1 主な施策の取組状況



第1部 防災対策に関する現状と課題

第1部においては,平成21年度に実施された主な防災上の取組について,特に具体的なアウトカム指標を有する施策を中心に,進捗状況を明らかにしつつ,課題と今後の施策の方向について記述する。

また,実際の災害に即した形で,具体的な防災施策の効果についての検証事例をみる。

1 主な施策の取組状況

(1)震災対策

<1> 建築物及び構造物の耐震化

阪神・淡路大震災においては犠牲者の8割以上が建築物の倒壊によるものであった。また,中央防災会議では,特に発生の切迫性の高い東海,東南海・南海,首都直下,中部圏・近畿圏直下等の大規模地震について被害想定を実施してきたところであるが,いずれも甚大な死者数が建築物の倒壊を直接的な原因として想定された。こうしたことから,現在,震災対策を推進する上で建築物の耐震性の向上は最重要課題の一つとなっている。さらに,阪神・淡路大震災においては,ライフライン施設をはじめとする施設・構造物の損壊が多く発生したことから,共通の設計概念の下に施設・建築物ごとに新しい耐震基準へと見直し,耐震改修を推進している。

(a) 住宅・建築物の耐震化

阪神・淡路大震災においては,建築基準法上の耐震基準が強化された昭和56年以前に建築された建築物に多くの被害がみられた。この基準を満たさない建築物が現在でも数多く存在しており,一刻も早い改善が必要であることから,耐震診断・耐震改修に係る助成や税制,融資により,住宅・建築物の耐震改修を促進している。建築物の大半を占める住宅の耐震化率は,平成15年の時点で75%から,平成20年には79%となっているものと推計される。

(b) 学校の耐震化

公立学校施設は,児童生徒などが一日の大半を過ごす活動の場であるとともに,災害発生時には地域住民の応急避難場所としての役割をも果たすことから,特に早急な耐震性確保が求められている。平成20年の議員立法により,地震防災対策特別措置法が改正され,国庫補助率の引き上げや地方財政措置の拡充が行われた。また,公立学校施設の耐震化が適切に進むよう,平成21年度1次補正予算まで,地方公共団体からの要望に対応できる予算額を切れ目なく確保した。こうした結果,公立小中学校施設の耐震化率は,平成19年4月1日現在の58.6%から平成21年4月1日現在で67.0%,残棟数約4万1千棟まで進捗し,平成21年度1次補正予算執行後における公立小中学校の耐震化率は約78%,残棟数約2万5千棟になると推計される。

私立学校についても,地震による倒壊の危険性が高い施設の耐震改修事業について,平成20年度補正予算より補助率の引き上げを行っており,私立学校施設の耐震化率は,平成21年4月1日現在で,幼稚園で67.3%,小中学校で78.7%,高等学校で65.4%,特別支援学校で78.0%となっている。また,大学等の耐震化率は平成21年5月1日現在で76.8%となっている。

(c) 病院の耐震化

病院については,災害時において,被災者に対し,迅速かつ適切な医療を提供するという重要な役割を果たすことから,この耐震化は重要な課題である。

民間病院については,平成20年度補正予算により災害拠点病院について,さらに平成21年度予算からは救命救急センター等災害拠点病院以外の病院について,耐震改修工事に対する国庫補助率の引き上げを行った。また,公立病院については地方財政措置の拡充を行った。こうした措置の結果,災害拠点病院等の耐震化率は,平成17年の43%から平成21年度には62.4%まで進捗した。

(d) 公共インフラ等の耐震化

施設・構造物については,阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,防災基本計画において(1)構造物の使用期間中に1〜2回発生することが見込まれる一般的な地震に対しては機能に重大な支障が生じず,(2)使用期間中に発生するか否か不確実ではあるが,ひとたび発生すれば甚大な災害となる大地震に対しては人命に重大な影響を与えないこと,を共通の設計概念とすることを明記した。この考え方に基づいて,施設ごとに耐震基準の見直しが行われ,緊急輸送道路等の橋梁,鉄道駅,河川・海岸堤防,下水道施設,空港施設,港湾施設,水道施設等の公共インフラ及び官庁施設の耐震化を推進している(施設ごとの耐震基準等については 第2部第2章表2−3−4参照 )。

