3−3 我が国の国際防災協力



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3−3 我が国の国際防災協力

我が国は,幾多の災害の経験や教訓により培った防災に関する知識や技術を活用し,世界の災害被害の軽減に向けた国際防災協力を積極的に進めてきており,防災協力は我が国の顔の見える国際貢献の重要な分野となっている。

国連防災世界会議に参加した小泉内閣総理大臣は,今後とも,情報や知識の共有,人的技術的貢献,財政面からの復興支援の全てにおいて,最大限の国際的な協力を行っていくことを表明し,兵庫行動枠組の実施とフォローアップの重要性を強調しつつ,その具体化に向け,以下のような我が国の国際防災協力に関する考え方を世界に発信した。

【会議成果の実施とフォローアップの重要性】

  • 国連防災世界会議(WCDR)を意味ある会議とするためには,世界の災害被害の実質的な軽減に向け,会議の成果文書となる「兵庫行動枠組」を踏まえ,加盟各国,国際機関他関係者により具体的行動が起こされ,適切にフォローアップされる必要がある。
  • 我が国は,世界全体で災害に強い国・コミュニティづくりが促進されるよう,幾多の災害を経験して培った防災に関する知識や技術を最大限活用し,国際防災協力を積極的に推進する。

【ODAを活用した防災協力イニシアティブ】

  • 我が国は,ODA大国として,防災を含め世界の開発援助に積極的に取り組んできており,例えば,モルディブ共和国において,1987年から無償資金協力で建設した離岸堤や海岸護岸が,今回の津波被害を最小限にするなど,着実な効果を発揮している。
  • 我が国は,開発援助を行う際に,防災の視点が取り込まれるよう2005年1月に「防災協力イニシアティブ」の提唱を行った。これに基づき,ODAを通じて,開発途上国の自助努力や,人づくりを支援する防災協力を積極的に行う。

【アジア防災センターを通じた地域防災協力の強化】

  • 今般の地震津波災害からも明らかなように,災害のリスクを軽減するためには,同じような気象特性,地形・地質的条件を有する地域レベルでの緊密な協力関係は不可欠である。我が国は,アジアの一員として,世界有数の災害多発地域であるアジアにおける各国の連携を強化するため,神戸にあるアジア防災センターを通じた防災協力をさらに推進し,その成果を世界に提供する。
  • アジア防災センターは,パプアニューギニアにおいて,1998年のアイタペ地震津波の教訓を踏まえ,住民向けのわかりやすい津波パンフレットを作成し,普及・啓発を実施した。2000年に発生したマグニチュード8クラスの地震では,津波による死者は発生しなかった。このような防災協力プログラム等を通じ,アジア各国における本会議の成果を実践する取組を支援していく。

【国際レベルの連携プロジェクトの推進】

① 災害復興過程における災害に強い国・コミュニティづくりの推進
 災害復興過程において,被災地における災害の脆弱性を検証し,次の災害に備える災害予防の観点を取り込んだ復興計画に基づいて,被災地域の復興開発を図る必要がある。防災の観点を組み込まない開発や災害復興を繰り返すだけでは,貧困と災害の悪循環から脱することはできず,持続可能な開発を達成することは困難となる。
 このため,災害復興過程における災害に強い国・コミュニティづくりを多様な分野,多様な主体間の連携,調整により包括的に推進する国際協力の仕組みを,国連の適切な関与の下に構築する必要がある。
 我が国は,阪神・淡路大震災をはじめ,幾多の災害からの復興過程で得た教訓やノウハウを積極的に活用し,UNDPやUN/ISDR,OCHA,アジア防災センターと連携しつつ,国際的な復興支援の活動を,兵庫県神戸市を拠点として推進する。

② 国際洪水ネットワーク(IFNet)の推進
 世界で頻発する洪水被害を軽減するため,一昨年(※2003年)我が国が主催した第3回世界水フォーラムを機に発足した国際洪水ネットワーク(IFNet)の活動を推進し,各国の団体や世界気象機関(WMO)等の国際機関等と協力して,洪水対策に関する情報の共有を図る。

