3−3 生死を分ける津波避難意識



3−3 生死を分ける津波避難意識

(1)直面する津波被害の脅威〜インド洋津波を教訓に〜
 昨年末に発生したマグニチュード9.0と推定される巨大地震による大津波は,インドネシアをはじめ,遠くタイ,インド,スリランカやアフリカ大陸にも達し,インド洋周辺諸国12カ国に及び,死者・行方不明者数が30万人ともいわれる未曾有の被害をもたらした。津波に関する知識の欠如,津波早期警戒体制の不備により被害が拡大したといわれる。アジア防災センターがスリランカで実施したアンケートでは,9割を超える人々が津波そのものを知らなかった。何百年もの間に一度しか起こらないような自然の脅威は,世代を超えて語り継がれることがない限り,未知の脅威であり続ける。世界は海溝型の巨大地震により発生する大津波の脅威を改めて思い知らされたが,これは我が国にとって人ごとではないことに警鐘を鳴らさなければならない。

我が国の津波被害の歴史(明治以降)

 我が国においては,古より幾多の津波被害を経験し,その教訓を語り継いできた。その一方で,迫りくる東海地震や東南海・南海地震に起因する大津波により,最大でそれぞれ約1,400人,約8,600人の犠牲者がでると想定されている。

COLUMN  稲むらの火
  1854年12月24日(新暦),安政南海地震による大津波が広村(現在の和歌山県広川町)を襲った。このとき,村の郷士浜口梧陵は,暗闇の中で逃げ遅れていた村人を,収穫したばかりの稲を積み上げた「稲むら」に火を放って高台に導いた。
広村を襲う安政南海地震津波の実況図
(古田庄右衛門著「安政聞録」より):養源寺所蔵

 その後,梧陵は,次の津波に備え,巨額の私財を投じ,海岸に高さ約5m,長さ約600mの堤防を築き,松並木やはぜの木を植林した。約4年間の大工事に村人を雇用することで,津波で荒廃した村からの離散を防ぐとともに,はぜの木の実から和ろうそくを作り村の収入にしたとされる。92年後の昭和21年,昭和の南海地震が発生し,再び大津波が広村を襲ったが,この堤防が村を守った。
 この話に感銘を受けた地元出身の教員が子供にもわかりやすい物語にした作品「稲むらの火」が,昭和12年から10年間,小学国語読本(5年生用)に掲載された。
 国連防災世界会議に出席した小泉内閣総理大臣は,「稲むらの火」の話を世界からの参加者に紹介し,災害についての知識や教訓を常に頭に入れておくこと,災害発生の際には迅速に判断して行動することの重要性を訴えた。


(2)津波避難意識の向上の必要性
 翻って我が国の津波対策の現状を概観してみる。昨年9月5日に東海道沖で最大震度5弱を観測した地震が発生した際,気象庁は愛知県,三重県,和歌山県の3県42市町村に津波警報を迅速に発令した。しかしながら,消防庁調査によると,津波警報を受けて,避難勧告・指示を出した市町村は12(29%)のみであり,自主避難の呼びかけにとどまったものが17(40%),対応をしなかったところが13市町村(31%)にものぼった。また実際に避難をした住民も少数に限られた。
 実際の津波被害がなかったことをもってよしとすることなく,予測される非常の事態を想定した命を守る迅速かつ的確な判断・行動が求められる。防災行政担当者のみならず,住民レベルでの津波避難意識の向上を推進する必要がある。

東海道沖地震に伴う津波に対する市町村の対応

 まず何よりも,津波ハザードマップを通じて,津波のおそれをあらかじめ知っておくことが重要であり,津波のおそれのある地域では,いざ大きな地震を感じたら高台に逃げることが津波から命を守る第一歩である。

COLUMN  パプアニューギニアにおける津波意識の向上効果

 パプアニューギニアにおいて,1998年,同国北西岸から30キロの地点を震源とするマグニチュード7の地震が発生した。その直後に,巨大津波がアイタペ地区沿岸の村々を襲い,2,600人もの命が奪われた。同国では過去にも多くの津波を経験していたが,その経験が次世代に伝えられていなかったため,人々は津波災害の脅威を殆ど知らなかった。
 パプアニューギニア政府当局の要請により,アジア防災センターは日本の経験から得たものを同国の地域社会に伝えることとした。そこで,学識経験者の協力により多数の写真や絵を掲載したポスター,パンフレットを作成し,同国赤十字社などのネットワークを通じて配布,普及・啓発を行った。「地震発生時には津波に警戒して高地に避難せよ」との教訓が,同国で広まった。
 その後まもなく,2000年11月にマグニチュード8の地震が発生,津波により数千もの家屋が破壊されたにもかかわらず,死者は発生しなかった。津波災害に対する認識の向上が功を奏した事例である。
 

 津波のおそれがあるにもかかわらず,周囲に高台等がない地域では,硬固な高層建物の中・高層階を避難場所に利用するいわゆる津波避難ビルの活用を進めることも重要である。地震防災戦略では,内閣府が作成した津波避難ビル等のガイドラインを活用して,付近に高台等がなく,津波からの避難が困難な地域を有する全ての市町村において津波避難ビル等が指定されることを具体目標に掲げている(平成16年時点で14%)。

津波避難ビル,施設

 また,避難場所への避難路を確保しておくことも大切である。和歌山県串本町では,地域住民自らが地域に不足する避難路の整備を進め,町の対策を促した例もある。地域コミュニティと行政との連携した取組みにより安全な地域づくりを進める優良事例といえる。
 さらに,誰もが津波のおそれのある地域や津波避難場所がわかるよう,消防庁では「津波に関する統一標識」を作成し,全国での周知を呼びかけるほか,JIS化,ISO(国際標準機構)規格化を目指すなど,津波対策の向上に努めている。

津波に関する統一標識

 この他,国においては,平成17年度より初めて関係府省が連携した津波総合防災訓練を実施することとしているほか,気象庁により津波予報を地震検知後最速2分以内に発表し,全市町村で迅速,確実に情報伝達できる体制を整備することを目指している。
 また,津波の影響を直接軽減する海岸堤防等については,関係省庁による調査では,7%が地震に対する耐震性そのものに問題があり,また,60%は耐震性の状況が不明であると報告された。津波による被害想定を踏まえつつ,関係省庁が連携し,ソフトとハードの一体的な対策を重点的に進める必要がある。

海岸堤防の耐震性


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