特集 風水害の危険! そのとき、 あなたは?

避難勧告が出ても身の危険を感じる人は30%!
人は逃げないもの、ではどうする!?

台風や大雨が発生して、避難勧告が出されたとき、あなたならどうしますか? 調査によれば避難勧告が発令されても、身に及ぶ危険を意識しない人が5割強も。人はなぜ逃げないのか、群馬大学の片田敏孝教授にお話をおうかがいしました。

災害時に、なぜ人は逃げないのか

 被害に遭った人たちに調査をすると、大抵の人は「逃げようと思った」と言います。逃げなければならないということは百も承知している。けれども、最終的に「逃げる」という決断をしなければ、結果として人は「逃げていない」のです。
 これは人間の性(さが)と言ってよいと思いますが、災いに対して「正常化の偏見」という心理が働きます。人間は、自分にとって都合の悪い情報は無視するという特性があるのです。同じ情報でも都合の悪いことは過小評価し、都合のいいことは過大評価する。たとえば、1年間に交通事故で6000人が亡くなっていると聞いても、自分がその中の1人になる可能性があるとはなかなか思えません。ところが宝くじで1等の1億円が6000人に当たると言われると、そちらは当たるような気がする。実に都合のいい考え方をするのが人間なのです。
 頭では逃げるべきだとわかっていても、実際に自分は逃げていない。そこに矛盾が生じますが、それを解消するために、人は逃げていない自分を正当化しようとします。かつて大雨や津波がきて避難勧告が出されても自分は一度も大きな被害に遭わなかったとか、隣の家も逃げていないとか、理由は何でもいい。隣は隣で同じように「隣も逃げていない」と思うことで「安心のネットワーク」がつくられてしまい、結果、地域全体で逃げ遅れてしまう可能性もあります。

災害時に、なぜ人は逃げないのか。

 逃げる、避難するという行為は、家屋家財をすべてそこに置いたまま立ち去ることですから、そもそも簡単なことではありません。むしろ人は逃げられなくて当たり前だとすら言えます。こうした状況下で必要になるのが、「率先避難者」の存在です。逃げる気はあるけれど逃げられない人たちの中にあって、「私は逃げるぞ」と声を大にして避難する人が、地域に1人はいてほしい。町会長でも誰でもいいのですが、そうした役割を担う人がいることは、地域の防災力を高める上でも重要です。
 逃げなければならないことは百も承知の住民に、頭ごなしに逃げることの必要性を訴えても意味がありません。そこで重要になるのは日ごろからの防災教育ですが、その材料のひとつとして有効なのがハザードマップの作成・配布です。現在、国土交通省が洪水ハザードマップの作成を義務化しているため、全国約1500の自治体で作成・配布の必要に迫られていますが、一方でハザードマップは「災害イメージの固定化」を生む危険性があることも考慮すべきでしょう。マップに「浸水1m区域」と書かれた地区の住民は、「そのくらいであれば自力でなんとかなる」と思い込んで避難が遅れる可能性もあります。次にくる水害がマップに書かれている水深である保証はまるでありません。それ以上かもしれないし、以下かもしれない。ハザードマップは地域の災害リスクに気付くきっかけとしては有効ですが、行政側が配る際には「ここに書かれてあることはあくまでも目安です」と言わなければなりません。
 従来のハザードマップを改善すべく、私は今、愛知県清須市で地域の災害リスクに気付いてもらうための「気づきマップ」と、いつどのようなタイミングで避難すべきかを盛り込んだ「逃げどきマップ」を作成しています。たとえば、木造の住宅と鉄筋のアパートでは避難の仕方が異なり、マンションの4階であればすぐに逃げずに自宅にいた方が安全というケースもあります。いたずらに恐怖心を煽るのではなく、自分の住んでいる場所の災害リスクと、個々の状況に即した避難の仕方を住民一人ひとりに客観的に知ってもらうこと。完全な防災より、可能な限り被害を小さくする「減災」を目指すことが、まずは重要なのです。

片田 敏孝さん

群馬大学大学院工学研究科
社会環境デザイン工学専攻
教授 片田 敏孝
かただ としたか
1960年、岐阜県生まれ。豊橋技術科学大学大学院博士課程修了後、東海総合研究所、岐阜大学工学部を経て、群馬大学工学部へ(改組により、現在は群馬大学大学院工学研究科)。主な研究分野は、災害社会工学、公共経済学、地域計画学など。文部科学大臣表彰科学技術賞、国際自然災害学会賞、土木学会論文賞などを受賞。防災関連のシンポジウム、講演なども多数行っている。

取材&文:さくらい伸 イラスト:井塚剛

風水害から身を守るには「把握する」「避難する」「声をかける」

 過去10年間(平成10年〜19年)の自然災害による犠牲者をみてみると、風水害による犠牲者は692人と最も大きい数字になっています。特に平成16年には全国で死者が230人を数えるなど大きな被害となりました。こうした犠牲者をゼロにするにはどうしたらいいのでしょう。

1「把握する」
 住んでいる地域のどこが危険で、いざというときにどう避難すればいいのか。防災ハザードマップなどを参考に日頃から危険箇所や避難経路を把握しておきましょう。
2「避難する」
 被害の中でも外出時の死亡事故が相当数にのぼっています。台風や大雨の際の外出は極力控えましょう。また、大雨警報や土砂災害情報などに注意し、避難勧告が出されたらすみやかに避難しましょう。
3「声をかける」
 逃げ遅れによって死亡した高齢者の方がたくさんいます。避難勧告に気づいていない人には声をかけるようにしましょう。ひとりでは逃げられない方の避難には地域の協力が必要です。日頃より防災について話し合い、助け合いながら、犠牲者ゼロをみんなで目指しましょう。

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