3−4 風水害対策



3−4 風水害対策

(1)近年の風水害の特徴

a 豪雨,台風等の状況

我が国では,毎年,5月上旬から7月中旬にかけての梅雨前線の活動や台風の影響により,各地で豪雨が発生している。年間では平均26.7個(1971〜2000年の統計)の台風が発生し,うち2.6個が北海道・本州・四国・九州のいずれかに上陸している(図2−3−68)。平成20年の台風発生数は22個,接近数は9個と平年を下回り,上陸した台風はなかった。

平成20年8月末豪雨においては,8月26日から27日にかけて低気圧が東シナ海を東に進み,西日本の太平洋側を中心に南からの暖かく湿った空気が流れ込み大雨となった。また,28日から31日にかけてこの低気圧が日本の南海上に進み,本州付近に停滞した前線に向かって南からの非常に湿った空気の流れ込みが強まり,更に,上空には寒気が流れ込んだことから大気の状態が不安定となって,中国,四国,東海,関東,および東北地方などで記録的な大雨となった。この期間,局地的な短時間の非常に激しい雨が降り,愛知県岡崎市岡崎では1時間雨量が146.5mmに達するなど,1時間雨量が記録を更新した地点が全国で21箇所となった。この大雨により,九州地方から東北地方にかけて,土砂災害,浸水害,住家損壊が発生し,住家の浸水などにより,人的被害として3名の死者・行方不明者が出たほか,住家被害では床上・床下浸水家屋が9,749棟(愛知県名古屋市を除いた集計。名古屋市の浸水被害は9,209世帯)となる被害が発生した。

図2−3−68 台風の日本への接近数の推移 台風の日本への接近数の推移の図
図2−3−69 平成20年の台風の発生箇所とコース 平成20年の台風の発生箇所とコースの図

b 水害の状況

我が国においては治山・治水事業の推進等により,水害による浸水面積(水害面積)は,昭和63年〜平成4年の平均が53,560haであるのに対し,平成15年〜19年の平均は25,996haと大幅に減少している(図2−3−70)。しかしながら,河川氾濫区域内への資産の集中・増大に伴い,近年,浸水面積当たりの一般資産被害額(水害密度)が急増している(図2−3−71)。

図2−3−70 水害面積の推移 水害面積の推移の図
図2−3−71 一般資産水害被害及び水害密度の推移(年平均・平成12年価格) 一般資産水害被害及び水害密度の推移(年平均・平成12年価格)の図

c 土砂災害の状況

地すべり,土石流,がけ崩れといった土砂災害は,その原因となる土砂の移動が強大なエネルギーを持つとともに,突発的に発生することから,人的被害につながりやすく,また家屋等にも壊滅的な被害を与える場合が多い。

一般に土砂災害は,土砂移動の発生形態により大きく,地すべり,土石流,がけ崩れに分類される。火砕流を除外すると平成元年〜20年の20年間の平均で毎年約996件の土砂災害が発生している(図2−3−72)。

発生件数の内訳は,がけ崩れが火砕流を除く全体の約65%を占め,死者・行方不明者もがけ崩れによるものが最も多い。一方で地すべり・土石流は,がけ崩れに比べ発生件数は少ないが,阪神・淡路大震災に伴う西宮市での地すべり(34名),蒲原沢土石流災害(14名),出水市の土石流災害(21名),水俣市の土石流災害(15名)など,多数の死者・行方不明者が発生する災害があった。平成20年は,岩手・宮城内陸地震や平成20年8月末豪雨などにより,奈良県,兵庫県,香川県を除く全国44都道府県で695件の土砂災害が発生し,人的被害として20名の死者・行方不明者が発生した。

近年の状況は,(表2−3−15)のとおりである。

図2−3−72 土砂災害の発生状況の推移 土砂災害の発生状況の推移の図
表2−3−15 近年の主な土砂災害による死者・行方不明者の状況 近年の主な土砂災害による死者・行方不明者の状況の表

d 風害の状況

風害は,飛来物による被害,建物・施設の損壊,高波,樹林の倒壊,フェーン現象による火災延焼などの形態がある。

竜巻は,日本全国どこにおいても季節を問わず台風,寒冷前線,低気圧に伴って発生している。年間では,平均約13個(1991〜2006年の統計)の竜巻の発生が確認されている(図2−3−73)。

