3 防災とボランティア



3 防災とボランティア

(1)ボランティアの位置付け

 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災において,各種のボランティア活動及び住民の自発的な防災活動についての防災上の重要性が広く認識された。
 同年7月には,防災基本計画が改訂され,「防災ボランティア活動の環境整備」及び「ボランティアの受入れ」に関する項目が設けられた。また,平成7年3月28日に設置された防災問題懇談会(座長諸井虔(秩父小野田(株)会長))は,同年9月11日に「防災問題懇談会提言」を取りまとめたが,この中で,防災ボランティアの重要性やそのための普及啓発活動の必要性が指摘された。これを受けて,同年12月15日の閣議了解により,「防災とボランティアの日」(毎年1月17日)及び「防災とボランティア週間」(毎年1月15日〜21日)が創設され,毎年この時期には,全国で防災とボランティアに関する各種の行事が開催されるようになった。
 さらに,同年12月には災害対策基本法が改正され,国及び地方公共団体が「ボランティアによる防災活動の環境の整備に関する事項」の実施に努めなければならないこと(同法第8条)が法律上明確に規定された。「ボランティア」という言葉が,わが国の法律に明記されたのは,これが初めてのことである。
 その後,平成9年1月に発生したナホトカ号海難・流出油災害や平成15年7月に発生した宮城県北部を震源とする地震などにおいても多数のボランティアが活動している( 表3−3−1 )。

最近の主要な防災ボランティア

(2)防災ボランティアをめぐる課題

a 災害ボランティアセンターの設置,運営
 平成15年7月26日に発生した宮城県北部を震源とする地震では,住家全半壊6千棟以上,避難者3千人以上(最大値)という大きな被害をもたらした。災害直後から,全国のボランティア団体から協力の申し出がなされ,南郷町等の被災5町に地元の社会福祉協議会が中心となって「災害ボランティアセンター」が設置された。その後,県内を中心に,延べ4千人以上のボランティアが集まり,被災住家内外の片付け,清掃等の活動を行った。ボランティアの受け入れや活動内容は,町によって異なるが,町の要請に基づきボランティアの活動内容(避難所運営支援など)を決めたところや,全国のボランティアネットワークの協力を得て,ボランティア主体の効率的な支援活動を行ったところもあった。
 このように,ボランティアの受け入れ体制の整備は,ボランティアの円滑な活動環境を整備するために重要な要素となるものであり,ボランティアセンターの設置,運営については,地域の実情に応じ,あらかじめ明確にしておくことが望ましい。
 より広域な災害の場合は,都道府県レベルでボランティアセンターの設置をする必要がある。「東海地震対策大綱」(平成15年5月29日中央防災会議決定),「東南海・南海地震対策大綱」(平成15年12月16日中央防災会議決定)においては,「ボランティアの受付や各種活動の調整を行う広域ボランティアセンターを速やかに設置するとともに,国や地方公共団体の対策本部は,被災地ニーズの的確な提供等ボランティアセンターとの連携を図る」こととされている。
b 防災ボランティアと地域活動との連携
 地域外から集結する一般ボランティアを適切に受け入れ,被災者のニーズを十分踏まえた活動が行われるようにするためには,住民,行政,ボランティアを相互に有機的に連携させることのできる,あるいはそういうノウハウを有したボランティア団体が存在することが,望ましいあり方の1つであると考えられる。このような「地域に根ざした組織(CBO:Community-Based Organization)」が核となってボランティアセンターの設置,運営に関与することが,地域外からのボランティアの円滑な受け入れと活動のコーディネートに重要な役割を果たすことが考えられる。
 実際,発災時には社会福祉協議会が中心となってボランティアセンターを立ち上げ,ボランティアの受付や調整を行うことが多い。自治体によってはボランティアセンター立ち上げやボランティア受け入れに関する明確なルールが無く,現場が混乱する恐れがある。各自治体は,現場で核となって中心的に活動する団体の育成やその団体との連携,ボランティアセンターの立ち上げや設置についての体制作りをしておくことが,災害時の円滑なボランティア活動のために必要である。
 内閣府は,「災害時のボランティア活動の環境整備に関する検討」調査(平成15年3月)を行い,ボランティア活動が効果的に行われるための環境整備や支援方法について検討した。
 調査対象としたボランティア団体は,平成15年1月に「防災とボランティアのつどい」に参加した団体及びそれら団体との意見交換の中で話題にあがった団体,48団体である。各団体の活動の変遷を把握するため,調査票から読み取った設立当初の活動と現在の活動(1団体につき複数の活動内容有り)の対比は, 図3−3−1 のようになった。

