4−2 津波対策



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4−2 津波対策

(1) 津波の発生と災害の状況

一般的に津波は,地震による海底の急激な上下変動等の地形変化が原因で発生し,津波の規模は,通常,地震の規模(マグニチュード)に比例するが,震源の深さ,地震の起こり方等にも影響される。

津波は水深の深いところでは時速数百kmもの速さで伝播し,海岸に到達するまでに,水深や地形による増幅効果等により何倍もの高さとなる。特に,津波が湾内に入る場合,湾奥では更に高くなることが多い。また,第1波よりも後続の波の方が高くなることがある。

わが国において,津波により大きな被害を生じたものとしては,表2−4−18のようなものがある。このほか国外においても,平成16年12月26日に発生したスマトラ沖大地震及びインド洋津波によって,インド洋沿岸各国で多大な被害が出たことは記憶に新しいところである。

クリックで拡大表示 表2−4−18 明治以降,津波により大きな被害をもたらした主な地震

(2) 津波対策の推進

津波は,地域特性によって津波の高さや到達時間,被害の形態等が異なるため,地域防災計画等に基づき,地域の特性に応じて,海岸堤防や避難路等の施設整備等のハード対策に併せて,水門・陸閘の自動化等による操作の迅速化,ハザードマップの整備・普及および津波警報伝達の迅速化による避難の的確な実施等のソフト対策が必要である。

a 迅速な津波予報の発表
 日本近海で発生する地震に対して,気象庁は地震の観測をもとに震源や規模等を推定し,津波の有無を判定して,津波の発生が予想される場合には津波予報を地震観測後3分程度で発表することとしている。また,平成18年8月から,緊急地震速報の技術を活用することにより,一部の地震では最速2分以内で津波予報を発表することが可能となった。津波予報は津波の数値シミュレーション技術を利用した予測に基づき,府県単位程度の66の予報区(図2−4−62)に対して,津波の高さ・到達予想時刻が具体的な数値で発表される。

クリックで拡大表示 図2−4−62 津波予報区

発表された津波予報は,地上回線や衛星回線を通じてただちに地方気象台,測候所等へ伝えられるとともに,気象情報伝送処理システムや防災情報提供装置,衛星回線を活用して,ただちに受信端末を設置している防災関係機関や報道機関に提供される。また,それぞれの機関から住民,船舶などに伝達される(図2−4−63)。

クリックで拡大表示 図2−4−63 気象業務法に基づく津波予報の法定伝達ルート

また,海外で発生した地震により発生した大きな津波が日本沿岸まで伝播し,大きな被害を及ぼすことがあるが,日本から遠く離れた太平洋沿岸で発生した大地震に伴う津波に対しては,気象庁は米国海洋大気庁の太平洋津波警報センターと密接な連携を取りながら,我が国沿岸に対する津波の影響を予測し,津波予報を発表している。

