3−3 火山災害対策



3−3 火山災害対策

(1)火山活動と火山災害

我が国は環太平洋火山帯の一部に位置し,多数の火山を有する火山国である。我が国において現在も活動しているとされる火山,いわゆる活火山(気象庁で「過去およそ1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義)は108にのぼる。我が国は過去にも噴火等の活発な火山活動により,時として甚大な被害を受けてきた(表2−3−13)。

噴火等の活発な火山活動により発生する現象はさまざまであり,例えば,噴火の際の噴出物(溶岩流,噴石,火砕流,火山灰)や噴火等の活発な火山活動に伴い発生する現象(火山泥流,火山性地震,火山性地殻変動,山体崩壊,津波等),噴出物の堆積後に降雨等により発生する土石流などがあげられ,災害を引き起こす現象が多岐にわたっていることが火山災害の特徴である。主な現象の特徴は以下のとおりである。

a 噴石

噴火に伴い吹き飛ばされた岩石等が落ちてくる現象で,建物の破壊,死傷の被害が生じる。噴石は噴出後すぐに落下してくるため,噴火が発生してからの避難は困難である。

b 火砕流

高温の火山砕屑物(火山灰,軽石等)が,ガスと一団となり猛スピードで移動する現象で,その運動エネルギー及び熱エネルギーにより,通過域では焼失,破壊等壊滅的な被害が生じる。速度は時速100kmを超える場合もあり,発生後に避難することは困難である。特に火山灰を含む高温のガスを主体としたものを火砕サージといい,火砕流よりも広範囲かつ猛スピードで移動する。

c 火山泥流

噴火による火口湖の決壊や急激な融雪等により発生した泥水が岩石や木を巻き込みながら流下する現象で,地形にもよるが,時速30km〜60kmになる。破壊力が大きく通過域では壊滅的な被害が生じる。我が国では冬期冠雪する火山も多く,噴火による融雪が泥流発生の引き金として懸念される。

d 溶岩流

火口から流れ出た溶岩が流下する現象で,通過域では,破壊・焼失・埋没等の被害が生じる。流下速度は,溶岩の粘り気等によって異なるが,多くの場合,時速1km程度以下と遅いため徒歩による避難が可能である。まれに,溶岩の質や流下する地形によっては時速十数km程度になる場合もある。

e 降灰等

火口から空中に噴出した火山灰等が降ってくる現象で,多くの火山に共通した現象である。火山のすぐ周辺では厚く堆積することで埋没等の被害が生じる場合があるほか,噴火の規模によっては風にのって遠方に運ばれ堆積する。人的被害に結びつくことはまれであるが,火山活動が長期化すると周辺住民の生活に影響を与える。

f 火山ガス

火山の活動に伴い火口や噴気口から大気中に火山ガスが放出される。火山ガスの大半は水蒸気であるが,その他に二酸化硫黄,硫化水素,塩化水素等の有毒な成分を含むことがある。

表2−3−13 我が国の火山災害事例 我が国の火山災害事例の表
(2)火山災害対策の概要

a 火山災害対策の基本

平成12年3月の有珠山噴火では,噴火の2日前に「今後数日以内に噴火が発生する可能性が高い」旨の火山情報が気象庁から発表され,これを受けて,地元自治体による避難勧告・指示が発令された。また,事前に火山防災マップが作成され,住民避難の啓発活動が行われていたため,噴火前に住民の避難が迅速に行われ,人的被害が生じなかった。このように火山災害の軽減を図るには,火山噴火の予知体制を確立し,火山現象の状況を正確かつ迅速に関係行政機関及び付近住民に伝達するとともに,地元自治体を中心とした住民等の避難体制を構築することが重要である。

しかしながら,従前の気象庁が発表していた火山情報は,火山活動を主として噴火規模によって表現していたため,避難勧告等の発令の判断等具体的な防災対策との関連が必ずしも明確ではなく,また,火山の活動状況と避難行動の開始時期等をリンクさせた具体的な避難計画が策定されていないという指摘があった。更に,噴火の影響が広範囲に及ぶ場合に備えた避難体制を構築する必要があるが,そうした市町村等による広域的な連携体制が構築されていない場合もある。