平成18年9月には,台風第13号の九州地方への接近に伴い,宮崎県延岡市において竜巻災害が発生し,死者3名など,甚大な被害が発生した。現地調査の結果,被害長さ7.5km,幅150〜300mにおよび,ほぼ連続的に建物の倒壊,屋根や壁の損傷,屋根瓦や窓ガラス等の破損等の大きな被害となった。更に,竜巻の通過したコースが市街地であったことから,飛散物により被害が増大した。竜巻の強度は藤田スケールでF2と推定された。

また,同年11月には,宗谷海峡付近にある低気圧からのびる寒冷前線の通過した北海道佐呂間町において,積乱雲の発達に伴い竜巻が発生し,道路工事現場の仮設建築物を吹き飛ばすなど,死者9名という我が国の竜巻観測史上最大の死者数のほか,負傷者31名,住宅全壊7棟に及ぶ被害がもたらされた。現地調査の結果,被害地域の形状は,長さ約1.4km,幅100〜300mの細長い帯状で,竜巻の強度は国内で観測された竜巻では最大級となる藤田スケールでF3と推定された。

(参考:藤田スケール)

被害の状況から見積もる竜巻の強さ(風速)の指標の一つ。竜巻研究の第一人者,シカゴ大学故藤田哲也教授が提唱したもの。スケールはF0からF5まであり,F2は風速50〜69m/s(約7秒間の平均),F3は風速70〜92m/s(約5秒間の平均)である。

図2−3−73 竜巻の発生位置の分布図 竜巻の発生位置の分布図の図

e 高潮災害の状況

高潮災害に対しては,海岸保全施設の整備や気象情報の精度向上等,積極的対策がなされてきたため,近年においては大きな被害は発生していなかった。

しかしながら,平成11年9月に熊本県で,台風第18号により12名の死者が,瀬戸内地域の岡山県宇野港,香川県高松港などで記録的な潮位を観測した平成16年8月の台風第16号により3名の死者が出ている。昭和以降の主な高潮災害は(表2−3−16)のとおりである。

表2−3−16 昭和以降の主な高潮災害 昭和以降の主な高潮災害の表
(2)風水害対策の概要

a 大規模水害対策

平成17年8月のハリケーン・カトリーナ災害では,ニューオーリンズ市域の約8割が浸水し,その期間は約1か月半に及んだ。また,約30万棟の建物が被災し,約1,800名の方が亡くなるとともに,通信,電力をはじめとするライフライン,教育施設,医療機関など社会基盤の多くが被害を受け,災害から3年半が経過しても復興途上の段階である。また,平成20年のサイクロン・ナルギスやハリケーン・グスタフなど,近年世界的に大規模な水害が多発している。

我が国においても,短時間強雨の発生頻度が増加傾向にあり,更に,地球温暖化による大雨の頻度の増加や海面水位の上昇など,防災面から懸念される予測が出されている。

これまで,治水施設等の整備は着実に進められてきており,相当程度の洪水までは,対応できるようになってきているが,現段階では治水施設等は整備途上であり,大規模な洪水等により被災する可能性が常に存在している。加えて,高齢化社会の到来により災害時要援護者の増加,旧来型の地域コミュニティの衰退,水防団員の減少等,地域防災力が低下し,はん濫した場合の備えがますます重要になってきている。

更に,首都地域は,利根川や荒川など大河川の洪水はん濫や高潮はん濫が発生した場合の浸水区域に存在し,東京湾周辺にはゼロメートル地帯が広がっており,それらの地域には政治,行政,経済機能が集積している。そのため,大河川の洪水はん濫や高潮はん濫が発生した場合には,甚大かつ広域的な被害の発生が想定される。

このような状況を踏まえ,首都地域において甚大な被害の発生が予想される利根川,荒川の洪水及び東京湾の高潮によるはん濫を対象とし,大規模な水害が発生しても被害を最小限にとどめる対策を検討するため,平成18年6月2日,中央防災会議に「大規模水害対策に関する専門調査会」を設置し,第1回専門調査会を平成18年8月29日に開催した。