水道施設については,平成19年度に水道施設の技術的基準を定める省令を改正し,水道施設の備える耐震性能を明確化するとともに,平成20年度における水道基幹管路の耐震適合率について調査を行ったところ,全国の水道の基幹管路の中で耐震適合性のある管路の総延長数は,約3万km,率にして28%となっている。

この他,耐震化整備率の主な進捗状況としては,(i)主要な鉄道駅の耐震化工事の実施割合は,40%(平成20年度末),(ii)耐震強化岸壁の整備率は,約65%(平成22年4月末)等となっている。

<2> 密集市街地整備の促進

大規模な地震発生の切迫性の高い首都圏・中部圏・近畿圏には,老朽木造家屋が密集する市街地が多く存在する。このため,地震発生に伴う火災による被害が極めて大きくなることが懸念される。特に,同時多発的に火災が発生した場合,避難や消防機関による消火等が極めて困難となり,人的・物的被害が拡大するおそれが高い。

このため,建築物の不燃化や道路・公園などによる延焼遮断帯の整備等,市街地の面的整備を促進することにより,延焼被害軽減を図っているところである。地震時等において大規模な火災の可能性があり,重点的に改善すべき密集市街地(約8,000ha)のうち最低限安全性が確保される市街地の割合は,平成17年度末の約29%から平成19年度末には約35%まで進捗した。

<3> 基幹的防災拠点の整備等

大規模災害時において,広域的に連携し,応急対応,復旧・復興活動を迅速・円滑に進めるためには,情報収集や指揮,物資の集配機能等を備えた広域的・中核的施設の整備と地域防災拠点や輸送拠点等とのネットワークの形成が必要である。こうした背景を踏まえ,都市再生プロジェクト第1次決定に基づく基幹的広域防災拠点として,有明の丘地区(東京都江東区)においては首都圏広域防災のヘッドクォーター等となる拠点施設や広場,川崎港東扇島地区(神奈川県川崎市,平成20年6月供用)及び堺泉北港堺2区(大阪府堺市)においては緊急物資輸送の中継基地等となる緑地等の整備を推進するとともに,運用体制の強化を図っている。

<4> 震度情報ネットワークシステムの一斉整備

消防庁では,震度観測ネットワーク整備事業により全国の都道府県,市町村の約2,900地点に設置した震度計から観測される震度情報を即時に情報収集し,広域応援体制確立の迅速化等に利用している。震度情報ネットワークシステムは平成7年の設置以来10年以上が経過し,更新時期を迎えるとともに,その配置基準も課題となったことから,都道府県の震度観測の精度向上を図るため,市町村合併前の旧市区町村ごとに少なくとも1箇所の震度観測点の整備を目指して整備を推進している。

(2)津波・高潮対策

津波による被害の軽減を図るためには,地域の特性に応じて,海岸堤防や避難路のような施設整備等のハード施策と,迅速かつ的確な津波警報等の発表,実際の避難に有効な津波ハザードマップの公表,住民参加型の実践的な津波避難訓練の実施等のソフト対策を併せて進めることが必要である。

<1> 施設整備等の推進

津波・高潮による被害が発生するおそれが高い地震防災対策推進地域等の海岸において,海岸堤防の耐震化,津波防波堤の整備,水門等の整備,自動化等を実施している。この結果,津波・高潮による災害から地域ごとに指定される津波高・高潮高に対して浸水被害が生じない水準の安全性が確保されていない地域の面積は,平成21年度末において10.0万haとなっている。

<2> 津波・高潮ハザードマップ整備の支援等

内閣府,農林水産省及び国土交通省は,これまで「津波・高潮ハザードマップマニュアル」の作成や模範となる事例を整理・配布することなどを通じて,市町村における津波・高潮ハザードマップの整備を支援するとともに,住民参加の下で大規模津波防災総合訓練等を実施している。その結果,地震防災対策推進地域等の海岸において,津波・高潮に対するハザードマップを作成・公表し,防災訓練を実施した市町村の割合は,平成21年度末において約81%となっている。

