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EPCF
※「国土庁防災局」は、2001年より、「内閣府(防災部門)」になりました。
地震被害額推定の利用
 
ロバート・ライザーマン
(Robert Reitherman)
 

日米地震防災政策会議
開催地:ワシントン州シアトル市
1998年10月20〜22日

地震被害額の推定は概算であって、厳密なものではない。
 
ここで使う「額の推定」という言葉には、地震被害額の推定の利用に関する重要な情報が含まれている。ある地域で将来起こる地震がどのような結果をもたらすかを予測するには、多くの不確実な事柄が関係してくる。その地震が単一断層で発生するのか、マグニチュードはどれほどか、震源はどんな特性(例えば破砕の過程から生ずる方向性)を持つのかなどは、地震学の分野での主要な不確実性のほんの一部に過ぎない。地面が動けば、さまざまな場所で崖崩れや断層がおこるかも知れない。工学の分野では地震に遭遇すると建築物がどうなるかが完全に把握できないから、ここでも不確実性は増加する。たとえある地域ですべての建築物の工学的な特性が完全に判明した場合でも、実際に地震が起こった後の状況を観察したり、実験室で試験すると、損害を正確に予測するのが今なお難しいのがよく判る。さらに被害に影響を与える要素として、我々は社会学的な側面や、緊急対策のやりかたの違いも考慮にいれなくてはならない。被害の1つの類型として我々は罹災後に一時的に収容を要する住民の数を算定しようとするが、最近のカルフォルニア地震の時に、これは人口学的に見て一様にいかないことが分かった。住居の被害を受けた比較的貧しい階層では政府が提供する住宅を必要としたものが多かったが、ラテン・アメリカから最近移住してきた住民は、建物検査員が彼らの住居に居住安全の貼紙をしたあとでも、屋外の公園とか公共の場所に留まるものが多かった。地震発生のシナリオへの緊急対策を実施する側の対応もさまざまである。例えば、地震が起きて損害が発生しても、損傷した建物への立ち入り禁止とするか居住に問題なしとするかは、地域や国によって異なり、このため居住危険と赤札を付ける建物の数を算定するのは、単に損害の程度を予測する以上の難問となる。このように地震学、工学、社会学、緊急対策法などが結びついて不確実性は非常に高いものとなる。

 保険会社はコンピュター・プログラムや専門コンサルタントの地震被害算出が大幅にぶれることを考慮しなくてはならない。例えば1994年1月17日に発生したノースリッジ地震の場合、発生後3カ月も経った後での米国損害保険業界の支払保険金の査定額は、せいぜい25億ドルであった。それが今日現在では実際の支払額は合計約130億ドルとなっている。地震が実際に起こった後で、しかも3カ月もの現場調査を行った後で、算定結果に約5倍も食い違いが出たという一例である。地震被害額の推定を利用する者は、誰でもこの不確実性を常に念頭に置いていなくてはならない。

 

地震被害にはどんなものがあるか。
 
地震被害には安全、財産、機能という3つの基本的側面があり、それぞれの研究に基いて算定を行う。

 論理的な手順としては先ず物理的影響、つまり建物、橋梁、ユーティリティ・システムの被害、そして自然環境への影響を予測し、さらにこれらの被害から派生する被害を予測する。一例として研究の結果、非弾力性反応、変移、内部壁の亀裂などの規準から見て10万戸の住居が甚大な損害を受けると予想されれば、これは1つの被害額の推定である。これから建物が地震の後どんなになっているだろうかを想定し、建替費用の何パーセントがこの損害の修復に必要か、居住者の何パーセントが入院することになるか、怪我はどの程度のものになるか、何パーセントの住居が居住不能となるか、所帯の何パーセントが別の場所に居住せねばならなくなるか、などの被害額の推定をひきだす。

 

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