本専門調査会は,平成21年3月までに14回開催され,これまでにレーザープロファイラーを活用した利根川・荒川流域のはん濫地形の把握やはん濫形態の類型区分,詳細な排水計算モデルの構築を行い,洪水はん濫時の浸水想定を公表するとともに,国内では初めて,洪水はん濫による死者数及び孤立者数等の人的被害の想定や,超過洪水(約1000年に1度の発生確率の洪水)時の被害想定等を行い,公表した(図2−3−74〜図2−3−80)。

また,平成21年1月には,荒川堤防決壊時における地下鉄等の浸水想定について結果をとりまとめ,公表した(図2−3−81)。

国土交通省においては,平成21年4月に,東京湾沿岸の現時点での高潮防護能力の検証及び長期的な気候変化に対するリスクの把握を目的とした高潮浸水想定を公表しており,今後これらを用いて被害想定を検討することとしている。

現在,これらの被害想定結果や過去の大規模水害時の状況等を踏まえて,避難率の向上,広域避難体制等の整備,逃げ遅れ者の被災回避,孤立者の救助・救援,災害時要援護者の被害軽減,地下空間等における被害軽減,病院等における被害軽減,公的機関等の業務継続性の確保,ライフライン・インフラの浸水被害による影響の軽減と早期復旧,はん濫拡大の抑制と排水対策の強化等の対策の検討が進められているところである。

ハリケーン・カトリーナによるニューオーリンズ市内の浸水状況 ハリケーン・カトリーナによるニューオーリンズ市内の浸水状況の写真 出典:FEMAのHPより
ハリケーン・カトリーナによる浸水からボートで救出される人々 ハリケーン・カトリーナによる浸水からボートで救出される人々の写真 出典:FEMAのHPより
図2−3−74 利根川の各類型の浸水想定 利根川の各類型の浸水想定の図
図2−3−75 荒川の各類型の浸水想定 荒川の各類型の浸水想定の図
図2−3−76 利根川の各類型区分別の死者数 利根川の各類型区分別の死者数の図
図2−3−77 救助活動後の孤立者の推移(避難率40%:首都圏広域氾濫) 救助活動後の孤立者の推移(避難率40%:首都圏広域氾濫)の図
図2−3−78 排水施設の稼働による浸水継続時間別の浸水区域内人口の変化(首都圏広域氾濫,1/200年) 排水施設の稼働による浸水継続時間別の浸水区域内人口の変化(首都圏広域氾濫,1/200年)の図
図2−3−79 排水施設の稼働状況別の死者数(首都圏広域氾濫,1/200年) 排水施設の稼働状況別の死者数(首都圏広域氾濫,1/200年)の図
図2−3−80 1/200年の発生確率の洪水により堤防が決壊した場合の死者数と約1/1000年の発生確率の洪水により堤防が決壊した場合の死者数の比較(首都圏広域氾濫) 1/200年の発生確率の洪水により堤防が決壊した場合の死者数と約1/1000年の発生確率の洪水により堤防が決壊した場合の死者数の比較(首都圏広域氾濫)の図
図2−3−81 止水板等の高さの違いによる地下鉄等の浸水状況の比較 止水板等の高さの違いによる地下鉄等の浸水状況の比較の図

b 洪水・内水ハザードマップの公表状況

防災能力の向上や災害時の被害軽減を図る有効な方法の一つとして,防災情報の公表,提供があげられる。最近では各自治体で,自然災害による被害の可能性を示すハザードマップや被害想定などの防災情報が数多く提供されるようになった。水害においては,特にハザードマップが有効で,洪水時等の影響範囲及び避難所等を示すことで,被害の予防や軽減に対する日頃の活動や備えの必要性を啓発できる。

また,平成16年の水害において洪水予報の難しい中小河川において被害が多発したことから,平成17年に水防法が改正され,洪水予報を行う大河川以外の主要な中小河川を,避難勧告発令の目安となる特別警戒水位への到達情報の周知等を行う河川(水位情報周知河川)として指定した。洪水予報河川は348河川,水位周知河川は1,286河川(平成21年3月末現在)が指定され,両河川とも浸水想定区域の指定・公表が義務づけられている。そのうち,1,335河川(平成21年3月末現在)で指定・公表がされており,円滑かつ迅速な避難を行うことができるように市町村による洪水ハザードマップの作成推進等が行われ,914市町村で洪水ハザードマップの作成・公表が完了している(平成21年3月末現在)。