③ 水災害・リスク管理に関する国際センターの設置
 国連教育科学文化機関(UNESCO)の協力により水関連災害とそのリスク管理に関する研究,研修,情報ネットワーク活動を行う「ユネスコ水災害・リスクマジメント国際センター(仮称)」を日本に設置することについて,本年(※2005年)秋のユネスコ総会で承認を得るべく取り組む。

④ 地球観測サミットにおける災害対策の推進
 一昨年(※2003年)のG8サミットで日本が提案した地球観測サミットについて,衛星データの共同利用等を通じ,異常気象現象の探知,災害状況の迅速かつ的確な把握が可能となるよう貢献する。

【防災に関する情報集(Portfolios for Disaster Reduction)の構築】

  • 我が国は,WCDRの成果をフォローアップする具体的なツールとして,国連において,「防災に関する情報集(ポートフォリオ)」といった,情報共有の仕組みを設けることを提案。
  • 具体的には,次のような内容の情報の共有が有効と考える。

① 防災行動集(Portfolio of Disaster Reduction Actions)
 加盟各国や国際機関等が「兵庫行動枠組」に基づいて実施する主体的な防災行動の内容を紹介し,会議成果の具体化の進捗状況を国際社会で共有する。

② 優良事例・教訓集 (Gallery of Best Practices and Lessons Learnt for Disaster Reduction)
 「兵庫行動枠組」を各国が実施していく際の参考になる,世界でのこれまでの防災行動における優良事例や教訓を紹介する。災害被害の軽減に実質的な効果が認められるノウハウや教訓の共有を通じて,世界の防災行動が促進されることが期待される。

③ 防災技術集(Catalog of Technologies for Disaster Reduction)
 防災に関する既存の技術や今後研究開発すべき技術に関する情報を広く国際社会で共有する。特に低コストでも,扱いやすい技術であれば,普及しやすく,高い防災効果を望むことが可能である。

  • 「防災に関する情報集」は,加盟各国をはじめ多様な関係主体によりインプットされ,更新されてこそ,意味を持つものであり,各国の自発的な協力を期待する。

【国連における防災協力機能の強化〜会議成果の効果的なフォローアップ〜】

  • 「兵庫行動枠組」の具体化についての達成状況を適切にフォローアップする仕組み を国際社会の中で確立していくことが重要。
  • その際,既存の国連機関の能力を最大限活用し,関係機関の間の連携・調整を強化することが望ましく,機関間の活動の重複は整理されることが適当。
  • そうした国連の努力の下に効率的,効果的なフォローアップが行われるよう,我が国もUN/ISDR事務局などの活動に対する支援を続けていく。
  • アナン事務総長の提案で設立された,国連水と衛生に関する諮問委員会において水災害に関する議論が進展することを期待。
(1) 国際機関を通じた国際協力

我が国は,国連国際防災戦略(UN/ISDR),国連人道問題調整部(OCHA)などの国連機関・国際機関への出資,拠出を通じて,国際防災協力を行っている。

また,日本政府はUN/ISDRと協力して世界防災白書を作成したり,OCHAと協力しOCHA神戸事務所を設立して,リアルタイムに世界の災害情報をインターネットを通じて提供するリリーフウェブを運営するなど,さまざまなプロジェクトを実施している。

2005年1月には,UN/ISDRが事務局を務めた国連防災世界会議を兵庫県神戸市で開催した。

さらに,2004年末のインド洋地震津波災害を受け,インド洋地域における津波早期警戒体制の構築に向け,UNESCOやUN/ISDRと連携した国際協力を進めている。

クリックで拡大表示 表4−3−3 国際機関への日本の拠出(2005年)

(2) アジア地域における地域防災協力

地域レベルでの防災協力の必要性から,我が国はアジア防災センターを設立して,アジア地域における防災協力のリーダーシップをとっている。

a アジア防災センターの設立
 1994年,国連防災世界会議(横浜市)において,「災害脆弱性に多くの共通的側面を有する地域において,国際地域センターの設立などを通じた国際地域防災協力体制の促進」が提唱された(横浜戦略)。
 特に,我が国は,阪神・淡路大震災以前から,アジア諸国に対して,様々な国際協力,支援を行っていたが,この大震災で得た多くの教訓についても広く各国に紹介していくことが防災分野における重要な国際貢献の一つと認識された。
 このような状況を背景として,1998年7月,兵庫県神戸市にアジア防災センターが設置された。同センターは横浜戦略を契機として,日本の支援により22ヶ国をメンバー国として設立されたものであり,国際防災の10年の期間中における我が国の多国間防災協力に関する大きな成果の一つとして位置づけられる。

b アジア防災センターの活動内容
 アジア防災センターは,アジア地域の災害被害軽減に資するため,25か国(2007年4月現在)に及ぶメンバー国とのネットワークを構築し,以下の活動を行っている。

