特集 想像力を高めて「もしも」に備える! 災害をイメージし、防災につながる行動へ【コンテンツ編】

[イメージトレーニング PART 1] -2/2-
クロスロード実況中継
みんなの防災意識が高まりました

防災研修やリーダー研修などにクロスロードを取り入れるところが増えている。ここでは、クロスロード考案者の一人である吉川肇子先生を招いて行われた、東京消防庁主催の東京都女性防火組織幹部研修会の模様をお届けしよう。

 クロスロードの中でも人気の問題、「家族同然の飼い犬(ゴールデンリトリーバー)を避難所に連れていく?」について、各テーブルで活発な意見交換が行われた。
 「犬嫌いな人もいるからねぇ」
 「うちの近所は犬を飼っているところが少ないので、この問題のようにはならないと思う」
 「犬の避難所も作ればいいのよ」という、カードの問題自体に関する意見から、避難所への新しい提案まで出た。「被災時には意外な問題も起こるものだ」と考えたり、「もし自分だったら」「他の人はこんなことを考えているのか」、と参加者全員が多様な「気づき」に発展している様子。
 ファシリテーター(進行役)の吉川肇子先生が「犬のために避難所へいかず、倉庫で暮らす方もいます。近頃はNPO法人などが、『ペットの避難所』を設置する例も出てきています」と、問題カードの背景を話すと、「なるほど」と納得する参加者。
 「ゲームっていうから寝ちゃうかと思ったけど、意見交換が楽しくて。あっと言う間でした」「地元でもやってみたい」との声も。それぞれの心に多くの気づきを残しつつ、初めて出会った人同士が、帰り道でも問題について話し合う姿も見られた。
 「防火・防災の手法を見つけだすことと、横の連携を持ってもらうため、今年初めてクロスロードを行いました。参加者からはたいへん好評で、知らない人同士でも活発なコミュニケーションができたようです」と、東京消防庁防災部生活安全課の市川哲也さん。
 災害対応においては、必ずしも正解があるとは限らず、また、過去の事例が常に正解でないこともある。ゲームを通じ、それぞれの災害対応の場面で、誰もが誠実に考え対応すること、また、そのためには災害が起こる前から考え、備えをしておくことが大切である。

家族同然の飼い犬(ゴールデンリトリーバー)を避難所に連れていく?

YES

YES

体育館の中に入れなければ、連れていっても構わない。嫌いな方もいるだろうが、お年寄りや子どもを癒してくれることもあるのでは。まずは一緒に避難させて、やめてくれと言われたら外に出せばいい。

NO

NO

連れていくとしても体育館の外なり、そういう場所があればいいけど。地震のニュースを見るたび、いつもペットはどうしているんだろうと気になる。避難所から自宅に戻って生きてた姿を見ると、切なくなる。連れていきたいという気持ちもわかる。

クロスロードをもっと深く見つめるためのクロスノート

 真面目に、ときには楽しいおしゃべりで進行するクロスロード。しかし、問題点をしっかり振り返るためには、紙に「Yes」「No」双方の意見を書き留め、視覚化することも大切だ。

あなたは市民。
大きな地震のため、避難所(小学校体育館)に避難しなければならない。しかし、家族同然の飼い犬“もも”(ゴールデンリトリーバー、メス3歳)がいる。一緒に避難所に連れて行く?

YES 連れていく or NO 置いていく

YES(連れていく)の問題点

  • 犬が嫌いな人(犬アレルギーの人)の迷惑になる
  • 他の人に飛びかかったりする恐れも
  • 鳴き声がうるさい
  • 排泄物の処理に困る
  • 1人のエゴ(犬を連れていくことをエゴだとすれば)を許せば、わがままを言い出す人が次々出てくるかもしれない

NO(置いていく)の問題点

  • 犬がかわいそう
  • (飼い主が)心配になる、気になってしょうがない
  • 犬の餌がない
  • 繋がれているため、何かあったときに犬が逃げられない

その他の意見

  • 犬専用のグッズがたくさんあるなら、犬の避難場所、道具なども必要では
  • 犬がいれば泥棒に入られにくい(?)
  • 行政にも災害時のペット対策について考えてほしい

クロスノートは、全員が、一つの問題に対して「Yesの問題点」「Noの問題点」の両方を提案し、ゲームで増えた多様な視点や、その数を「視覚化」するためのもの。具体的な理解を助ける効果がある。

クロスノート

「クロスロード」は答えのないところに意味がある

文:慶應義塾大学商学部准教授 吉川 肇子

 クロスロードは2003年8月13日に誕生した。その日慶應義塾大学のとある会議室で、私たち3人(京都大学矢守克也先生、ゲームデザイナー網代剛さん、と私)は、防災の研修用教材を作るという研究プロジェクトの相談をしていた。網代さんがアメリカ出張のお土産のカードゲームを紹介し、私がそれを翻訳したのだが、これは倫理的なジレンマをどう解決するかを話し合うものだった。「ジレンマなら災害対応の場面ではよくあるね」と矢守先生が言い、「そうだ!」ということで「災害対応のジレンマを表現したゲームを作ろう」となったのである。
 ルールでこだわった点は2つである。1つは、イエスかノーしか選択できないこと、もう1つは、少数派の意見に金座布団が与えられることである。本来クロスロードの問題は、「場合によりけり」というようなものばかりである。しかし、場合によりけりといっているうちは、解決方法も、それどころか問題そのものも、本当のところは曖昧なままなのだ。「2つのうちの1つしか選べない」という制約を課されてはじめて、人は問題を真剣に考え出すようになる。また、金座布団ルールは、少数派の意見を尊重するという私たちのメッセージを込めたものである。多様な意見や情報を感度よく日ごろから聞いておくことが、災害に限らず危機管理では重要であるが、クロスロードを通して、それを訓練するという意味もある。
 金座布団には隠れた効用もある。実際、「金座布団狙いで」と言いつつ、少数意見を表明するプレイヤーは少なくない。ここで、金座布団狙いということが、ゲームを楽しくするためにあえて自分の意見とは異なる意見を表明しているのか、それとも「金座布団狙いで」と弁明しながらも自分の意見を表明しているのか、どちらであるかは問わない。また、それを問わなくても意見表明ができるところがクロスロードの良さといえる。
 心理学の研究成果の中に、完了した課題よりも未完了課題の方を、人はよく覚えているというものがある(「ツァイガルニク効果」という)。実際、仕上げた仕事は忘れてしまうが、やりかけの仕事はいつまでも気になって忘れられないという経験を持っておられる方も多いと思う。クロスロードは答えがはっきりしないことが嫌だと言われる方もいるが、むしろそうであるからこそ、すなわち未完了課題であるからこそ、いつまでも記憶に残り、防災について考え続けるための道具となっているのである。

吉川肇子さん

きっかわ・としこ
1982年京都大学文学部卒業、85年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了、88年京都大学大学院文学研究科博士課程修了。京都学園大学法学部、筑波大学社会工学系を経て、98年より慶應義塾大学商学部に。専門分野は、組織心理学、リスク心理学。主な著書は『リスクとつきあう』など。

撮影:高島宏幸

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内閣府政策統括官(防災担当)

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