一方,河川の氾濫ではなく,市街地に降った短時間強雨等による浸水については,内水ハザードマップの作成推進等を行っており,84市町村で内水ハザードマップの作成が完了している(平成21年2月現在)。さらなる作成推進等を図るため,平成20年度に,洪水ハザードマップなど他のハザードマップとの連携や効果的な公表・活用方法等について内容を充実した「内水ハザードマップ作成の手引き(案)」を公表した。

更に,各地方自治体において,行政窓口での閲覧,配布,各戸への配布,公民館,病院等での閲覧,広報誌,ホームページ,電話帳への掲載,ハザードマップを使った避難訓練,小中学校の総合学習教材としての活用,配布にあたっての住民説明会の実施などにより,洪水・内水ハザードマップの普及の取組みを行っている。河川はんらん時の浸水深や洪水時の避難所といった“地域の洪水に関する情報の普及”を目的として,これらの情報を洪水関連標識として表示する「まるごとまちごとハザードマップ」の取組みを平成18年より実施してきている。この取組みにおいて作成した「洪水」「堤防」「避難所(建物)」の3種類の図記号について,平成19年1月,日本工業規格(JIS)の案内用図記号として新たに定められた(日本工業規格JIS Z8210:2007(案内用図記号(追補1))。

c 局地的大雨対策

近年,局地的な大雨が多発しており,各地で水害や水難事故が発生している。兵庫県神戸市の都賀川では,平成20年7月28日に発生した局地的な大雨により,雨の降り始めから10数分程度という極めて短時間に水位が1m以上も上昇し,児童を含む5名が亡くなった。国土交通省では,平成20年8月に,中小河川の管理のあり方と水難事故防止について検討することを目的として,「中小河川における局地的豪雨対策WG」及び「中小河川における水難事故防止策検討WG」を設置した。平成21年1月には「中小河川における局地的豪雨対策WG報告書」及び「中小河川における水難事故防止策検討WG報告書」を公表した。

また,東京都豊島区雑司が谷の下水道工事現場において,平成20年8月5日に発生した局地的な大雨に伴う下水道管きょ内の急激な増水により,工事中の作業員5名が流されて亡くなった。国土交通省では,局地的な大雨に対し,雨水が流入する下水道管きょ内における工事等を安全に実施するために必要な対応策について検討することを目的として,「局地的な大雨に対する下水道管渠内工事等安全対策検討委員会」を設置した。平成20年10月には「局地的な大雨に関する下水道管渠内工事等安全対策の手引き(案)」を公表した。

また,気象庁では,平成21年2月に,局地的大雨という現象に対する国民の理解を深め,局地的大雨から身を守るための手引きとして,「局地的大雨から身を守るために−防災気象情報の活用の手引き−」を公表した。

d 竜巻等突風災害対策

竜巻等の突風災害については,平成18年9月の宮崎県延岡市や同年11月の北海道佐呂間町でも見られたとおり,突発的な破壊力が大きく,人命のみならず,住家,交通,ライフラインなどに甚大な被害をもたらす。こうした局地的な突風災害は,これまでは予測が困難であり,事前の避難等の対策が取りづらいものと考えられていたが,今般の甚大な被害を踏まえ,政府では平成18年11月に関係省庁による「竜巻等突風対策検討会」を設置し,平成19年6月に検討の結果を公表した。

検討会では,過去の突風災害のデータ収集や分析を行いつつ,竜巻等突風対策の取組状況を整理するとともに,有識者からのヒアリングを実施した。更に,竜巻対策が進んでいる米国における予警報体制,情報伝達・避難誘導体制,教育・意識啓発等の取組みの現状を調査し,その結果を共有した。

これらを踏まえ,突風災害の特徴や竜巻に遭遇した場合の身の守り方をまとめたパンフレットを作成するとともに関係省庁の今後の取組みを取りまとめた。気象庁では,平成20年3月から新たな府県気象情報として「竜巻注意情報」の提供を開始し,更に平成22年度から,より精度の高い突風等に対する短時間予測情報の提供を開始する予定である。


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