1. 東海地震の想定震源域について


 
1. 東海地震の想定震源域について
 
4. 想定震源の領域設定の考え方
   
 これまでの検討の結果、東海地震の想定震源域の領域設定については、以下のように考える。なお、今後、これに基づく強震動や津波等の試算を行い、過去の地震時の被害実態との検討等も踏まえ、必要なフィードバックを行い、最終的に確定するものとする。
(1) 南西側の境界
   南西側の境界は1944年東南海地震による破壊領域の東端、言い換えると、1854年安政東海地震の震源領域のうち、1944年東南海地震で未破壊として残った領域の南西端を境界とする。
 1944年東南海地震については、Inouchi & Sato(1975)、Ishibashi(1981)等、最近ではTanioka & Satake(2001)、Kikuchi(2001)、Ichinose et al.(2001)の解析モデルがある。しかし、これら解析モデルによる震源領域は、互いにほぼ重なるものの、浜名湖付近から東側で一致を見ない。この差異は、陸側では渥美半島から浜名湖の東側まで破壊されたと考えられているのに対して、その沖合は破壊されていないという見方があることによる。
 これらのことを考慮し、暫定的に、未破壊領域は陸側は浜名湖の東側以東、海側はKikuchi(2001)の断層モデルの東側以東とする。
(2) 北側の境界
   沈み込むプレートと陸側のプレートのカップリングが明瞭でなくなるところを境界とする。この領域に相当する駿河湾奥から内陸側は震源が精度よく決まる地域にあるが、地震活動は不活発であるため、この地域から北側はプレートの形状が明瞭ではなくなる。北側の境界は、震源分布から見てプレートの存在が明瞭でなくなる所までとする。
(3) 北西側の深部境界
   沈み込むプレートが陸側のプレートとカップリングしている最深部を境界とする。この深さは、最近の地震の震源分布から見て約30km程度と考えられている。また、深い領域における不安定すべりから安定すべりへの遷移は、温度が350〜450℃で起こり、これに相当する深さが約30kmとされている(Hyndman et al. 1997)。これらのことから、プレートがカップリングしている最深部は30kmとする。
 沈み込むプレート上面の等深線については、Yamazaki et al.(1989)、Ishida(1992)、野口(1996)、原田ほか(1998)により示されている。浜名湖以東の領域における30kmの等深線は、Ishidaを除く3者はほぼ同じであるものの微妙に異なり、大きく湾曲している北側では、野口とYamazaki et al.が、その西側では、野口と原田ほかに一致が見られる。このことから、30kmの等深線は、これら両側に共通する野口の線に合わせ、湾曲の大きなところは、プレートの滑らかな沈み込みを意識し、深い方に滑らかな曲線で結んだ線を境界とする。
(4) 東側(駿河湾)の浅部境界
   沈み込んだプレートは、沈み込み直後の浅いところでは安定すべりが起こっており、深くなるにつれ不安定すべり、すなわちプレート間がカップリングするようになる。この深さは、Hyndman et al.(1997)によると、温度が100〜150℃となる約10kmに対応すると考えられている。
 この領域に沈み込むプレートの10kmの等深線は、Ishida(1992)、野口(1996)、原田ほか(1998)により求められているが、最新の震源分布をもとに、気象庁、気象研究所及び野口で検討し、野口によるものを滑らかにしたものが妥当とされたので、それを採用し境界とする。
(5) 南東側(御前崎沖から西側の海域)の浅部境界
   御前崎沖から西側の海域においては、震源決定精度がないことから、沈み込むプレート上面の等深線が明瞭には求められていない。しかし、この海域における海底活断層調査から、東海断層系より陸側でプレートがカップリングし始めると推定されている。
 東海断層系が、プレートの沈み込みに伴い海底に現れた逆断層とすると、カップリングが始まる10kmの深さとなる場所は、東海断層系の傾きを考慮すると、さらに10〜20km陸側を境界とすることも考えられるが、東海断層系の深いところの形状が明確でないことから、暫定的に、東海断層系をもってこの領域の境界とする。
 なお、この場所は、明瞭ではないものの、Ishida(1992)、野口(1996)それぞれの10kmの等深線の中間に位置する。
(6) 以上の考え方で、別図のとおり震源域の境界を設定する。震源域を囲む際には緩やかな曲線で結ぶこととし、震源分布から求められる、沈み込むプレート上面の形状に合わせて震源断層の形状を定めるものとする。
(7) 補足
   プレート間カップリングを示すものとして、Matsumura(1997)による震源とのそのメカニズム解の分布から推定した固着域と、Sagiya(1999)によるGPSデータのインバージョンからから推定したバックスリップの大きな領域の2つの解析モデルがあるが、これら領域にずれがみられる。固着域を「プレート間カップリングにより強い応力場が生じているところ」と考えると、固着域とバックスリップの大きな領域とは、必ずしも一致しなくとも良いが、その場合でも、固着域がバックスリップの大きな領域にほぼ含まれるか、或いは両者のかなりの部分が重なることでないと整合的な理解は難しいように思われる。
 固着域は、震源と地震メカニズム解の精度により推定される領域が異なってくる可能性がある一方、バックスリップの解析には、GPSデータが陸域に限定されていることから、海域の領域の推定に誤差が大きくなることの問題点がある。また、バックスリップの大きな領域には、1944年東南海地震で既に歪みが開放された領域が含まれていることも考えられる。
 しかし、両者とも、プレート間カップリングを示しているもので、今回の新たな想定震源域は、これら両者の大半を含んでいる。
 
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