3−1 震災対策 (2)地震に関する調査研究・観測の推進



(2)地震に関する調査研究・観測の推進

a 地震の監視・観測と地震情報

(a) 地震活動の監視,観測

気象庁は,地震発生時に速やかに震源の位置や地震の規模を推定し,緊急地震速報,地震に関する情報や津波警報等を発表するため,全国に地震計(地震により発生した地震動を計測し,記録する機器)を設置して,オンラインで観測データを収集し,地震活動を監視している。また,地震発生時に各地の揺れの強さを直ちに把握するため,全国に震度計(地震計の一種で,計測された地震動から計測震度を算出する機能を有する地震計)を設置するとともに,独立行政法人防災科学技術研究所の震度計機能を有する強震計(地震計の一種で,強い揺れを記録する地震計)や地方公共団体の震度計を活用することによって,高密度な震度観測網が構築されている(表2−3−2)。

表2−3−2 緊急時の防災情報発表のための地震及び震度観測 表2−3−2 緊急時の防災情報発表のための地震及び震度観測の表

また,東海地震や東南海・南海地震等の海溝型地震を早期に把握するため,気象庁は,東海沖にケーブル式海底地震計を設置するとともに,独立行政法人海洋研究開発機構は,紀伊半島沖熊野灘に海底地震計の整備を進めている。

地震調査研究推進本部は,平成9年8月に「地震に関する基盤的調査観測計画」を,平成13年8月に「地震に関する基盤的調査観測計画の見直しと重点的な調査観測体制の整備について」を,平成17年8月に「今後の重点的調査観測について」を決定し,文部科学省,気象庁,国土地理院,独立行政法人防災科学技術研究所,国立大学法人等の連携のもと,これらの計画に基づいて地震観測の体制整備を進めている(表2−3−3)。なお,同本部の方針の下,事務局を務める文部科学省は,気象庁と協力して,独立行政法人防災科学技術研究所や国立大学法人等の保有する高感度地震計(無感地震等の微小地震による振幅の検出できる地震計)及び広帯域地震計(測定周波数範囲が広く,大地震の検知や遠く離れた震源から伝播するゆっくりした流れまで検知できる地震計)のデータと気象庁のデータを即時的かつ一元的に収集・整理するシステムを整備しており,気象庁はこれらのデータの処理を行っている。これらの観測データは関係機関で共有され,地震調査研究推進本部における地震活動の評価等に活用されるとともに,気象庁における地震活動の監視に活用されている。

表2−3−3 調査研究のための基盤的観測 表2−3−3 調査研究のための基盤的観測

(b) 緊急地震速報

緊急地震速報は,地震発生直後に震源に近い地震計でとらえた初期微動(P波)の観測データを解析して震源や地震の規模(マグニチュード),各地での強い揺れ(S波,主要動)の到達時刻や震度を秒単位の短時間で推定し,可能な限り素早く知らせる情報である。住民や企業等がこれらの情報を強い揺れが到達するまでの短い時間に入手し,何らかの対策を講ずることができれば地震被害の防止・軽減が可能となる。このため,気象庁は,平成18年8月より,防災機関や一部企業などの高度利用者向けに緊急地震速報の提供を始め,平成19年10月からは,最大震度5弱以上が予測される場合に一般向けの発表を開始した。また,同年12月の気象業務法の一部を改正する法律(平成19年法律第115号)の施行により,緊急地震速報が地震動の予報・警報として位置づけられた。

平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震や平成21年の駿河湾を震源とする地震においては,従業員による避難通路の確保,製造機械の停止,保育園における子供たちの安全の確保など,緊急地震速報が有効活用された(図2−3−6)。その一方で,最初に初期微動を検知してから各地に強い揺れが到達するまでの時間が数秒から数十秒程度と極めて短いため,震源に近いところでは情報が間に合わない場合があることや,震度の予測には±1程度の誤差を伴うといった技術的な限界もある。緊急地震速報を適切に利用するためには,このような情報の特性や技術的限界を十分に理解する必要があることから,気象庁では「緊急地震速報の利用の心得」をとりまとめ,国民に対する周知・広報及び利活用の促進に取り組んでいる。