(a)防災情報の共有
 ① アジア防災センター国際(メンバー国)会議
 防災情報の共有,関係国・機関との協力強化のため,毎年,構成国の防災専門家や国連など国際機関の防災専門家を招聘して,国際会議を開催している。2006年3月には,韓国ソウルにおいて,「アジア防災会議2006」を開催し,アジア各国の兵庫行動枠組の実施状況についての情報共有,取組事例の紹介等が行われた。
 ② 最新災害情報,メンバー国防災情報,優良事例等の提供
 インターネット上にホームページ( http://www.adrc.or.jp/別ウインドウで開きます )を立ち上げ,メンバー国等世界で発生している災害情報や防災情報,防災辞書など様々な情報提供を行っている。
 ③ 世界統一災害コード番号の開発と運用
 世界の各機関が保有する災害情報を誰もが簡単に共有できる世界統一の災害コード番号(GLIDE)を開発し,国連人道問題調整部などとともに運用を開始している。2006年度からは,国連開発計画(UNDP)等と協力して,GLIDE促進プロジェクトをスタートさせ,GLIDEシステムの強化とGLIDEの普及促進を図ってゆく。
 ④ 衛星データを利用した災害情報の提供・共有への試み
 アジア地域の災害情報の迅速な提供と共有を図るため,独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)及びアジア各国の宇宙開発関係機関及び防災機関と協力して,地球観測衛星「だいち」(ALOS)観測データ等から得られる災害情報をインターネットと地理情報システム(GIS)により提供するシステム「アジアの番人(Sentinel−Asia)」を構築し,そのうちの緊急災害観測が2006年10月より運用開始,また,洪水,森林火災モニタリングの提供は2007年度早々の運用開始を予定している。

(b)人材育成
 ① 防災行政管理者セミナー
 JICAと協力し,毎年,開発途上国の防災担当者を招聘し,日本の防災制度や技術について研修を行っている。
 ② 外国人研究員招聘プログラム
 メンバー国から毎年4人を招聘し,客員研究員としてそれぞれの国の防災情報をアジアに発信すると同時に,日本の防災体制や国際防災協力についての見識を深める機会を提供している。
 ③ メンバー国との共同防災力向上プログラム
 メンバー国の防災力向上のため,各国と共同で中央政府,地方政府,学校教育関係者,コミュニティリーダー,メディア関係者などを対象とした防災力向上プログラムを進めている。

(c)地域コミュニティの防災力向上
 ① 地域コミュニティ・住民参加を促すツールの開発,普及
 防災意識の啓発や防災知識の普及,防災力の向上を図るためのツールの開発等を行っている。例えば,「稲むらの火」の物語を活用した防災教育教材の作成(バングラデシュ,インド,インドネシア,マレーシア,ネパール,フィリピン,シンガポール,スリランカ),地域コミュニティや学校教育における防災普及啓発プログラム(スリランカ,タイ,インドネシア),津波防災啓発パンフレットの作成(パプアニューギニア)などを支援している。
 ② NGOアジア防災・災害救援ネットワーク(ADRRN)への支援
 自然災害による被害低減に重要な役割を果たしているアジア各国NGOの効果的な防災活動を促進するため,NGO間のネットワーク化を支援している。

(d)国際機関との連携
 アジア防災センターは,OCHA神戸事務所と,緊密な協力体制をとっているほか,アジア各国のNGO活動の支援,UN/ISDRと連携してアジア地域の防災協力の中心的役割を担うとともに,UNDP,UN/ISDRをはじめとした国連機関の協力関係を基に設置されている国際復興支援プラットフォーム(IRP)の活動を支援するなど,国際機関との協力,連携を積極的に進めている。