<3> 地震津波監視体制の強化

大規模災害時にも安定した地震津波情報の提供及び全国の地震津波監視体制の強化を実現するため,必要な技術開発を進めるとともに,次世代地震津波監視システムを整備した。地震発生後10分以内に津波が来襲することがある沿岸から100キロメートル以内で発生する地震に対して,地震発生から地震津波情報発表までの時間は,平成21年度において,3.7分となっている。

(3)風水害対策

<1> 避難勧告等の具体的な発令基準の策定

市町村長が適切なタイミング,適切な地域に避難勧告等を発令できるよう,地域の実態に応じた具体的な発令基準の策定を促進している。市町村における避難勧告等の発令基準の策定状況は,平成21年11月1日現在で,水害については,策定済みの市町村は全市町村の46.0%となっており,策定中の団体と合わせると86.6%である。土砂災害については,策定済みの市町村は土砂災害が想定される市町村の41.4%となっており,策定中の団体と合わせると85.9%である。高潮災害については,策定済みの市町村は高潮災害が想定される市町村の31.7%となっており,策定中の団体と合わせると79.9%である。また,津波災害については,平成21年3月1日現在で,策定済みの市町村は津波災害が想定される市町村の58.9%となっており,策定中の団体と合わせると80.7%である。

図表1−1 避難勧告等に係る具体的な発令基準の策定状況調査 図表1−1 避難勧告等に係る具体的な発令基準の策定状況調査の図表

<2> 災害時要援護者の避難支援対策

最近の風水害においては,犠牲者の多くが65歳以上の高齢者となっていることなどに鑑み,風水害等が発生した場合に一人では避難できないお年寄りなどの災害時要援護者を近隣住民が支援する体制の構築は,災害時における人的被害を少なくしていくための重要課題である。このため,平成17年3月に「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を策定し,平成19年3月には手引きとなる先進事例を盛り込んだ「災害時要援護者対策の進め方について」を作成してきたところであるが,平成21年度においては,全国13箇所における市町村職員との意見交換会,現地ヒアリングの実施,検討会の開催,優れた取組を集めた事例集の作成・配付等を行い,市町村において全体計画(要援護者の避難支援の取組方針等を示した計画)などが策定されるよう促進している。この結果,全体計画を策定済み又は策定中の市町村の割合は,平成21年3月31日現在で62.5%であったものが,平成21年11月1日現在で99.1%となっている。

<3> 水害対策

(a) 予防的な治水対策

水害が発生すると,多くの人命・財産が失われ,地域の経済活動に甚大な影響を与えるだけでなく,被災地の復旧・復興にも多大な時間と費用を要する。このため,水害を未然に防ぐために河川整備基本方針及び河川整備計画に基づき,堤防の築造,河道掘削,遊水地,地下調整池等の治水施設の整備を計画的に進めている。また,既存ダムの再開発や複数ダムにおける容量再編等により既存施設を有効に活用している。さらに,既設の堤防については,洪水時における浸透破壊や地震に対する安全性の点検を実施し,強度が不十分なものについては,強化対策を推進している。

(b) 水害の再発防止対策

近年,甚大な水害を受けた地域においては,同規模の洪水で再び被災することがないよう,河川の流下能力を向上させるための河道掘削や堤防整備等の河川改修工事,内水氾濫を防ぐための排水機場の整備等の対策を短期集中的に実施し,洪水への不安解消に努めている。

(c) 洪水時に関する防災情報の提供

洪水に対する注意喚起や円滑な避難等に資する情報提供を行うために,大河川では洪水予報河川を指定して洪水予報の周知等を行い,それ以外の中小河川では水位周知河川を指定して避難勧告発令の目安となる避難判断水位への到達情報の周知等を行っている。

また,全国の主要な河川の浸水想定区域内の市町村(約1,500)のうち,洪水ハザードマップを作成・公表し,防災訓練を実施している割合は,平成20年度末において約10%となっている。

(d) 内水氾濫対策

都市化の進展,集中豪雨の多発,土地利用の高度化等により都市部における内水氾濫の被害リスクが増大していることから,下水道施設の整備等により,内水氾濫対策を推進している。概ね10年に1回程度発生する降雨に対し安全となることを目指す都市浸水対策達成率は,平成20年度末において,全体で約50%,商業・業務集積地区や床上浸水常襲地区等の重点地区で約24%となっている。

