5 民間と市場の力を活かした防災力向上



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5 民間と市場の力を活かした防災力向上

(1) 民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会の最終報告

平成14年4月の中央防災会議において,小泉内閣総理大臣から,災害対策の分野においても市場のスピードを活かした民間の知恵と力を活かしていくことが重要であるとの趣旨の発言がなされたことなどを受け,平成15年9月に中央防災会議において「民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会」(座長:樋口公啓 日本経済団体連合会副会長(当時))が設置された。同専門調査会では,民間や市場の力の活用をテーマに,企業や地域の諸団体の活動を支援する方策の検討を行い,平成16年10月に,個人,地域諸団体,NPOや企業等の多様な主体による災害対策への参加の重要性を明確に位置づけ,必要な官民連携策を示した「民間と市場の力を活かした防災戦略の基本的提言」が取りまとめられた。同提言に盛り込まれた,事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan の略)のガイドラインや企業の防災力の評価方法,防災まちづくりの支援策について具体化するために,同専門調査会のもとに「企業評価・業務継続ワーキンググループ」と「防災まちづくりワーキンググループ」を開催して検討を進め,平成17年10月にそれらワーキンググループの検討結果を受けて,「民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会報告書」が取りまとめられた。同報告書では,それぞれのワーキンググループの成果や今後実施すべきフォローアップ,今後検討すべき課題などがまとめられた。

各ワーキンググループの成果は次のとおりである。

1.防災まちづくりワーキンググループ
 防災まちづくりポータルサイトを構築し,全国防災まちづくりフォーラムを開催した(詳細は次節を参照)。

2.企業評価・業務継続ワーキンググループ

(1) 事業継続ガイドライン
 企業が事業継続に取り組むにあたり,どのように計画し,マネジメントしていけばよいのかを解説した指針。

(2) 事業継続ガイドラインチェックリスト
 事業継続計画の重要なポイントを整理したもの。

(3) 事業継続計画の文書構成モデル例
 モデル企業を設定して事業継続計画の文書構成を例示したもの。

(4) 「防災に対する企業の取組み」自己評価項目表
 企業が防災に対する取組状況を自ら評価するための設問項目,レベル早見表等を示した項目表。

(5) 企業の防災の取組のPR文書「防災報告書(仮称)」
 自社の防災活動や防災の備えを対外PRする場合に盛り込む事項の案及び中小企業を例にとった防災の取組の開示例。

(民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会報告書は下記ホームページ参照)
  http://www.bousai.go.jp//kyoiku/kigyou/minkan/chousahoukoku.html

(2) 企業の防災活動の促進

a 企業の事業継続計画(BCP)策定の促進
 事業継続計画(BCP)とは,災害時に特定された重要業務が中断しないこと,また万一事業活動が中断した場合に目標復旧時間内に重要な機能を再開させ,業務中断に伴う顧客取引の競合他社への流出,マーケットシェアの低下,企業評価の低下などから企業を守るための経営戦略をいい,バックアップシステムの整備,バックアップオフィスの確保,安否確認の迅速化,要員の確保,生産設備の代替などがその典型である。
 また,事業継続計画(BCP)が策定されていることにより,事業が早期に回復することで,雇用の確保による社会不安軽減,取引停止による連鎖的な影響を抑制することができ,地域や国全体の経済,社会の安定につながることとなる。