(3) 我が国の政府開発援助(ODA)

a 防災分野における日本のODAの基本方針
 我が国のODAを通じた防災協力は,政府開発援助大綱(ODA大綱),政府開発援助に関する中期政策等にのっとり実施されている。
 ODA大綱は,ODAの戦略性,機動性,透明性,効率性を高めるとともに,幅広い国民参加を促進し,我が国のODAに対する内外の理解を深めるため,2003年8月に改定された。このなかで,これまで記述がなかった「災害」が,国際社会が直ちに協調して対応を強化すべき問題の一つとして盛り込まれた。
 2005年2月には,ODA大綱にのっとってODAを一層戦略的に実施するため,我が国の考え方やアプローチ,具体的取組などの方途を示した「政府開発援助に関する中期政策」を新たにとりまとめ,ODA大綱の重点課題である「貧困削減」「地球的規模の問題への取組」と関連づけて,今後,ODAを活用して災害への取組を進めていくことを明確にした。
 また,2005年1月の国連防災世界会議の機会に,ODAを通じて防災分野における開発途上国の自助努力を支援するための基本的な考え方を「防災協力イニシアティブ」としてとりまとめ,公表した。我が国は,従来より,防災分野においてODAを活用した国際貢献を行ってきたが,初めて,防災分野での取組を総括・検証し,引き続き積極的にODAを活用した取組を進める方針を示したものである。この中で,①防災への優先度の向上,②人間の安全保障の視点,③ジェンダーの視点,④ソフト面での支援の重要性,⑤わが国の経験,知識及び技術の活用,⑥現地適合技術の活用・普及,⑦様々な関係者との連携促進の7つの基本方針に基づき,災害予防の開発政策への統合,災害直後の迅速で的確な支援,復興から持続可能な開発に向けた協力のそれぞれの段階に応じて,一貫性のある防災協力の実施に努力することとしている。

b 日本の防災関係ODAの取組状況
 防災分野の協力は,災害の段階に応じて,災害を事前に予期して備える災害予防と,災害発生後に行われる緊急援助や災害復興の2つの分野に大きく分かれるが,後者の災害発生後の取組のうち,復興過程においては災害の悪循環を断ち,持続可能な開発に向けた取組を支援するなど,開発途上国の総合的な防災対策の推進に資する協力が重要である。
 災害予防は,台風,洪水,地震,津波,土砂崩れ,火山噴火などの自然災害に対する脆弱性を緩和するための備えを目的としており,我が国は過去の災害経験を通じて培われたノウハウや優れた防災技術を活かし,災害に強いインフラ整備や災害対策のための人材育成研修など,特色のある協力を行っている。
 災害発生後の取組は,被災直後に救助・医療活動などを行う国際緊急援助隊の派遣,テント・毛布などの生活物資の支援といった初期の段階から,被災したインフラなどを再建する復興開発支援の計画づくり,実施に至る段階まで,幅広い協力を行っている。
 2005年4月に開催されたアジア・アフリカ首脳会議(インドネシア)において,小泉内閣総理大臣は,防災・災害復興対策については,アジア・アフリカ地域を中心として今後5年間で25億ドル以上の支援を行うことを表明した。これを踏まえ,2006年度より,「防災・災害復興支援無償」が新設された。これは,災害直後から本格的な復旧・復興までの切れ目のない支援を目的とするもので,35億円の予算が計上されている。
 アジア・アフリカ首脳会議での表明の初年度となる2005年度の防災分野のODAの実績は,図4−3−1に示すとおり898億円(約8.4億ドル)となった。
 2005年度の実績では,国際機関への拠出や出資は66億円,無償・有償資金協力を合わせた二国間資金協力は785億円,二国間の技術協力は47億円となっている。二国間資金協力の内訳は,災害種別では,地震・津波への支援が42%と大きくなり,次いで,暴風・洪水への支援が26%となっている。援助形態別では無償資金協力が56件,207億円,有償資金協力が5件,559億円となっている。
 なお,我が国の防災関係のODAによる協力に当たっては,外務省,独立行政法人国際協力機構(JICA)及び国際協力銀行(JBIC)が,防災分野の技術協力,資金協力の実施について大きな役割を担っている。