図2−3−6 緊急地震速報の活用事例 図2−3−6 緊急地震速報の活用事例の図

なお,平成19年3月に開催された中央防災会議において緊急地震速報の提供に向けた取組みが紹介され,内閣総理大臣から,関係閣僚に対し,「緊急地震速報を有効に利活用するための方策について検討を進めるとともに,政府一体となって,国民への普及・啓発に取り組んでいただきたい」との指示が出された。

これを受けて,内閣府では「緊急地震速報の周知・広報及び利活用推進関係省庁連絡会議」を設置し,各省庁の所管分野における,緊急地震速報を有効に利活用するための方策の検討や国民への普及・啓発に係る取組み等について情報交換を行うとともに,各省庁の取組みのとりまとめを行っている。

なお,平成21年から,地震防災対策用資産の取得等に関する特例措置(所得税・法人税・固定資産税)として,緊急地震速報受信装置及びその関連設備の整備について,所得税・法人税の特別償却制度(平成23年3月末までの措置で,対象資産を事業の用に供した最初の事業年度において,取得価額の20%相当額を普通償却限度額に加算して償却できる)及び固定資産税の課税標準の特例措置(平成26年3月末までの措置で,課税標準を最初の3年間価格の3分の2に軽減する)を設けており,一定の地域及び事業者を対象として,緊急地震速報受信装置等の普及を促進することとしている。

(c) 地震情報

日本及びその周辺で規模の大きな地震が発生した場合,地震発生直後の防災機関の的確な初動対応や国民への情報提供のため,気象庁は地震に関係した各種の情報を発表している。これらの情報は関係省庁,関係地方公共団体等の関係機関や報道機関に直ちに伝達され,これらの機関を通じて,一般住民にも伝達されている。主な情報は次のとおりである。

震度3以上が観測された場合には,地震発生後1分半程度で震度3以上の地域の震度を「震度速報」として発表し,5分程度で震源の位置,地震の規模及び大きな揺れを観測した市町村の震度を「震源・震度に関する情報」として発表している。更に,震度5弱以上が観測された場合,地震発生後10分から30分以内に震度分布の様子を面的に表した「推計震度分布図」を発表している。津波の発生が懸念される場合には,地震発生後3分程度で,予想される津波の高さやその範囲を「津波警報・注意報」や「津波情報」として発表している。また,平成18年10月から,緊急地震速報の技術を活用することにより,一部の地震では最速2分以内で「津波警報・注意報」を発表することが可能となった。

さらに,「気象庁震度階級関連解説表」が作成から10年以上経過したこと等を踏まえ,消防庁と共同で設置した「震度に関する検討会」のとりまとめ結果を踏まえ,平成21年3月に,木造建物や鉄筋コンクリート造建物の状況を耐震性の高低に応じて記載するとともに表現をわかりやすくするなど,解説表の見直しを行った( 附属資料15 )。

b 地震に関する調査研究の推進

(a) 地震調査研究推進本部

地震調査研究推進本部( http://www.jishin.go.jp/main/index.html別ウインドウで開きます )は,阪神・淡路大震災を契機に成立した地震防災対策特別措置法に基づき,政府の特別の機関として文部科学省に設置されており,また,本部の下には政策委員会及び地震調査委員会が設けられている。

政策委員会においては,<1>総合的かつ基本的な施策の立案,<2>関係行政機関の予算等の事務の調整,<3>地震に関する調査観測計画の策定,<4>地震に関する総合的な評価に基づく広報,についての検討を実施している。

なお,政策委員会では,今後10年程度の地震調査研究の基本方針となる計画「新たな地震調査研究の推進について−地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」の検討を進め,平成21年4月21日に地震調査研究推進本部として決定したところである。更に,これを受け,新たに必要となる活断層調査に関する基本的な考え方等を取りまとめた計画「新たな活断層調査について」を策定した。

地震調査委員会においては,関係行政機関,大学等の調査結果等の収集,整理,分析及び総合的な評価を行うこととしており,日本の地震活動について,毎月,分析・評価しているほか,被害地震や顕著な地震活動が発生した場合等には,臨時会を随時開催している。

