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EPCF
※「国土庁防災局」は、2001年より、「内閣府(防災部門)」になりました。
米国における地震被害軽減に関する公共政策
 

XIV. 今後の方向性
・ 複数災害への対応
 米国において地震は、死者数や危険度、頻度の点で最も突出した自然災害というわけではなく、また、地震の危険が高い州でも地震以上に懸念度の高い災害は存在している。例えば、竜巻による死者数は地震のそれを上回っている。こうした地域では、複数の災害に対する被害軽減、準備、緊急対策、復興計画などが必須となる。

 単一の災害対策に対する調査や広報活動などを今後とも強力に推進することは重要だが、複数災害への対応を行うことが実利的なことも多い。カリフォルニア州の安全原理はすべての災害に対応しており、建築基準規定は地震、強風、火災に対応している。また、緊急対策計画は複数災害を想定している。新設の「複数災害被害軽減評議会」(Multi Hazard Mitigation Council)は、あらゆる種類の災害対応基準を統合する単一の規定を策定するため、最近になって設立された。

・ プロジェクト効果
 FEMAは1997年、プロジェクト効果と呼ばれる新たな被害軽減計画に着手した。FEMAは、地域社会の協力で自然災害への対応に向けた行動を起こしている。この革新的作業の担当がFEMAの長官補(associate director)、マイケル・アームストロング(Michael Armstrong)氏である。官民協力によるパートナーシップ体制で運営される地域社会が、災害やそれに対するコミュニティの危険性を特定し、危険軽減政策の優先順位 を策定するほか、地域社会内の啓発活動も実施する。プロジェクト効果の基本となっているのは、パートナーシップの原則である。共通 目的を持ち、異なる機能を有する複数の機関が、相互利益のため協同することになる。各地域社会は、それぞれの災害対策に応じた計画を策定し、危険度に加え、社会的、経済的、政治的状況を考慮して実施される。FEMAをはじめとする各連邦機関、及び州政府レベルの緊急事態管理庁当事者らは、各地域社会へ助言、物資、有限な資源などを提供し、資金援助を行うことで支援することになる。

 FEMAの調査結果によると、将来、長期的な被害を効果的に抑制するためには、地域社会全体(民間企業、政府部門、地域の指導者、連邦・州レベルの機関、非政府団体や学校関係者)が広範囲にわたって相互援助的な複数災害対策を実施することが必要である。成功の是非は、ハリケーンや地震に備えた建築物強化や、氾濫地域からの移転など被害軽減策が完了したことによって決定される。また、地方自治体による建築基準規約の適用や執行、新築物件の危険性を軽減し、既存の危険建築を使用しないといった土地使用のあり方や、一般 に対する広報活動を行うなどの新政策実施によっても決定される。FEMAはこうした計画用予算として約3500万ドルを計上しており、計画に参加する地域社会に対しては小額の資金供与を申し出ている。FEMAの予算よりはるかに重要なことは、被害軽減の可否が地域社会の参加や複数の資金調達を可能にすることにかかっているということを理解することである。

  このことを示すシアトルでの好例がここにある。住宅の所有者らに対する土台改築の奨励計画が発表されたのは、ほんの3週間前であった。約20万戸が1950年以前に建築されており、当時の建築基準では土台の固定にボルトを使用することが決められていた。この際、地域社会単位 で、建築業界関係者や建材販売店、建築業者団体、銀行等が協力し、手続きや許可の促進、建築計画の標準化、低利でのローン、器具貸し出し、所有者や業者に対する作業に関する講義などが行われた。適切に土台の改築を行われた家屋は、耐震性も高く、震災後の居住にも耐える可能性が高い。

・ 災害対応大学計画−次のステップとして
 全米に2000校あり、数百万人の学生を抱える4年制大学の多くは、自然災害の脅威にさらされている。大学は将来の指導者養成機関として、また、将来の経済多様化や規模拡大の基礎を提供するなどして多大の社会貢献をしている。連邦政府は、大学レベルでの調査研究に依存しており、年間250億ドルを拠出している。残念ながら、多くの大学が自然災害に対する耐性がないという事実はあまり理解されておらず、被害軽減についても注意も充分に払われているといいがたい。

  FEMA長官(Director)、ジェームズ・リー・ウィット(James Lee Wit)氏はこの日の午後、カリフォルニア大学バークレー校で開催される学長会議で、この新計画について発表する。当初は、同校での大学における被害軽減手法の試験ケースとして始めることとなっている。この方法論は、地域社会に加え、同額に新たなアイデアや専門的な働き手を依存している産業界などの利権者を含めたパートナー制によるものである。第1段階では同校が、災害やそれに対する建築物、システムなどの危険性を特定した文書の提示が行われる。また、被害推定額や経済的な影響をモデル化したものも作成され、包括的な危機管理軽減・管理計画が用意される。第2段階では、より多様な状況や災害に対応するため、方法論をより精密なものとする目的で、他のキャンパス数ヶ所を対象として追加する。そしてFEMAは、第3段階で長期的な大学中心の災害対策計画として、全米の大学を対象とすることを希望している。

 プロジェクト効果と災害対応大学計画は、連邦レベルでの被害軽減政策の今後にとって重要な視点を提供している。

- 連邦政府による指導と知識移転の権限が強調されている。
- 複数の災害が見られる地域では、複合災害対策が適切である。
- 地方自治体の指導者こそ被害軽減計画の立案と監督に最適である。
- 多くの機関が危険対応の権限を分有し、被害軽減の利益も共有し、その成功に対する強い興味を有しており、パートナー制による運営が最も適している。

 

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