クリックで拡大表示 コラム 防災・災害復興支援無償の事例紹介

クリックで拡大表示 図4−3−1 防災分野のODAの実施状況(2005年度)

クリックで拡大表示 図4−3−2 防災分野の無償資金協力の内訳(2005年度)

クリックで拡大表示 図4−3−3 防災分野の無償資金協力の実施件数(2005年度)

 

(a)技術協力
 ① 研 修
 開発途上国の技術者や行政官等を研修員として我が国に受け入れ,防災分野の専門的知識・技術の移転を行うことを目的として,様々な研修を行っている(表4−3−4)。
 また,JICAは,開発途上国において当該国及びその周辺国の技術者等を対象とした第三国研修を実施している(表4−3−5)。

クリックで拡大表示 表4−3−4 集団研修実績における防災関係の事例(2005年度)

クリックで拡大表示 表4−3−5 第三国研修における防災関係の事例(2005年度)

② 専門家,青年海外協力隊及びシニア海外ボランティアの派遣
 JICAは,開発途上国に専門家を派遣し,現地での防災に関する技術移転を行っている(表4−3−6)。
 また,技術・技能を有する青年男女が開発途上地域住民と生活を共にしつつ,当該地域の経済及び社会の発展に協力するための青年海外協力隊派遣事業を実施している。
 さらに,豊富な知識,経験,技術を有し,かつ開発途上国の発展に貢献したいというボランティア精神を有する中高年を海外に派遣するシニア海外ボランティア派遣事業を実施している(表4−3−7)。

クリックで拡大表示 表4−3−6 防災関連専門家派遣実績(2005年度)

 
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表4−3−7 シニア海外ボランティア(SV)派遣事業における防災関係の事例(2005年度)
 

③ 技術協力プロジェクト
 JICAは,専門家の派遣,研修員の受入れ及び機材の供与という3つの協力形態を組み合わせて一つの事業として実施する技術協力プロジェクトを実施している(表4−3−8)。

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表4−3−8 技術協力プロジェクト事業における防災関係の事例(2005年度)
 

④ 開発調査事業
 開発途上国における開発計画の推進に寄与するため,我が国は開発調査事業として,様々な防災事業に関連する可能性調査あるいは基本計画の策定等について協力を実施している(表4−3−9)。

クリックで拡大表示 表4−3−9 開発調査事業における防災関係の事例(2005年度)  

⑤ 国際緊急援助
 開発途上国を中心とした海外で大規模な災害が発生した場合,相手国政府の要請により国際緊急援助隊の派遣や緊急援助物資の供与などの国際緊急援助を行う。
 国際緊急援助は,被災国政府等から日本に対して援助要請があった場合,外務省において,要請の内容,災害規模,種類等に応じて援助の内容,規模について検討を行い,関係省庁との協議を経て決定する。
 国際緊急援助隊は救助チーム,医療チーム,専門家チーム及び自衛隊の部隊等からなり,被災国の要請,災害の種類・規模等に応じて単独又は適宜組み合わせて派遣されている(表4−3−10,表4−3−11)。

クリックで拡大表示 図4−3−4 国際緊急援助隊派遣までの流れ

クリックで拡大表示 表4−3−10 国際緊急援助隊の派遣および緊急援助物資供与の実績(1)

 
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表4−3−11 国際緊急援助隊の派遣及び緊急援助物資供与の実績(2)(2005〜2006年度)
 

