4 民間と市場の力を活かした防災力向上



4 民間と市場の力を活かした防災力向上

(1)企業と防災
 災害による被害を軽減するためには,行政による「公助」だけではなく,自ら身を守る「自助」,お互いに助け合う「共助」も重要である。
 また,企業活動の場合は,「自助,共助」の枠組みに限らず,例えば耐震性に優れた建築物の開発・供給や,災害時の情報伝達システムの提供等,被害軽減等に貢献する事業を社会に提供することも増えてきている。
 平成14年7月の中央防災会議「防災基本計画専門調査会」報告「防災体制の強化に関する提言」では,「企業防災・危機管理の推進」として,以下が指摘されている。

[1]企業防災の推進
 企業は「自助」の観点から,企業における防災組織の充実を図り,社員等の安全確保対策を一層推進すると共に,地域防災活動に貢献し,周辺地域の住民との連携強化に努めるべきである。
[2]行政と企業との連携
 災害時に円滑な連携が可能となるよう,平常時においても行政と企業との間で防災施策に関する意見交換を行う場を設け,施策に反映させていくべきである。
[3]企業の防災・危機管理を評価する社会システムの構築
 防災・危機管理に対し投資することで,市場において企業の評価が高まるような環境づくりが必要である。そのためには企業の自助努力だけではなく,行政が企業の防災・危機管理投資を促進するような制度や必要な支援策を講じるべきである。また,大規模災害時における経済的損失等の推計など,企業が自ら防災・危機管理施策の必要性を認識できるよう,行政が積極的に情報を提供していくべきである。
[4]市場における防災性能評価等の推進
 防災に着目した製品の性能基準の設定等,防災性に優れた製品等が市場において評価される仕組みを構築し,その普及を支援するべきである。

 また,同年4月の中央防災会議において,会長である内閣総理大臣から,「平時において防災を考える場合は,民間部門の参入も重要であります。「災害に強い国」の実現を考える場合,官が税金を投入して直接推進できる対策は限られており,むしろいかに民間の知恵と力を活用するかが重要であります。例えば,情報が勝負と言われる災害対策において,IT産業の参入は不可欠だと思います。災害対策の分野に,「市場」のスピード,活力を導入できれば,質・量ともに充実した対策が可能となるのではないかと思います。」との発言がなされている。
 これを受けて,内閣府は,平成14年10月,防災担当大臣主宰による「企業と防災に関する検討会議」を設置,平成15年4月に報告「企業と防災〜課題と方向性〜」が取りまとめられた。
 この中では,「地域防災と企業」「企業連携による防災まちづくり」「市場の力を活かした防災力の向上」「企業のリスクマネジメント」の4つの課題に対し,以下の通り,今後の検討の方向性が提示されている。

