4−1 震災対策
(5) 東南海・南海地震対策
a 東南海・南海地震の姿
(a)発生の可能性
東南海・南海地震とは,南海トラフ沿いの遠州灘西部から紀伊半島沖を経て土佐湾までの地域で,フィリピン海プレートが陸側のプレートに潜り込み,陸側のプレートの変形が限界に達したとき,元に戻ろうとして発生する海溝型地震である。歴史的に見て100〜150年間隔でマグニチュード8程度の地震が発生し,最近では昭和19年及び21年にそれぞれ発生していることから,今世紀前半にも発生するおそれがあるとされている。
(b)被害想定
中部圏,近畿圏における大都市震災対策を含め,東南海・南海地震対策の速やかな確立等を図るため,平成13年6月28日に開催された中央防災会議において「東南海,南海地震等に関する専門調査会」の設置が決定された。
同専門調査会は平成13年10月3日に第1回が開催されて以降,平成15年12月までに16回審議が行われ,学術的知見を踏まえて東南海・南海地震の震源域等について検討を進め,東南海・南海地震が発生した場合の地震の揺れの強さ(図2−4−24),津波の高さ分布(図2−4−25)等から,地震による揺れや津波,火災等による人的被害や建物被害,経済被害等の被害想定をとりまとめ公表した(平成15年9月17日)(図2−4−26,表2−4−11)。これにより東海から九州の震源域に近い太平洋沿岸を中心に,地震の揺れや津波により広域かつ甚大な被害になると予想されることがわかった。さらに,これらを踏まえた東南海・南海地震防災対策について検討を行い,平成15年12月16日に東南海・南海地震の検討に係る報告「東南海,南海地震に関する報告」をとりまとめた。
図2−4−24 東南海・南海地震の強震動波形計算による震度分布
図2−4−25 東南海・南海地震による海岸の津波の高さ(満潮時)
b 東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法
(a)法律の目的
東南海・南海地震では,地震による強い揺れや津波により,極めて広域で甚大な被害が予想されることから,今のうちから計画的かつ着実に事前の防災対策を進める必要があるとして,議員立法により平成14年7月に「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が制定され,平成15年7月25日に施行された。
同法においては,東南海・南海地震で著しい被害が予想される地域を「東南海・南海地震防災対策推進地域」として指定し,津波からの避難対策も含め必要な防災対策に関する計画を策定するとともに,観測施設等を含めた地震防災上緊急に整備すべき施設の整備等について規定している。また,観測施設等の整備や科学技術水準が向上することにより,東南海・南海地震の予知体制が確立された場合には,東海地震と同様に大規模地震対策特別措置法を適用することとされている(図2−4−27)。
(b)東南海・南海地震防災対策推進地域における防災対策
同専門調査会において,推進地域の指定基準について検討が行われ,地震の揺れについては建物の全壊が生じるとされる「震度6弱以上」,津波についても同様に「陸上での浸水深2メートル以上または海岸での津波高3メートル以上」で「堤防で防げる地域を除く」地域とし,この他,市町村が連携して防災体制をとる必要がある地域についても,防災体制の観点から基準に含めることとした。関係都府県知事に意見照会を行った結果,平成15年12月17日,1都2府18県652市町村が推進地域として指定された。
指定後,相次いだ市町村合併,人口集中地区や重要港湾等において津波の指定基準を浸水深1.2メートル以上に見直したことにより,推進地域の再指定を行った。(平成19年4月1日現在,1都2府18県412市町村)(図2−4−28,表2−4−12)。
c 東南海・南海地震対策の概要
(a)東南海・南海地震対策大綱
同専門調査会の「東南海,南海地震に関する報告」を受けて,中央防災会議は,推進地域外も含め全国的な視野から総合的な東南海・南海地震対策を実施するための「予防対策から発災時の応急対策,復旧・復興対策までを視野に入れたマスタープラン」としての「東南海・南海地震対策大綱」を平成15年12月に決定した。
専門調査会での検討に加えて東南海・南海地震の特徴を踏まえ,大綱では,①津波防災体制の確立,②広域防災体制の確立,③計画的かつ早急な予防対策の推進,④東南海,南海地震の時間差発生による災害拡大の防止等のポイントから対策をとりまとめた。
(b)東南海・南海地震防災対策推進基本計画
推進地域が指定されたことを受けて,同法の規定に基づき,東南海・南海地震対策大綱を踏まえて,中央防災会議は東南海・南海地震対策の基本的方針等を規定した東南海・南海地震防災対策推進基本計画を平成16年3月31日に決定した。その後,推進地域の再指定を受け,平成19年3月31日に修正した。
(c)東南海・南海地震応急対策活動要領
東南海・南海地震対策大綱を踏まえ,東南海・南海地震発災後の広域の応急対策活動を的確に実施するため,防災関係機関がとるべき行動内容について規定した「東南海・南海地震応急対策活動要領」が,平成18年4月の中央防災会議で決定された。
(主な内容)
- 現地対策本部の設置(設置場所は,原則として愛知県,大阪府,香川県。)
- 東南海・南海地震発生時の救助・救急・医療活動及び消火活動の基本方針
- 東南海・南海地震発生時の交通の確保・緊急輸送活動の基本方針
- 物資の調達,供給等に関する活動の基本方針
(d)「東南海・南海地震応急対策活動要領」に基づく具体的な活動内容に係る計画
平成19年3月の中央防災会議幹事会において,『「東南海・南海地震応急対策活動要領」に基づく具体的な活動内容に係る計画』を申し合わせた。本計画は,東南海・南海地震応急対策活動要領において別に定めるとされた,救助活動,消火活動,医療活動,物資調達,輸送活動に従事する各部隊について,被害想定に基づく具体的な活動内容を計画したものである。
(e)東南海・南海地震の地震防災戦略
東海地震と同様に,平成17年3月30日の中央防災会議において,既に被害想定を実施し,対策に関する大綱を定めている東南海・南海地震を対象とする地震防災戦略が決定された(図2−4−29)。
東南海・南海地震の地震防災戦略においては,減災目標として,死者数約17,800人を約9,100人に,経済被害額約57兆円を約31兆円にすることとした。
特に,東南海・南海地震の場合,津波による死者数が多いことが特徴であり,住宅の耐震化と並んで,「住民の津波避難意識の向上」による減災効果が大きい。津波避難意識を向上し,保持していくために,津波ハザードマップの作成・周知,津波防災訓練の実施のほか,防災計画の充実,防災教育等を推進することとした。