このため,平成18年11月より「火山情報等に対応した火山防災対策検討会」を開催し,気象庁が発表する火山情報の改善,地元自治体等を中心とした火山防災体制の整備のあり方等について,検討を行った。そして,平成20年3月には,気象庁が発表する火山情報の改善,関係機関から構成される協議会等の平常時における火山防災体制の構築及び噴火時等の異常発生時における合同対策本部等の設置,具体的で実践的な避難計画の策定のあり方等,火山防災体制の構築に必要な事項について記述した「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」を取りまとめ,平成20年4月に中央防災会議に報告した。

b 火山情報の改善

火山情報等に対応した火山防災対策検討会は,平成19年6月,気象庁が発表する火山情報として,噴火活動の危険性とともに火口から居住地域までの距離等を考慮して,「避難準備」「避難」等の噴火時等にとるべき防災対応との関係を明確化して5段階に区分した「噴火警戒レベル」を導入することを提言した。

こうした新たな考え方を踏まえ,気象庁では,気象業務法を改正し,平成19年12月から,全国の火山を対象に,噴火警報及び噴火予報として発表することとした。噴火警報は,速やかに都道府県等の関係機関や報道機関に伝達され,これらの機関を通じて,一般住民に伝達される(表2−3−14,図2−3−66)。

噴火警戒レベルは,地元自治体の地域防災計画等において,その活用が定められた25の火山で発表している。噴火警戒レベルは,今後も地域防災計画等において,その活用を定めた火山に順次導入する予定である。

また,平成20年3月末から,一定規模以上の噴火時に降灰が予想される地域には「降灰予報」を,火山ガスの放出が継続し居住地域が高濃度になる可能性がある場合には「火山ガス予報」を発表している。

海上保安庁では,平成15年12月から海域火山データベース情報をインターネットにより公開している。

表2−3−14 噴火警報等と噴火警戒レベル 噴火警報等と噴火警戒レベルの表
図2−3−66 噴火警報の流れ 噴火警報の流れの図

c 火山情報の発表及び火山観測研究

(a) 火山噴火予知計画

我が国における総合的な火山観測研究体制の整備は,昭和49年からの第1次火山噴火予知計画(昭和48年文部省測地学審議会(現在の文部科学省科学技術・学術審議会(測地学分科会))建議)以来,数次にわたる計画に基づき進められている。第3次計画以降,全国の活火山を「活動的で特に重点的に観測研究を行うべき火山」,「活動的火山及び潜在的爆発活力を有する火山」(図2−3−67)に分類している。

平成16年度から20年度まで「第7次火山噴火予知計画」に基づき,監視観測や常時観測体制の強化整備を,火山の活動度や防災の視点から順次行うとともに,噴火の仕組みの理解や噴火の可能性を定量的に評価できるようにするため,基礎研究を幅広く推進してきた。更に,これまでの成果を引き継ぎ,火山噴火予知研究を着実に推進するため,平成21年度からの計画として「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」が平成20年7月に関係大臣に建議された。本計画は,地震と火山噴火が同じ地球科学的背景を持っており,共同での研究が現象理解に有効であることから,地震予知計画と発展的に統合し,「予測システムの開発」をより明瞭に志向した研究に重点を置いた5年計画となっている。

図2−3−67 我が国の活火山と,第7次火山噴火予知計画による対象火山の分類 我が国の活火山と,第7次火山噴火予知計画による対象火山の分類の図

(b) 火山噴火予知連絡会

火山噴火予知連絡会は,第1次火山噴火予知計画に基づき昭和49年6月に気象庁長官の諮問機関として設置されている。その主な任務は,関係諸機関の研究及び業務に関する成果及び情報の交換,火山噴火が起こった際における当該火山の噴火現象に関する総合判断,それらの火山情報の質の向上を図ることによる防災活動への寄与,及び火山噴火予知に関する研究,観測体制の整備のための検討である。

定例会は年3回開催され全国の火山活動についての総合判断が行われる。

d 活動火山対策特別措置法等に基づく対策

(a) 対策の概要

昭和47年以降,桜島の火山活動が活発になり,周辺地域の農作物等に大きな被害が生じたこと,また,昭和48年に浅間山が11年ぶりに噴火したことなどを契機として,昭和48年7月,住民等の生命・身体の安全並びに農林漁業の経営の安定を図ることを目的とする「活動火山周辺地域における避難施設等の整備等に関する法律」が制定された。その後同法は,昭和52年の有珠山噴火等を契機として全面的な見直しがなされ,翌年4月,現行の「活動火山対策特別措置法」に改められた。同法に基づき,桜島,阿蘇山,有珠山,伊豆大島,十勝岳,雲仙岳及び三宅島周辺地域において,避難施設,防災営農施設,降灰防除施設の整備,降灰除去等の事業が実施されている。最近では,東京都が三宅島の火山ガスに対する安全対策として,高感受性者世帯を対象に小型脱硫装置(火山ガスに含まれる二酸化硫黄を空気中から除去するもの)の設置を盛り込んだ避難施設緊急整備計画を平成17年3月に策定し,同計画に基づき,三宅村が消防庁による財政上の支援を受け整備を行っている。

