防災の動き

南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく 防災対応検討ワーキンググループについて

https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taio_wg/taio_wg.html

1.検討の背景

駿河湾から日向灘に至る南海トラフ沿いの地域では、これまでおおむね100~150年の周期で大規模地震が繰り返し発生し、その度に大きな被害が生じてきた。昭和50年代前半には、駿河湾周辺を震源域とする東海地震の切迫性が高いことが指摘され、地震の直前予知が可能であるとの考えの下、昭和53年に大規模地震対策特別措置法(以下、「大震法」という。)が制定された。大震法では、地震予知情報を受けて警戒宣言が発令された場合に、国及び地震防災対策強化地域内の地方公共団体及び関係事業者等が、それぞれ事前に定めた計画に基づいて緊急的な対応を的確に実施することで被害を軽減すること等が主に定められている。

しかし、平成25年に中央防災会議の下に設置された調査部会で、現在の科学的知見からは確度が高い地震の予測は困難との報告がなされた。その一方で、南海トラフ沿いにおける観測網の充実により地震に関する様々な異常な現象を捉えることも可能になってきた。また、南海トラフ全体についても、昭和東南海地震・昭和南海地震から約70年が経過しており、大規模地震の切迫性が高まってきている。

こうしたことを背景に、平成28年9月以降、「南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会」(以下、「予測可能性調査部会」という。)において最新の科学的知見に基づく大規模地震の予測可能性について検討を行うとともに、「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ(以下、「ワーキンググループ」という。)」の下で、予測可能性調査部会での報告をふまえ、現在の地震学の知見を前提とした防災対応のあり方等について検討を行い、今年9月に報告書がとりまとめられた。

(図1)南海トラフ沿いで発生する典型定期な異常な現象
(図1)南海トラフ沿いで発生する典型定期な異常な現象
「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応のあり方について(報告)」P22掲載

2.報告の内容

予測可能性調査部会において、最新の科学的知見に基づいて大規模地震の予測可能性について改めて検討した結果、現時点では、大震法に基づく現行の地震防災応急対策が前提としている確度の高い地震の予測はできないのが実情とされ、これを受け、ワーキンググループの報告では、現行の地震防災応急対策は改める必要があるとされた。その一方で、現在の科学的知見を防災対応に活かしていくという視点は引き続き重要であり、南海トラフ沿いで観測される異常な現象を評価し、どのような防災対応を行うことが適切か、地方公共団体や企業等と合意形成を行いつつ検討していくことが必要であるとされた。

報告書では、南海トラフで観測され得る異常な現象のうち、観測される可能性が高く、かつ大規模地震につながる可能性があるとして社会が混乱するおそれがあるものについて、「典型的な4つのケース」として評価が行われた。それぞれのケースの概要は図1の通りである。

ケース1・2については、過去の事例に基づき、短期的な地震発生の可能性を定量的に評価可能であることから、発生した場合の被害が甚大であることを考えると、通常より一定程度大規模地震の発生の可能性の高さが認められる期間内に、避難を含む何らかの応急対策を講じることの意義がある。また、防災対応の内容や期間の検討に当たっては、可能性の高さだけでなく、防災対応によって得られる被害の軽減効果と防災対応に伴う損失のバランスによって決めることが適当とされ、地方公共団体や関係事業者等と社会的合意を得る必要があるとされた。更に、今後の検討を進める際の参考となるように、津波避難の場合の考え方が示されている(図2)。また、ケース4については、「定量的な地震発生の可能性の評価ができないため、社会全体で防災対応をとることは難しいが、行政対応が警戒態勢をとるなどの防災対応に活用することは可能」とされた。なお、ケース3については、「その評価情報を防災対応に活かす段階には達していない」とされている。

報告書では、その他、異常な現象が確認された際に、各主体が適切な防災対応を実施するために、各主体があらかじめとるべき防災対応を定めておく必要があり、その防災対応を一斉に開始する仕組みの検討が必要であるとされた。

また、観測・評価体制については、南海トラフ西側の領域での地殻変動の調査の充実や南海トラフ全体で迅速に評価できる体制が必要であるとされた。

(図2)防災対応の方向性(今後の具体的な検討のための津波避難の考え方の例)
(図2)防災対応の方向性(今後の具体的な検討のための津波避難の考え方の例)
「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応のあり方について(報告)」P30掲載

3.今後の取り組み

異常な現象が確認された際の新たな防災対応の具体化に当たっては、地域の実情に応じて、大規模地震発生前に、津波避難を含めて、どのような防災対応が考えられるか、また、防災対応を実施した場合にどのような課題があるのか等を丁寧に議論し、社会的合意が図られるようにする必要がある。このため、内閣府では、まずは静岡県、高知県、中部経済界と協力してモデル地区において具体的な防災対応の検討を進めて行くこととしている。

また、報告を踏まえ、政府は、中央防災会議幹事会において、「南海トラフ地震に関連する情報」が気象庁により発表された場合の政府の当面の防災対応について決定し、11月1日からこれに基づく取り組みを始めたところである。

今後、国としては、地方公共団体や関係事業者等と連携しながら、上記のようなモデル地区での検討も踏まえて、新たな防災対応の具体化を進め、必要に応じて法令等の見直しや新たな制度の構築を行うことで、我が国の防災力の一層の向上を図って参りたい。


〈内閣府(防災担当)調査・企画担当〉

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内閣府政策統括官(防災担当)

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