なお,地震調査委員会ではこれまで,我が国で約2,000あるといわれている活断層のうち,調査の終了した108主要断層帯や,7の海域で発生する海溝型地震について,想定される地震の規模や発生確率を予測する長期評価を実施した(平成22年3月末現在)。また,地震発生時の揺れの予測手法の高度化について検討を進め,その手法について「レシピ」としてまとめるとともに,ある特定の地震が発生した際の揺れの分布の予測を行い公表している。

これらの評価結果を防災意識の向上や地震防災対策の立案等に役立てるため,地震発生の可能性の長期的な評価と強震動の予測とを組み合わせ,「全国を概観した地震動予測地図」を平成17年3月に作成・公表したが,さらに評価手法の高度化を行った結果として,250m四方単位で示した「全国地震動予測地図」を平成21年7月に作成・公表している。

(b) 科学技術・学術審議会(測地学分科会)

我が国における地震予知に関する計画的研究は,昭和39年の「地震予知研究計画の実施について」以来,文部省測地学審議会(現在の文部科学省科学技術・学術審議会(測地学分科会))が建議する計画に基づき推進されてきた。

測地学審議会は,兵庫県南部地震を契機として,第1次計画以来の地震予知計画を総点検し,総括的な計画の見直しを行い,平成11年度からは「地震予知のための新たな観測研究計画」とし,平成16年度から平成20年度までは「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の推進について(建議)」に基づき,研究が推進されてきた。更に,これまでの成果を引き継ぎ,地震予知研究を着実に推進するため,平成21年度からの計画として「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」が平成20年7月に関係大臣に建議された。本計画は,地震と火山噴火が同じ地球科学的背景を持っており,共同での研究が現象理解に有効であることから,火山噴火予知計画と発展的に統合し,「予測システムの開発」をより明瞭に志向した研究に重点を置いた5年計画となっている。

(c) 地震予知連絡会

地震予知連絡会( http://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/ccephome.html別ウインドウで開きます )は,測地学審議会建議「地震予知の推進に関する計画の実施について」(第2次地震予知計画)に基づき,昭和44年4月に発足した(事務局:国土地理院)。同連絡会は,関係行政機関及び大学等と連携し,地震予知に関する調査・観測・研究結果等の情報を交換し,これらに基づき学術的な検討を行っている。

(d) その他

文部科学省は,地震調査研究推進本部の方針を踏まえ,平成16年度まで都道府県及び政令指定都市に地震関係基礎調査交付金を交付し,98の主要活断層帯等を対象として,活断層調査を実施した。平成17年度からは,強い揺れに見舞われる可能性が相対的に高いと判定された地域の特定の地震を対象とした重点的調査観測や,基盤的調査観測の対象となる基準(長さ,活動度等)を満たすことが新たに判明した12の活断層に対する追加調査及びこれまでに行った長期評価の信頼度を高めるための補完調査を実施している。平成18年度からは,「地震・津波観測監視システム」として,地震計,水圧計等の各種観測機器を備えた海底ネットワークシステムを東南海地震の想定震源域に敷設するための技術開発等を実施している。平成19年度からは,「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」として,複雑なプレート構造の下で発生し得る首都直下地震の解明に資する研究等を実施している。また,平成20年度からは,「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究」として,東海・東南海・南海地震の連動発生の可能性評価を含めた地震発生予測の精度向上を目指した研究を,更に,「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」として,ひずみ集中帯の活構造を明らかにし,そこで発生する地震のメカニズムを解明するとともに震源断層モデルを構築する研究等を実施している。

また,独立行政法人産業技術総合研究所では,今後100年間に地震が発生する可能性をできるだけ正確に見積もることを目的に,全国の主要な断層帯等について,必要に応じ他機関との連携の下,活動履歴調査を実施するとともに,活断層及び古地震による地震発生予測の研究を行っている。

国土地理院においては,平成7年度から,空中写真の判読等による地形学的手法により,都市域及び都市周辺地域の活断層の位置を詳細に記した縮尺1/25,000「都市圏活断層図」を作成しており,平成22年3月現在,143面の地図を公表し,随時ホームページ上で公開を進めている。


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