また,内水氾濫等における円滑・迅速な避難を支援するため,既往最大降雨等に対する浸水危険度と避難方法を示した内水ハザードマップの整備を促進しており,重点地区内において内水ハザードマップを作成・公表し,防災訓練を実施した市町村の割合は,平成20年度末において約9%となっている。

<4> 大規模水害対策

平成18年に設置された中央防災会議「大規模水害対策に関する専門調査会」は,同年8月の第1回会合以来,利根川・江戸川・荒川における大規模水害発生時の被害想定と発生後の被害を最小限にとどめるための対策について調査・検討を進めてきたが,20回の会合を経て,平成22年4月,「大規模水害対策に関する専門調査会報告 首都圏水没 〜被害軽減のために取るべき対策とは〜」として調査結果を取りまとめ,同年4月21日の中央防災会議で報告している。

<5> 土砂災害対策

(a) 砂防施設等の整備と警戒避難体制の強化

近年,頻発している土石流,地すべり,崖崩れ等の土砂災害に対する対応策として砂防施設等の整備を推進するとともに,土砂災害警戒区域等の指定を促進している。土砂災害から保全される人口は平成20年度末において約275万人,また,土砂災害危険箇所がある全国約1,700の市町村のうち,土砂災害特別警戒区域の指定を行った市町村の割合は,平成20年度末現在で約36%となっている。なお,大規模な土砂災害が急迫した状況で国や都道府県が緊急調査を実施し,被害が想定される区域・時期の情報を市町村へ通知・一般へ周知するために,「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が平成22年2月3日に閣議決定された。

(b) 土砂災害とハザードマップの整備の支援等

市町村において土砂災害に関するハザードマップを作成・公表し,ハザードマップを活用した防災訓練の実施を促進し,土砂災害時の円滑・迅速な避難を支援している。

土砂災害危険箇所がある市町村のうち,土砂災害ハザードマップを作成・公表し,防災訓練を実施した市町村の割合は,平成20年度末において約41%となっている。

<6> 治山事業

森林の有する水源のかん養や土砂の流出・崩壊の防止機能等の維持増進を通じて,安全で安心して暮らせる国土づくり,水源地域の機能強化を図るため,治山施設等の整備を推進している。周辺の森林の山地災害防止機能等が確保され,地域の安全性の向上が図られる集落数は,平成20年度時点で,5万2千集落となっている。

<7> 農地防災事業

自然及び社会経済的環境の変化に対処して,農用地・農業用施設の自然災害の発生の未然防止を推進している。平成20年度時点では,湛水被害等のおそれのある農用地の面積は,85万haまで減少している。

<8> 防災気象情報の充実

気象災害の防止・軽減に,より的確に資するため,台風の5日先までの進路予報の運用を開始したほか,市町村ごとの気象警報・注意報の発表の平成22年度からの運用に向けた技術開発やシステム整備・利用者への周知啓発等を行い,全国20箇所の気象レーダーの観測間隔を従来の10分間隔から5分間隔とした。また,台風中心位置の72時間先の予報誤差は,平成21年度において,301kmとなっている。

(4)雪害対策

近年の雪害の状況をみると,屋根の雪下ろし等除雪中の死者が多く,また65歳以上の高齢者の占める割合が高い。こうしたことから,雪処理に係る事故の防止を図るため,「安全・効率的な雪処理方策マニュアル」を平成22年3月に改訂,関係自治体に配布し,共助による地域除雪を普及・促進している。なお,特別豪雪地帯の201市町村のうち,高齢者が無理することなく除雪できる体制の整備が図られている割合は,平成21年度末において65%となっている。

(5)その他

消防団の充実強化

消防団の新戦力の確保を図るため,アドバイザーの派遣や協力事業所表示制度の全国展開を行うとともに,女性や大学生の入団促進を図っている。また,救助資機材搭載型車両等を全国に配備し,消防団の救助対応能力の向上を図っている。平成21年4月1日現在の消防団員数は約88.5万人(うち女性1.8万人)である。


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