・警察庁・防衛庁・農林水産省・運輸省・海上保安庁・気象庁・郵政省・建設省・消防庁〔省庁名は当時〕)において,国民の防災意識を向上させ,津波災害を軽減させるための重要課題として,

[1]地域に応じた津波防災対策の推進(津波浸水予測図の活用推進)

[2]津波警報等の伝達の迅速化・確実化の推進

[3]被害情報の早期評価・把握と防災機関の連携強化
を確認し,申し合わせを行った。

平成14年には,消防庁において,津波浸水予測図に基づく避難対象地域の指定など,地方公共団体等が津波避難計画の策定を行うにあたって留意すべき事項を「津波対策推進マニュアル検討報告書」(平成14年3月消防庁検討委員会報告)として取りまとめた。また,平成17年3月には津波避難場所や津波避難ビルなどを示す津波避難に係る標識の標準化のため,それらの図記号を国際標準化機構(ISO)に提案したところ,平成20年7月1日付けで国際規格化が決定した。更に,これら図記号は平成21年3月20日付けで,日本工業規格(JIS規格)として公示された。

ISO により国際標準化が決定した「津波に関する統一標識」の図記号(ISO20712—1:2008)

平成17年6月には,内閣府において,地形的な要因等により津波からの避難地確保が困難な場合への対応策として,堅固な中・高層建物を避難のための一時的な施設として利用するいわゆる津波避難ビル等の指定,利用・運営手法等を示す「津波避難ビル等に係るガイドライン」を策定,配布した。平成20年3月には,津波避難ビル等の指定状況の実態調査,津波避難ビル等の指定の際の課題や問題点の把握,優良事例の整理等を行い,その結果を取りまとめた報告書を公表し,さらなる津波避難ビル等の普及を進めている。

海上保安庁では,海上保安庁防災業務計画において津波に備えた災害応急対策を定めているほか,南関東地震,東海地震に備え,巡視船艇,航空機等の動員計画を策定している。また,全国の「港則法」の特定港(84港)を中心に「船舶津波対策協議会」を設置しており,関係機関の協力の下,各港において船舶津波対策の充実を図っている。

d 津波警報等に対応した避難指示等の発令

津波に対する避難については,「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(平成17年3月中央防災会議報告)において,津波警報を覚知した場合等には市町村長は避難対象地域に対して避難指示を発令することとされている。

平成18年11月15日及び平成19年1月13日に千島列島東方沖を震源とする大規模な地震が発生し,気象庁は北海道のオホーツク海沿岸から釧路支庁までの太平洋沿岸に津波警報を発表し,各市町村において避難指示・避難勧告が発令された。その際,住民の避難状況が低調であったなど津波避難についての課題が明らかになった。

このため,消防庁では,避難指示・勧告が発令された市町村を対象に,市町村の防災対策,住民の避難状況等の調査を行った。この調査結果によれば,11月15日に津波警報が発表された地域の避難所への避難率は13.6%に止まり,1月13日の避難所への避難率は8.7%と更に低下した(避難率は避難所に避難した避難者数を避難指示等の対象地域人口で除した割合である)。

このような状況の中,避難率が比較的高い市町村においては,ハザードマップを利用するなどして避難対象地域を選別して避難指示等を発令しており,このことにより,住民への避難指示等の伝達のため避難対象地域に行政側の人的・物的資源を集中的に投入できていること,さらに,同報無線や車両による巡回広報,消防団員等による個別訪問,自治会・町内会等への電話連絡などの多様な手段を活用して,きめ細かな対応を行っていることが明らかになった。

この調査結果を踏まえ,内閣府及び消防庁では,都道府県に対し連名で通知を発出し,「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」や「津波対策推進マニュアル検討報告書」等の主旨の再確認と,沿岸市町村における津波対策の一層の推進を要請した。

e 実際の避難に有効な津波ハザードマップの公表

内閣府と農林水産省及び国土交通省は,平成16年3月,「津波・高潮ハザードマップマニュアル」を作成した。更にマニュアルの配布に合わせ全国10箇所において,延べ約1,100名の防災担当者等を対象とした説明会を開催し,ここでの意見交換における要望にこたえるとともに,各地方公共団体における更なるハザードマップの整備・促進を目的として,これまで整備されているハザードマップを収集し,模範となる事例を整理した「津波や高潮の被害に遭わないために」を作成,配布した。津波ハザードマップは,全国の653沿岸市町村のうち,349市町村で公表されている(平成22年3月現在,内閣府調べ)。

しかし,平成22年2月に発生したチリ中部沿岸部を震源とする地震による津波への対応を通じて,ハザードマップに関する新たな課題が明らかになった。この地震は同月27日に発生し,翌28日に気象庁は青森県太平洋沿岸・岩手県・宮城県に津波警報(大津波)(予想津波高3m)を,その他の太平洋沿岸に津波警報(津波)を発表し,岩手県陸前高田市で1.9m(痕跡からの推定値),高知県須崎港で128cmなどを記録する津波が到達し,養殖施設などに甚大な被害が発生した。このときの避難指示等の対象地域の人口のうち市町村が避難所等で避難を確認した人数の割合が低かったことから,内閣府と消防庁は緊急住民アンケート調査を実施した。調査・分析の結果,<1>回答者のうち避難した人の割合は4割弱であり,避難した人の約6割が指定避難先以外(津波により浸水するおそれのない高台や親戚宅など)への避難であり,指定避難先へ避難した人の2倍近くであった。また,<2>避難しなかった人の半数以上が「高台など津波により浸水するおそれがない地域にいると思ったから」と回答しており,これは,ハザードマップを公表しているほとんどの市町村においては,過去最大級(高さ10mなど)の津波の浸水予想地域ないしは市内全域に避難指示等を発令しており,この対象地域が3mの警報に対しては広かったためと考えられ,市町村が津波警報で予想される津波の高さに応じた適切な地域に避難指示等を発令できるよう2段階などの避難対象地域を示したハザードマップの作成・公表等に向けた検討を国において進める必要がある。また,遠地津波の予測精度のさらなる向上に向けた取組を気象庁において進めることとしている。

図2−3−52 津波ハザードマップの例(釧路市) 図2−3−52 津波ハザードマップの例(釧路市)の図

f 津波避難訓練等の意識啓発活動の促進

住民に対する啓発活動については,千島列島東方沖を震源とする地震による津波避難を受けて,平成18年11月27日及び平成19年1月30日に内閣府において開催した「災害時の要援護者避難支援対策及び情報伝達に関する推進会議」が取りまとめた「津波避難についての課題と取組方針」の中で,関係省庁において次のような必要な対策を講ずることした。

気象庁では,津波警報等の発表時の予測値と実際の観測値との間で差が生じうる仕組みを出前講座等の機会を通じて周知・広報を図るとともに,津波警報等の適切な利用につながるよう,訓練の企画等を支援することとした。

内閣府では,「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する基本方針」等を踏まえ,「稲むらの火」の物語など地域の災害史を活用した津波・地震に関する防災教育の実施など,意識啓発活動の促進に努める。また,住民や自治体担当者への津波に対する意識調査を実施し,住民意識の向上に資する新たな施策を検討することとした。

国土交通省では,関係機関等と連携し,地震による津波を想定した「津波防災総合訓練」を,住民参加の下に引き続き実施することとした。


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