ボランティア団体の活動の変遷(設立当初と現在)
 これをみると,どの分野も「設立当初」に比べ「現在」は,活動内容が増加の傾向をみせ,活動の幅が広がっていることがわかる。特に,保健・医療・福祉やまちづくりの活動を含む「[1]日常のコミュニティー活動」に取り組むボランティア団体は18団体も増えた。
 また,今後のボランティア活動の展望について聞いたところ,その結果は 図3−3−2 のとおりである。今後他団体と連携していきたいと考えているのは33団体(約68%),自身の団体の活動を拡大する,もしくは自己啓発したいと考えるのは11団体(約22%),その他(回答なしや検討中などを含む)は5団体(約10%)であった(複数回答あり)。

ボランティアの今後の展望
 詳細をみると,次のような傾向があった。
 ○他団体(行政を含む)との連携を望むボランティア団体
 特に行政機関との連携については,「自分の住む地域や近隣の市町村」といった回答が複数の団体から得られた。また教育機関(地元の大学や教育委員会など)や自治会などをはじめとする地域に密着した団体と連携したいという回答も多く,地域に根ざした活動を目指していることがうかがえる。
 連携の内容としては,行政と意見交換会や合同訓練,講座を行いたいといったものが挙げられた。
 ○自身の団体の活動拡大・自己啓発を望むボランティア団体
 主な傾向としては,「ボランティアコーディネーター養成講座をさらに進めていきたい」といったような,これまでの活動を継続かつ拡大して展開したいという団体が多くみられた。また救命講習等を受講するなど,自身の知識や技術の向上に取り組むといった自己啓発を望む団体もあった。

コラム 地域における日常的活動を通じて防災ボランティアの人材育成を行っている事例
■ハローボランティア・ネットワークみえ
 ハローボランティア・ネットワークみえは平成10年12月6日に約200名のボランティア有志が集まって設立された。
 平常時はスポーツレクリエーション祭や花火大会等のイベント支援活動を行っている。ハローワークのボランティア版「ハローボランティア」のシステムを作り,イベント主催者側の要望とボランティア希望者の要望の調整を行い,平常時から地域の人々との交流を深めている。特別な知識や経験は不要で,老若男女問わず,誰でも気軽に参加できる「この指とまれ」式の団体である。
 平成12年9月の東海豪雨災害時には,これまでのイベントで培ったノウハウやトレーニングを活用して,災害ボランティア活動を行った。
 現場で「求人票」を張り出し,メンバー自身が「自分でやりたい仕事」を自ら選んで参加する方法をとったり,突発的なニーズに対応するために現場の巡回を行ったりするといった平常時のイベント支援で行っていた経験が災害時の現場対応に活かされた。

(3)「防災とボランティアのつどい」

 内閣府では,毎年「防災とボランティア週間」に,防災とボランティアに関する普及・啓発の行事開催等を通じて,災害発生時におけるボランティア活動や自主的な防災活動の重要性に対する認識を一層深め,災害に対する備えの充実・強化を図ることとしている。
 平成15年度は神戸市の阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターにおいて,災害時だけでなく,日常からの防災まちづくり活動について参加者とともに考える「防災とボランティアのつどい」を兵庫県,阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターと共同開催した。(平成16年1月18日)
 「被災地から芽生えた新しい市民社会」をテーマとしたつどいでは,地元神戸を始め,全国から約80のボランティア団体が参加した。「若者の人材育成」「防災とは言わない防災」「防災ボランティアの可能性」の3つのテーマについて分科会を開催し,活発な意見交換を行った。また,会場では防災ボランティア団体が活動発表などを行う「自由発表会」やボランティア団体紹介ポスターを展示した「ポスターセッション」が開かれ,それぞれの防災ボランティア活動を広く紹介した。
 参加者からは「各ボランティア団体の積極的な取組みを見て,改めて一人一人の意識の在り方の大切さを学んだ」「防災ボランティアと市民社会作りの密接な関係を再認識した」等の声が聞かれた。( 図3−3−3 )。

防災とボランティアのつどい
 いつか起こる災害に備え,ボランティアがその力をより大きく発揮し,1人ひとりの住民や,地域に根ざした多様な活動を行っている団体等と行政とをつなぐ役割を担うことが期待される。


所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.