(b) 桜島火山対策

桜島は昭和30年以降噴火活動が恒常化しており,平成19年においては噴火回数42回,鹿児島地方気象台における年間降灰量は22g/m 2 を記録した。

桜島及びその周辺地域は活動火山対策特別措置法に基づく避難施設緊急整備地域,降灰防除地域に指定されており,同法に基づき,これまでに避難施設緊急整備事業(昭和48〜57年度),防災営農施設整備事業等(昭和48年度〜),降灰除去事業(昭和53年度〜),降灰防除施設整備事業(昭和53年度〜)等の事業が実施されてきた。

e 火山ハザードマップの作成

火山周辺住民等の防災意識の高揚,地元自治体による適切な防災計画の策定,適正な土地利用の誘導等のためには,各火山の活動様式や特徴的な災害要因を考慮した,いわゆるハザードマップ(火山噴火災害危険区域予測図)の整備を推進することが必要である。

国土庁(現内閣府)では平成4年に火山噴火災害危険区域予測図作成指針を作成し,地方公共団体に利用してもらうとともに,平成5〜7年度には火山噴火災害危険区域予測図緊急整備事業を行い,これに基づき地方公共団体により有珠山,三宅島等10火山でハザードマップが作成された。また,地方公共団体に対して,消防庁からの作成の要請や国土交通省による技術的支援・協力の実施などにより,全国のハザードマップの作成を推進してきたところである。

なお,平成12年の有珠山噴火に際しては,ハザードマップに避難所等防災情報を記載した火山防災マップが事前に住民に周知され,避難の必要性が理解されており,また火山防災マップを参考に避難の範囲を決めて避難指示が出されたために,事前の円滑な住民避難につながった。

平成20年3月現在,「活動的で特に重点的に観測研究を行うべき火山」と分類される13火山のうち海底火山である伊豆東部火山群を除く12火山を含む,全国の38火山について火山防災マップが作成されている。

f 富士山火山広域防災対策

仮に富士山が噴火した場合には,首都圏にまで被害が及ぶなど広域にわたる災害となるおそれがあることから,広域的な防災対策を確立することが必要である。そこで,山梨,静岡,神奈川,東京の各都県,地元市町村,内閣府,国土交通省,消防庁,気象庁により「富士山火山防災協議会」を設置し,噴火した場合に発生するおそれがある被害とそれが生じる範囲,想定すべき噴火の様式等を検討して,平成16年6月に火山防災マップを作成した( http://www.bousai.go.jp/fujisan-kyougikai/fuji_map/index.html )。更に,富士山噴火時の避難対策や応急体制,火山との共生方策について検討し広域的な火山防災対策をとりまとめ,平成17年9月に中央防災会議に報告した。

こうした富士山火山防災協議会の検討成果を踏まえ,平成18年2月,国としての富士山の広域的な火山防災対策をとりまとめた「富士山火山広域防災対策基本方針」を中央防災会議で決定し,同基本方針に基づき,地元地方公共団体とともに,広域連携による富士山火山防災対策を積極的に推進していくこととした。

g 地方公共団体等における火山防災体制の構築

火山防災体制を構築するには,関係者から構成される協議会等の設置等の体制整備や,具体的で実践的な避難計画を策定することが必要である。しかしながら,協議会等が組織化されていない火山も多く,また,火山の噴火による影響を受けることが想定されるにもかかわらず火山に係る地域防災計画を策定していない地方公共団体もある。そこで,内閣府等では,各地方公共団体における火山防災体制の構築状況をフォローアップし,その取組みを促進することとしている。その一環として,火山防災の主導的な役割を担った経験のある実務者等を「火山防災エキスパート」として派遣する体制を整備し,関係地方公共団体を支援することとしている。


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