1 地域防災と企業
 ・災害時における地域社会への貢献
 ・行政との連携による災害時対応
2 企業連携による防災まちづくり
 ・近隣企業の相互協力による地域防災力の向上
 ・企業が積極的に参画する防災まちづくりの推進
3 市場の力を活かした防災力の向上
 ・防災マークやデザインの普及
 ・防災会計導入の提案
4 企業のリスクマネジメント
 ・業務継続計画(BCP)策定のための環境整備
 ・防災リスクマネジメントに関する日本発国際規格の提案
 一方,日本経団連が設置した「防災に関する特別懇談会」も,同年7月,「災害に強い社会の構築に向けて」を公表した。この中で,行政への要望として,「一元的な防災体制の確立」「きめ細かい情報提供と情報共有化」「地域と企業の連携促進に向けた自治体の役割」「実践的な訓練の実施」「防災教育の充実」等を提言している。
(詳細はホームページ  ../../../../../../tolink/out1031.html
 また,内閣府と日本経団連の共催で「企業と防災に関するシンポジウム」(平成15年7月29日)が開催され,企業の防災対策やリスクマネジメントの徹底が国際競争力強化につながる,行政と企業の平時からの連携を強化するべき,等の意見が出された。
(2)専門調査会の設置
 こうした議論を通じて明らかになった課題は,次の点である。
 第一に,企業の取り組みばかりでなく,広く「民間」という視点で考えると,商店街や住宅地などで,商店会や町内会,PTAなどが主体となって,環境,福祉,教育等の切り口で自分たちの「まちづくり」に関わっている事例が増えてきている。こうした取り組みが,やがて「防災まちづくり」につながることが期待できる。このように,「地域」という視点で見ると,企業ばかりでなく,幅広い民間の主体を念頭に,どのように相互の連携を進めることで地域の防災力向上につながるのか,について具体的に検討を行っていくことが重要である。
 第二に,より広く「社会」という視点で見ると,今まで何度となく防災対策の重要性が指摘されながら,大きな災害発生から時間がたつと,1人ひとりの市民や個々の企業等の中で,「防災」意識が低下しがちになる。災害,特に大震災のような災害は,我々の一生の中で極めて稀にしか遭遇しない。経験を通じて学習し,成長するという我々の行動様式からすれば,災害への備えを日常的に行うことは,どんなに啓発活動を行っても容易ではない。このため,可能な限り平時の社会システムの一部として,防災を定着させていくことが,社会の防災力を向上させる上で重要である。例えば,建築物の耐震化をすれば,それだけ市場で評価される,あるいは防災性能を持った商品が日常的に販売されるようになる,という形で,平素からの消費活動や企業の投資活動の中に災害に備えるという意識が根付くような社会の仕組みをどのように構築するか,具体的に検討を行っていくことが重要である。
 これらの点について,より議論を深めるために,平成15年9月,中央防災会議に「民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会」(座長:樋口公啓 日本経団連副会長)が設置された。
 同専門調査会では,災害に強いまちづくりに向け,企業やNPO,地域住民などが連携し日常的に活動に参画することで地域防災力の向上を図る「防災まちづくり」推進のための施策を検討する「防災まちづくり分科会」,日常的な商品やサービスの防災性能に着目し評価することで,消費者や企業の行動を通じて社会の防災力が高まる仕組みや,企業の防災に対する取り組みが社会的に評価される仕組みなど,市場の力による防災力向上を図るための施策体系を検討する「市場・防災社会システム分科会」を設け,鋭意検討を行っているところである。
 特に,東海地震,東南海・南海地震,首都直下地震など,発生が懸念される大規模地震災害に対する備え,対策は,官民の連携で行うことが重要である。このため,抽象論ではなく,官民連携を進めるための具体的な戦略が早急に求められている。
 本白書の序章において,防災の目標を明らかにすることの重要性に触れたが,官民連携にあたっても重要なことは,目指すべき目標を共有し,防災に関し社会で活動する様々な主体が,同じ目標に沿って連携しながら,今何をすることが望ましいかという価値を共有することであると考えられる。
 今後,本専門調査会の議論を通じて,官民連携した防災対策についての基本的指針である「民間と市場の力を活かした防災戦略(仮称)」を平成16年度中に策定することを目指す。
(3)市場・防災社会システム
 「市場・防災社会システム分科会」(座長:樋口公啓 日本経団連副会長)においては,各委員からの発表や事例のヒアリング等を通じて,課題の整理を行っている。このうち,委員から出されたいくつかの論点,意見を下記に紹介する。
a リスクとインセンティブ
 リスクに対する人間の行動として,自分にとって望ましいことの確率を過大評価し,望ましくないことの確率を過少評価する傾向にある。また,負のイメージを連想する事柄はあまり考えたがらない。防災対策が,重苦しいイメージにならないよう,できることなら楽しく発展につながる方向に関連づけることが必要ではないか。日頃からあまり精神的負担にならない形で防災の問題を考えることができれば,人々の工夫やコミュニケーションが促進されると思われる。
 自らの行動や知識が,自らの被害を予防または軽減する場合(内部経済)ではなく,自らの行動や情報提供が,結果として他者の被害を予防または軽減する場合(外部経済)は,こうした行動を誘引するための方策(インセンティブ)が必要となる。方法としては,外部経済を生む行動に対価を与える,あるいは外部不経済を生む行動に料金を課す(料金は補償等に転用する),という「市場アプローチ」,外部経済を生む行動を義務づける。あるいは外部不経済を生む行動を禁止する,という「規制アプローチ」がある。
 しかし,防災対策の場合,効果が必ずしも明確ではないので,対策を推進しにくく,成果をアピールしにくい。災害に関するリスク情報を工夫し,対策の優先順位に結びつくようにする,あるいは,外部経済を含めて各種の被害軽減策の効果を定量的に明らかにする等の工夫が求められる。外部経済が数値化できれば,周辺地域の地価や賃貸料に反映させて,地域で改築費を一部負担するインセンティブを検討することも可能になる。
 リスク分散(保険への加入等)については,モラルハザード(自己が行うことができる予防対策を怠る)を招かないよう,対策へのインセンティブとセットで考えることが重要。例えば,地震保険において,多くの世帯が加入することを目指すことと「防災対策に基づく料金の割引」等,各種の普及策を併せて検討することが求められる。
 企業にとっても,防災をコスト要因と考えず,防災性能に配慮した製品等を新たな競争力を有するものとして,世界市場に打って出る,という戦略も検討に値するのではないか。
b 企業の対応等に関する各種意見
 ○ コンビニでは,災害時は,店舗の営業を可能な限り継続・再開することとし,地域住民への商品提供の場所と同時に,可能な限り地域の情報センター的機能に貢献することを目指している。このため,自治体と災害救援協定を締結している。災害時の店舗の営業継続には,商品の継続的供給を必要とする。この場合,コンビニへ商品を供給する車両について,被災地において緊急通行を認めることができないか検討が求められる。
 ○ 帰宅難民はレスキュー隊に変身できる。また,企業の事業所は地域と連携し,貢献することができる。そのためにも,家族と従業員の「安否確認」は最優先事項。様々なサービスが提供されており,事前の準備が重要。
 ○ 各種の災害対応に関し,通常の規制の適用を緩和する「災害緊急特区」を検討してはどうか。
 ○ 市場で売買等される住宅はすべて耐震診断済みのものとする等,災害国ならではの仕組みを検討してはどうか。
 ○ 企業の「社会的責任投資」(SRI)を参考に,「防災責任投資」などの仕組みを検討してはどうか。また,業態ごとに,業務継続計画(BCP)を策定するための効果的な環境整備を検討するべきではないか。