クリックで拡大表示 図3−5−1 事業継続計画(BCP)の概念図

我が国の企業は,地震等の自然災害の経験を踏まえ,事業所の耐震化,予想被害からの復旧計画策定などの災害対策は諸外国に比べて先進的と評価されている。しかし,大手企業の事業継続計画(BCP)の策定率が欧米企業では5〜6割なのに対し,日本企業が1〜2割と,事業継続の取組は遅れている。
 そこで,策定の推進を図るために,民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会では,企業が事業継続に取組むための「事業継続ガイドライン」,その重要なポイントを整理した「事業継続ガイドラインチェックリスト」,事業継続計画の文書構成を例示した「事業継続計画の文書構成モデル例」の作成を行った。同専門調査会報告書では,これらを企業に広報周知するとともに,業種・規模別のガイドラインを展開するなど継続的に内容を見直していくこと等が必要とされた。これらの検討のため,内閣府(防災担当)において企業防災・事業継続に詳しい専門家の委員に加えて国民生活に密着した主要な業種を代表するオブザーバーの参加する「企業等の事業継続・防災評価検討委員会」を,平成18年2月から開催した。
 同検討委員会では,平成17年に作成した「事業継続ガイドライン」の理解と利用を助けるための解説書を検討し,平成19年3月に「事業継続ガイドライン 解説書」を公表した。解説書の作成にあたっては,各業界団体で会員企業への普及とガイドラインへの業種の特性を反映するとともに,広く国民からの意見も募集した。さらに,同検討委員会に参加したオブザーバーについて,その業種別にあったガイドラインの作成を行なうための助言等を検討委員会内外で進めた。
 今後はこれらの活動をふまえ,各企業等での事業継続の取組みが促進されることが期待される。

b 企業の防災への取組に関する評価等の促進
 企業の防災活動の促進には,防災活動に積極的に取り組んでいる企業が市場や地域社会から適切に評価されることが必要である。
 そこで,民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会では,以下の成果をとりまとめた。
 ・「防災に対する企業の取組み」自己評価項目表
 企業の防災の取組を自己評価するため,「必須項目」(実施されている必要がある項目),「基礎項目」(一般に実施することが望まれる項目),「奨励項目」(積極的な取組をプラス評価する項目),に分類される合計61個の評価項目から構成される項目表の作成を行った。企業は本表を活用して防災に対する取組状況を自ら評価することにより,災害対策の現状を評価することが可能となる。また,定期的に評価を行うことにより,防災力の向上度合いを順次把握することも可能となる。なお,自己評価項目表を活用した制度として,cを参照。
 ・企業の防災の取組PR文書「防災報告書(仮称)」
 防災に熱心に取り組み,社会的にもその取組が十分評価できる企業が,株主,投資家,取引先,自治体などをはじめ,市場や社会から正しい評価を得ることが企業の防災力向上につながると考えられるため,自社の防災の取組をPRするための文書について,構成案などの検討を行った。
 「企業等の事業継続・防災評価検討委員会」では,上記の「防災に対する企業の取組み」自己評価項目表について,実際に利用した企業からの使い勝手や設問に対する意見などを基に改訂版を作成し,平成19年3月に公表した。
 また,企業の様々な活動状況を適切に開示している企業が社会的に評価され始めている。開示の場としては,主に企業のホームページが,その形態としては,CSR報告書,社会・環境報告書、環境報告書や毎年の報告が法的に義務付けられている事業報告書,有価証券報告書が使われているが,近年では企業の防災の取組みに関する情報開示も,これらの報告書の中で行われるようになってきた。「企業等の事業継続・防災評価検討委員会」では,情報開示の形態が企業ごとに異なる現状を踏まえ,企業の防災への取組みについて情報を開示しようとする企業が,開示の形態にとらわれることなく開示できることを目的として「防災の取組みに関する情報開示の解説と事例」を作成し公表した。「防災の取組みに関する情報開示の解説と事例」では,開示が望まれる項目を体系立てて整理し,その項目単位に望まれる記載内容を解説している。各項目には記載内容に関連する事例として,すでに開示を行っている先進企業の情報開示の実例を掲載している。
 今後は,これらの成果の活用により,各企業等での防災に対する取組み状況についての自己評価,防災への取組みに関する情報の開示が促進されることが期待される。

c 「『防災に対する企業の取組み』自己評価項目表」を活用した融資制度
 上述の自己評価項目表を活用することにより,「現状」及び「防災の取組を行った後」の企業の防災への取組を総合的に評価することができることから,平成18年度より企業の防災対応を促進させるために,この表の項目を防災の取組強化を図る企業への融資基準とする,日本政策投資銀行による「防災対応促進事業」(防災格付)融資制度が創設された。平成18年度においては10件の融資実績があり,今後も本制度などを活用して,企業の防災に対する取組を進めていくこととしている。

クリックで拡大表示 図3−5−2 融資制度の概要


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