1−7 途上国における防災戦略



1−7 途上国における防災戦略

(1)防災体制,法的枠組みの確立
 途上国においては,中央政府,地方政府に防災を担当する部局が存在せず,災害が発生した場合は,赤十字社まかせという国も見られる。
 したがって,途上国の第一の課題は,国の防災の体制,法的枠組みを確立することである。
 例えば,災害対策基本法の整備,中央防災会議の設置等により国としての防災体制の基盤を整えることが重要である。
(2)防災の観点の開発計画への組み入れ
 災害に強い国土を造るためには,開発計画の中に防災の観点を取り入れていくことが必要である。このためには,リスクの特定,分析・評価を行い,防災が投資に値するものであることを国レベルで認識し,優先度の高い効果的な対策を明らかにし,国の開発計画の中に組み入れていかなければならない。

国の政策や開発に取り組むためのリスクマネジメント・フロー


COLUMN  25年周期の大震災に備える地震防災対策計画(ネパール)
  ネパールは,インドプレートがヒマラヤ山脈の下に滑り込む地震帯の直上に位置し,これまでに数多くの大地震が記録されている。そうした大地震は,約25年周期で発生することが分かっている。
 約580km2の面積のカトマンズ盆地には,現在は150万人以上が暮らしているが,大半の家屋は,地震に対して脆弱な構造である。再び大地震がカトマンズを襲った場合には,過去の地震以上の人的・物的被害をもたらす可能性があると考えられている。
 (独)国際協力機構(JICA)は,地震の防災対策計画策定と緊急対応能力向上を目的として,2001年2月から2003年1月,「カトマンズ盆地地震防災対策計画調査」を行った。この調査では,効果的な地震対策立案のための情報やデータの整備,建築物・社会基盤・ライフラインに関する防災計画や地震発生時の緊急対応計画の策定,建築基準の監視システム導入のための組織や制度の整備などが行われた。
出典:防災分野における日本のODA(外務省)
(3)防災への投資
 多くの場合,防災は,負のインパクトへの「守り」と認識されており,大半の国では国の開発計画とは切り離され,国の中での優先度も低く,かつ予算も限られている。結果として,多くの災害を受け,多額の災害対応費用を費やし,国の持続的な発展の阻害となる悪循環に陥っている。
 防災を国の開発のための社会基盤への「投資」ととらえ,費用対効果の高いもの,国の開発上重要なものから優先的に投資していく必要がある。
(4)防災情報の整備
 台風,洪水,地滑り,火山噴火等の自然災害において,事前に災害の発生に関する予報・警報等の情報を住民に周知することができれば,多くの人的損失,経済被害を軽減することが可能となる。
 しかしながら,アジア各国の気象局は,日本から気象の画像データを入手している(平成15年度から気象庁が,国際協力機構との協力の下,アジア太平洋地域の各国に,台風監視・予測に関する技術移転を開始している)ものの,各国の中で,例えば台風が接近するという情報をタイムリーに市民に伝える仕組みができていないため,住民に必要な情報が迅速に伝わらず,大きな被害が発生しているという問題点がある。
 また,洪水浸水区域マップや地滑り危険地,地震の危険度マップなどが専門家の間で作られているところもあるが,コミュニティにまで浸透しておらず,専門家が認識している実際のリスクと住民の認識しているリスクとの間に大きな隔たりがある。
 ついては,早期警報システムやハザードマップなどにより,住民がリスクを正確に理解し,的確な行動が図れるよう,住民に対する防災情報を提供する体制を整備することが極めて重要である。

リスク認識のギャップ


 
COLUMN  警報局から住民へ予警報を発信(モロッコ)
  アトラス南西地域は,風光明媚な景観と冷涼な気候により,夏季には国内外から多くの観光客が訪れる有名な観光地である。しかし,森林が少なく,海抜500mから4,000mに至る急峻な地形は洪水にきわめて弱い。1995年にウリカ谷を中心に大規模な洪水が発生し,200人以上の死者が出た。犠牲者の多くは,逃げ遅れた観光客だった。
 こうした悲劇を繰り返してはいけないと,モロッコは日本に協力を要請し,(独)国際協力機構(JICA)は,2000年3月から2003年12月にかけて調査を行い,洪水予警報システムの整備を目的としたマスタープランを策定した。
 調査では,ウリカ谷地域に雨量計測や川の水位測定の器械を設置して,その情報を分析し,警報局から住民へ予警報を発信するシステムを実際に試み,マスタープランで提案した洪水予警報システムの有効性を検証した。また,地元住民と避難訓練を繰り返し,自助・互助の意識を高めることができた。
出典:防災分野における日本のODA(外務省)
(5)幅広いパートナーシップと市民の参画
 防災では,様々な役割の人たちとの連携が不可欠である。
 気象局による早期警報はメディアなどを通じて地域コミュニティまで届いてはじめて災害の軽減につながる。また,災害に強い地域づくりのためには,堤防・ダムや砂防施設などの土木施設整備に加え,治山や農地の管理,適正な土地利用計画,建築物の設計基準など様々な分野の協力が欠かせない。
 また,被害を受ける立場にあり,かつ,災害発生時に最初の対応者となる市民やコミュニティに対する正確な防災知識の普及・啓発,コミュニティの自助,共助の能力の向上が被害軽減の鍵となる。
 さらに,防災教育を義務教育のカリキュラムに組み込むことが重要である。特に,途上国においては,若年層が人口の大部分を占めているため,学校教育を通じた防災知識の普及・啓発が極めて有効である。なお,インド等においては既に防災教育が義務教育のカリキュラムに組み込まれている。

 


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