防災の動き

インドとの防災協力

在インド日本国大使館参事官 古橋 季良(※1)

1.インドの自然災害

インドは、インドプレートとユーラシアプレートの境界に位置しており、中~大規模な地震活動が活発です。2001年のグジャラート地震により約1万4千名の死者が出たほか、2015年4月のネパール地震の際にはデリーでもかなりの揺れがありました(全く正確ではありませんが筆者の体感では震度3くらいかなと感じました)。

また、毎年モンスーン時期に発生する洪水や土砂崩れによる被害も甚大です。2013年6月にウッタラカンド州、ヒマチャル・プラデシュ州で発生した洪水・土砂崩れでは4,000名以上が亡くなっています。サイクロンによる被害も大きく、1999年にはオリッサ・スーパー・サイクロンで10,000名以上が亡くなりました。2004年のインド洋大津波では10,000名以上の犠牲者が出ています。逆に、干ばつや熱波の被害も多く発生しています (※2)。

2.日印の防災協力

(1)山岳道路における斜面防災対策

インドの北東州地域は、丘陵・山岳地帯で険しい地形が多く、雨季には、土砂災害による道路の通行止めが頻発し、同地域の経済発展を妨げる要因にもなっています。そこで、ミゾラム州のNational Highway(NH、国道)54及びメガラヤ州のNH51・NH40を対象として道路改良等を行う円借款事業「北東州道路網連結性改善計画」では、同じく山岳道路の多い日本の経験も活かした斜面災害対策が実施されることになっています。

また、技術協力プロジェクト「持続可能な山岳道路開発のための能力向上プロジェクト」も実施中です。現在、JICA長期専門家がインドの道路交通省及び国道庁にそれぞれ1名ずつ派遣されており、インド政府の能力開発や山岳道路整備に係るマニュアル整備等に取り組んでいます。その中で斜面災害対策は重要なテーマの一つです。

(2)治山技術を用いた山地災害対策

ウッタラカンド州では冒頭でご紹介したように2013年6月に大規模な山地災害が発生しました。そこで、日本の治山分野のJICA専門家がウッタラカンド州に派遣され、災害リスクの高い斜面における対策実施の技術支援や技術ガイドラインの整備等に取り組んでいます。

(3)コミュニティ防災の推進

ウッタル・プラデシュ州ヴァラナシでは、日本のNGO・SEEDS Asia(シーズアジア)が日本NGO連携無償資金協力を活用してコミュニティの防災力向上に取り組んでいます。防災情報・活動の拠点としてクライメート・スクール5校に気候・環境測定機材を設置し、周辺の学校やコミュニティとともに環境・防災教育、防災訓練の実施等、草の根レベルからの防災・減災活動の普及を目指し活動中です。

(4)水災対策

水災対策については、JICAの訪日研修を通じてインド政府職員等を対象とした能力開発に協力しています。また、「日本-世界銀行防災共同プログラム」の一環でインド視察団が複数回にわたって訪日し、水資源機構等の実績と経験を共有しました。水資源機構は、世銀の支援の下、2016年10月ウッタラカンド州のイチャリダムで地震時緊急対応訓練を実施し、その後、当該ダムの地震対応マニュアルを策定しました。現在も同様の支援をジャルカンド州マイソンダムにて実施中です。

(5)建築物の地震対策

インドでも建築物の地震対策は重要です。ここ数年、毎年インド政府職員がJICAの課題別研修等で日本に派遣されている他、2017年10月末から11月初めにかけて日本免震構造協会がベンガルール及びアーメダバードにおいて建築物免震制震技術普及ワークショップを実施しました。

西ベンガル州ティンダリア付近で発生した道路斜面崩壊の様子(画像:筆者撮影)
西ベンガル州ティンダリア付近で発生した道路斜面崩壊の様子
(画像:筆者撮影)

3.今後への期待

インドのモディ首相は、グジャラート地震からの復興をグジャラート州首相として経験しており、防災に大変熱心です。2016年11月には第7回アジア防災閣僚会議がデリーで開催されました。

このように、防災に係る様々な分野で日印協力が行われておりますが、インドの災害発生状況を踏まえれば、まだまだ協力を拡大する余地は大きいものと思われます。年9月には、安倍総理の訪印のタイミングで日本の内閣府とインド内務省が防災分野における協力覚書(Memorandum of Cooperation)に署名しました。特に、予防、対応並びに「より良い復興」のための復旧及び復興、地震リスク管理に関する早期警報システム、津波の啓発、早期警報等の分野での協力が確認されました。今後の防災分野での日印の協力関係がますます深化、拡大することを期待しているところです。

身近なものでつくる担架の事例(画像提供:SEEDS Asia)
身近なものでつくる担架の事例
(画像提供:SEEDS Asia)

(※1)本稿は筆者の個人的見解です。

(※2)犠牲者数は、インド国家防災庁(National Disaster Management Authority)のデータに基づいています。

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