また,被災者の救援のために,毛布,テント,浄水器,簡易水槽,発電機,医薬品,医療機材などの緊急援助物資を供与している。これらの物資を迅速かつ確実に供与するため,JICAが管理する物資の備蓄倉庫をマイアミ,シンガポール,フランクフルト,ヨハネスブルグに設置している。
 2004年12月のスマトラ沖大地震及びインド洋津波被害では,インドネシア,スリランカ,モルディブ,プーケット島沖に対し,国際緊急援助隊の医療チームを派遣したほか,外務省,警察,消防,海上保安庁から構成される救助チーム,身元確認等の専門家チーム等を累次派遣した。自衛隊については,インド洋における任務引き継ぎ後,帰国途中の海上自衛艦艇3隻により,プーケット島沖において捜索・救助活動を実施したほか,航空自衛隊C−130輸送機一機がタイのウタパオ基地を拠点として援助物資の空輸を実施した。陸上自衛隊は医療・防疫活動,ワクチンの接種及びヘリコプターによる援助物資等輸送を実施した。海上自衛隊は陸自の活動を支援しつつエアクッション艇による西岸地区に対する重機等輸送及び護衛艦艦載ヘリによる援助物資等輸送を実施した。自衛隊は,翌年3月9日までにすべての活動を終了し,同月10日一部連絡調整要員を残して撤収した。また,インドネシア,スリランカ,モルディブ,タイに対し,5,300万円相当の緊急援助物資供与を行った。
 2005年8月に米国南部で発生したハリケーン・カトリーナによる被害に対し,約5,400万円相当の緊急援助物資供与(スリーピングマット,毛布,発電機,コードリール)が行われた。
 2005年10月に発生したパキスタン等大地震に対し,国際緊急援助隊救助チーム及び医療チーム(第一次隊,第二次隊)を派遣した。医療チームの総診察者数は2,271名に及んだ。自衛隊は,航空援助隊を派遣し,イスラマバード・バタグラム間で援助物資等の輸送を行い,援助物資約40.7t,援助活動関係者等約720名を輸送した。また,2,500万円相当の緊急援助物資(毛布,ポリタンク,スリーピングマット,テント,浄水器,発電機,コードリール,プラスティックシート,簡易水槽)の供与を実施した。
 2006年5月にインドネシアのジャワ島中部沖で発生した地震に対しては,国際緊急援助隊医療チーム及び自衛隊部隊を派遣した。医療チームはジョグジャカルタで約10日間活動し,総診察者数は1,211名に達した。また,自衛隊部隊も同地で医療活動及び防疫活動に従事した。さらに,約2,000万円相当の緊急援助物資(テント,スリーピングマット,毛布,発電機,コードリール,簡易水槽,浄水器,プラスティックシート)の供与を実施した。
 また特に2006年は,洪水,地滑り,泥流災害など水害が世界各地で多発し,合計約1億5千万円相当の緊急援助物資の供与を実施した。

(b)無償資金協力
 無償資金協力とは,被援助国(開発途上国)に返済義務を課さないで資金を供与するものである。この無償資金協力の中で,海外での災害発生時において被害状況を迅速に把握し,物資の購入等のため必要な資金を供与する緊急無償資金協力を実施している。さらに,防災及び災害復旧関連の施設や機材の整備等に対しても無償資金協力により援助が行われている。
 災害対策分野に関する2004年度無償資金協力の実施額は約226億円で,一般プロジェクト無償,食糧援助及びノン・プロジェクト無償が中心である。

(c)有償資金協力
 有償資金協力(円借款)は,被援助国(開発途上国)に対し長期低利の緩やかな条件で,開発資金を貸し付けるものである。防災関係の有償資金協力としては,治水(洪水対策)や耐震補強事業,植林に対するものなどがある。
 これまでの防災分野の実績ではインドネシア等への継続的な供与が多く,その大半は洪水対策である。中国に対しては,近年,土壌流出による洪水災害の抑制を目的とした植林事業への支援を行っている。また,地震・津波被災地に対する支援としては,スマトラ島沖大地震による津波被害を受けたスリランカ等の被災地域や,パキスタン大地震の被災地への復興支援等を行なっている。さらに,インドネシア及びスリランカに対し,債務支払猶予措置を行っている(表4−3−12)。