コラム 企業の取り組み事例
●ある家電メーカーでは,阪神・淡路大震災の翌年から,テレビの転倒防止策について,地震発生機で実際に耐震試験を行うなどして,効果測定も行いつつ対策を推進している。また,地震によりテレビが落ちプリント基板が割れても火災につながりにくい安全回路も設計している。
●ある引越サービス事業者は,引越を行う際に,大型家具等の転倒防止器具設置をサービスしている。引越が防災対策を行う契機となることに着目したサービスとして開始,多数の申し込みがあるという。また,引越をしない顧客からの申し込みもあるとのこと。
●ある瓦メーカーは,耐風性,耐震性(脱落しない)に優れ,かつ,重量による住宅への負荷を考慮した防災性の高い瓦を開発して販売している。
●携帯電話への情報提供サービス事業者は,多様な形で災害情報提供のシステムを開発している。

コラム 災害時業務復旧支援サービス(ベルフォア社)
 ドイツのBelfore International社は,火災,爆発,台風,豪雨,洪水などの災害で汚染した建物や設備等を修復し,業務の早期復旧を支援する世界的な災害復旧専門会社。
 欧州・米国では,このように,災害時の復旧活動を,個々に対応せずに,資機材や専門能力を有する災害復旧の専門会社に依頼し,標準化された作業(デファクト)に近い形で,民間事業として復旧に取り組む事例が見られる。
 日本には,現在こういった企業は存在しない。
災害時業務復旧支援サービス(ベルフォア社)


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