防災の動き

濱口梧陵国際賞を受賞(高知県・黒潮町)

黒潮町長 大西 勝也

我が国の津波防災の日である11月5日が2015年12月の国連総会において「世界津波の日」として制定されたことを契機に、沿岸防災技術に係る国内外での啓発及び普及促進を図ることを目的として創設された「濱口梧陵国際賞」を黒潮町が受賞いたしました。

濱口梧陵国際賞の受賞式の様子
濱口梧陵国際賞の受賞式の様子
(平成29年11月1日 海運クラブにて、前列右から2番目が黒潮町長)

1.黒潮町における南海トラフ地震の被害想定

平成24年3月31日に中央防災会議が発表した南海トラフ巨大地震の新想定において、最大震度7、最大津波高34.4mと全国でも最も厳しい想定が黒潮町に突き付けられました。また、新想定発表直後の新聞記事には、「町の存続すら危ぶまれる結果」や「町が消えてしまう」といった内容が掲載され、町内には避難することをあきらめてしまう、いわゆる避難放棄者を数多く生み出すような危機感が広がりました。

そういった状況の中で、黒潮町では、厳しい想定に対しても「避難放棄者を出さず、南海トラフ地震と日本一うまく付き合う」ということを基本理念とする「黒潮町南海地震・津波防災計画の基本的な考え方」を定め、それに示された指針に基づき地震・津波対策を住民と行政が協働で進めています。

2.住民と行政が協働で進める地震・津波対策

避難放棄者を出さない地震・津波対策を進める上で最も大きな課題は、津波の到達予測時間内に全町民が避難可能となる高台が圧倒的に少なかったことです。新想定発表以降は全ての町民が避難することが可能となる避難場所等の整備が急務となりました。まずは、地区毎に住民が集まり、避難における地区の課題や必要となる避難場所の検討を行うため現地調査及びワークショップを継続して実施しました。また、行政としても地区と協働できる体制を確保する必要がありましたが防災担当職員だけでは人員不足であったことから、全職員が通常業務に加えて防災業務を兼務する「職員地域担当制」を導入して各地区に担当職員を配置することで、それぞれの地区を支援することが出来る体制を確立しました。

その後は、地区主体で現地点検及びワークショップの結果を図面に整理し、避難道・避難場所等の整備計画を立案し、現在は行政により平成30年度を目標に約230路線の整備を進めています。また、海岸に近い地区で津波が到達すると想定されている時間内に高台へ避難が困難な場所には津波避難タワーを計画し、平成28年度末に全6基が完成しています。

佐賀地区津波避難タワー
佐賀地区津波避難タワー

3.住民一人ひとりに合わせた避難計画

避難行動が困難な住民に対しては一人ひとりに合わせた個別の避難計画や自動車避難のルールなどが必要となります。また、地区が取り組みを進める上でも、それぞれの地区内に居住する住民の状況はしっかりと把握しておくことが必要であることから、その基礎的状況の把握を行うため、津波浸水が予測される40地区を対象に全世帯の避難行動調査として「戸別津波避難カルテづくり」を実施しました。このカルテでは、世帯毎の家族構成から始まり、避難予定場所やその経路・移動手段、避難上の心配事など、津波避難計画を策定する上で重要となる様々な情報を調査票に記入しました。調査にあたっては、40地区をさらに283の班に分けることで、きめ細やかなワークショップを開催し、対象となる全世帯3,791世帯で記入することが出来ています。調査後は、その結果を用いて地区内の避難行動要支援者の支援体制検討や避難空間の整備計画など様々な取り組みに活用されています。

4.黒潮町缶詰製作所の設立

日本一厳しい想定に怯まず、防災対策に真摯に取り組んできた結果、黒潮町は「防災の町という資源」を手に入れました。その資源を活用し、発災時の非常食の確保及び町内の雇用の場の創出を主な目的として、地域の食材を利用した缶詰の製造・販売を行う缶詰製作所を設立しました。犠牲者ゼロを目指す町として、町が作る非常食は、多くの方が安心して食べることができるよう、食物アレルギーにも配慮した商品としており、災害時こそ心身にストレスを与えない、おいしく、食べ慣れた食品が求められるという調査結果を基に商品づくりを行っています。

5.国内外への地震・津波対策の普及・啓発

行政と住民が一丸となり早期対策を進めてきましたが、その取り組みが様々なツールを介して他地域にも情報が広がっており、その結果として黒潮町へ視察にお越しいただく機会が増えてきています。また、町職員が全国各地に赴いて講演等を行うことにより各地域での地震・津波対策に関する普及・啓発活動をさせていただいています。

尚、普及・啓発の活動は国内だけではなく、国際協力機構(JICA)が実施している研修の受け入れや平成28年11月に高知県とともに「世界津波の日高校生サミットin黒潮」を黒潮町で開催するなど、海外へ向けての津波対策に関する情報発信を行っています。

6.濱口梧陵国際賞の受賞に際して

本賞を黒潮町が受賞したことについては、これまでの行政と住民が協働で積み重ねてきた、黒潮町の地震・津波対策を国内外問わず高く評価していただいた結果だと思います。 犠牲者ゼロを目指して、一つ一つ必要な事、出来る事を続けてきた結果であり、評価されることを目的として取り組みを進めてきたわけではありませんが、名誉ある本賞を受賞したことは間違いなく黒潮町の今後の防災を進めていく上で大きな励みになります。

本賞の受賞を契機に、今後もさらに行政と地域の協力を深め、防災の取り組みを一歩ずつしっかりと進んでいければと考えています。

  • 佐賀地区津波避難タワー
    佐賀地区津波避難タワー
  • 佐賀地区津波避難タワー
    佐賀地区津波避難タワー

(画像提供:すべて高知県幡多郡黒潮町)

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