クリックで拡大表示 表4−3−12 防災関係円借款の状況

(4) 防災分野での二国間協力の最近の動向

a インドネシアとの防災協力
 2004年に12月発生したスマトラ島沖地震及びインド洋津波災害など,近年の災害を教訓にインドネシアの防災体制を抜本的に改善・強化することは同国の喫緊の課題である。このため,インドネシアのユドヨノ大統領は,2005年6月に日本を訪問し,内閣府から日本の防災体制について説明を受けられるとともに,小泉内閣総理大臣(当時)との間で,「自然災害の被害を減らすための二国間の協力に関する共同発表」を発出した。この発表に基づき,日本の防災担当大臣とインドネシアの国民福祉調整大臣を共同議長とする「防災に関する共同委員会」を設置した。
 共同委員会は,「日本における自然災害の悲痛な経験で培った数々の努力を共有する一方,インドネシアにおける災害予防の現状を精査し自然災害を予防し,その被害を軽減する包括的かつ効果的な対策の策定に向けた指針を示し,最終的に報告書を作成する。」ことを任務とし,両国政府防災担当大臣のリーダーシップの下,両国防災関係省庁等が協力して調査検討を進めた。
 2006年1月11日,東京で開催された第1回共同委員会において,インドネシア側の,関心事項として建築基準制度,津波早期警戒体制等が提示された。4月及び7月には,インドネシアに,同分野を中心とした現地調査団を派遣し,両国の専門家が協議を行い,7月24日,ジャカルタにおいて第2回共同委員会を開催し,(インドネシアにおける災害被害を軽減する包括的かつ効果的な対策の策定に向けた指針となる)報告書を取りまとめた。
 11月ユドヨノ大統領が日本を訪問し,安倍内閣総理大臣との間で日本・インドネシア共同声明に署名が行われた。この中で,両首脳は,共同委員会が報告書を作成したことを歓迎し,この報告書を踏まえて,防災強化を促進するとともに,この分野さらに協力していくことへのコミットメントを表明した。
 既に津波防災や建築物耐震化の短期専門家等がインドネシアに派遣され,また,2007年4月から2年間の予定で防災体制,組織の強化等を目的としたインドネシア国「自然災害管理計画調査」が始まるなど,本共同委員会報告書の方向性を踏まえた協力が進みつつあるが,今後とも,インドネシアのオーナーシップを支援する形で,同報告書の具体化が促進されることが期待される。

b 韓国との防災協力
 1998年10月8日の日韓首脳会談の際に取り交わされた「21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップのための行動計画」において「両国は,両国の災害への対応に関連する制度,防災体制及び施設についての情報・意見交換を通じ,協力を推進していく」こととされたことを踏まえ,1999年度から,日韓防災会議を,東京と韓国で相互に開催している。
 2006年度は,2007年3月16日,「第7回日韓防災会議」を,東京都で,溝手顕正防災担当大臣と方基成(バン・ギソン)防災管理本部長をトップに開催した。日本側からは,①平成18年3月以降に発生した災害への対応・対策(7月豪雨,台風13号等),②災害被害を軽減する国民運動の推進,③大規模水害対策に関する検討状況,④近年の土砂災害対策を紹介し,韓国側からは,①平成18年7月台風及び集中豪雨への対処,②携帯電話緊急災害文字放送サービス(CBS),③復旧支援システムの紹介があり,日韓における最近の災害状況や災害対策について情報交換を行った。また,昨年度韓国側から提案のあった防災担当職員の交流について,覚書が作成された。

c ロシアとの防災協力
 2005年11月,ロシアのプーチン大統領が来日した機会に「大規模な自然災害及び事故の予防及び対処における日本国政府とロシア連邦政府との間の協力に関する覚書」が作成された。その後,2006年7月及び11月の日露首脳会談において,北方四島を含む日露の隣接地域における自然災害の予測や防災の分野に関する協力を実施していくことの必要性について一致した。このような首脳間の共通認識を受けて,日露の専門家間で同分野における具体的な協力の方向性について意見交換が行われ,2007年2月のフラトコフ首相訪日の際に「日本国及びロシア連邦の隣接地域における地震,火山噴火及び津波の予測,警戒及び対処の分野に関する日本国政府とロシア連邦政府との間の協力プログラム」が作成された。今後,このプログラムに沿って,大地震・津波の発生予測のための地殻活動の観測研究,連続的な地震活動モニタリングとデータの交換,航空路の安全確保等を目的とした火山噴火の監視,津波警戒システムの改善,地震・潮位データの交換,津波警戒・自然災害対処に係る協力,津波・地震の被害予測のための諸モデルの検討等の分野における日露間の協力を進展させていくこととしている。


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