b 総合的な津波対策の推進
 平成10年3月に国土庁,農林水産省,水産庁,運輸省,気象庁,建設省及び消防庁(省庁名は当時)が共同して,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」を取りまとめ,津波対策強化の基本的考え方,津波に対する防災計画の基本方針及びその策定手順等を示した。
 また,府県単位程度の予報区に出される津波予報を効果的に活用し,事前に地域の津波による危険性を把握するためには,津波により浸水すると予測される区域を事前に地図上に表示することが有効であるため,同手引きの別冊として,国土庁,気象庁及び消防庁(省庁名は当時)が共同して,津波浸水予測図の作成方法等を示す「津波災害予測マニュアル」を同年3月に取りまとめた。
 平成11年には,津波対策関係省庁連絡会議(国土庁・内閣官房・警察庁・防衛庁・農林水産省・運輸省・海上保安庁・気象庁・郵政省・建設省・消防庁〔省庁名は当時〕)において,国民の防災意識を向上させ,津波災害を軽減させるための重要課題として,
 [1]地域に応じた津波防災対策の推進(津波浸水予測図の活用推進)
 [2]津波予報伝達の迅速化・確実化の推進
 [3]被害情報の早期評価・把握と防災機関の連携強化
 を確認し,申し合わせを行った。
 消防庁では平成14年3月に,地方公共団体等が津波避難計画の策定等を行うにあたって留意すべき事項を「津波対策推進マニュアル検討報告書」として取りまとめた。また,平成17年3月には津波危険地域や津波避難場所などを示す津波避難に係る標識の標準化のため,それらの図記号を国際標準化機構(ISO)に提案し,現在,これらの図記号はISO加盟国による最終投票段階にある。併せて,本ISO規格(海辺の安全図記号)案の日本工業規格(JIS)化も検討中である。
 海上保安庁では,海上保安庁防災業務計画において津波に備えた災害応急対策を定めているほか,南関東地震,東海地震に備え,巡視船艇,航空機等の動員計画を策定している。また,特定港(86港)を中心に設立した「港内船舶津波対策協議会」において,港ごとに津波の地域特性や津波が船舶へ及ぼす影響等について可能な限り調査したうえで,港湾管理者や海事関係者等と協議し,個々の船舶がとるべき対策を具体的に策定することとしている。協議会では,詳細な海底地形データに基づく津波のシミュレーション結果をまとめた津波防災情報等を活用し,津波対策策定について検討を進めている。
 内閣府と農林水産省及び国土交通省は,地方公共団体によるハザードマップ作成・活用を支援するための諸課題について検討し,平成16年3月,「津波・高潮ハザードマップマニュアル」を作成した。さらにマニュアルの配布に合わせ全国10箇所において,延べ約1,100名の防災担当者等を対象とした説明会を開催した。ここでの意見交換における要望に応えるとともに,各地方公共団体における更なるハザードマップの整備・促進を目的として,これまで整備されているハザードマップを収集し,模範となる事例を整理した「津波や高潮の被害に遭わないために」を作成,配布した。これにより,ハザードマップ作成における問題点の解決や内容の高度化が図られることが期待される。津波ハザードマップは平成19年3月末までに,232市町村のすべての地域もしくは一部の地域について公表する見込みである(国土交通省調べ)。

クリックで拡大表示 図2−4−64 津波ハザードマップの例(須崎市)

内閣府では,耐震性,耐浪性や浸水深に配慮したうえで建築物を避難地に指定するいわゆる津波避難ビル等の整備・指定の推進に資するため,平成17年6月に,津波避難ビルの要件,運営方法等を整理した「津波避難ビル等に係るガイドライン」を作成,配布した。
 国土交通省では,平成16年12月26日に発生したインドネシア・スマトラ島沖大地震及び津波を踏まえて,国内の津波対策の現状と課題について総点検を行い,今後の基本的な方針をとりまとめるため「津波対策検討委員会」を発足させ,17年3月に提言を公表した。提言では,事前予防対策としてのハード整備中心の考えから,事前から事後にわたりハード整備及びソフト対策をあわせて展開し,被害の最小化を目指すという考え方へ転換した対策を,省庁連携の下に推進するよう求めている。
 この提言の施策を具体化するものとして,農林水産省及び国土交通省では,海岸堤防の耐震化等が不十分である現状を踏まえ,水門等の自動化・遠隔操作化や津波ハザードマップの作成をする上で必要とされる堤防等の耐震性調査や浸水予測調査等を推進する「津波・高潮危機管理対策緊急事業」を創設(平成17年度創設の「津波危機管理対策緊急事業」を,平成18年度にゼロメートル地帯の高潮対策へも拡充)し,津波対策を推進している。

(a)千島列島を震源とする地震による津波避難の状況
 平成18年11月15日及び平成19年1月13日に千島列島沖を震源とする大規模な地震が発生し,北海道のオホーツク海沿岸から釧路支庁までの太平洋沿岸に津波警報が,それ以外の北海道太平洋沿岸から東日本の太平洋沿岸及び伊豆諸島,小笠原諸島に津波注意報が発表された。その際,住民の避難状況が低調であったなど津波避難についての課題が明らかになっている。
 このため,消防庁では,避難指示・勧告が発令された市町村を対象に,市町村の防災対策,住民の避難状況等の調査を行った。この調査結果によれば,11月15日に津波警報が発表された地域の避難所への避難率は13.6%に止まり,1月13日の避難所への避難率は8.7%と更に低下した。
 このような中,避難率が高い市町村においては,避難勧告等の伝達に際し,同報無線や車両による巡回広報に加え,消防団員等による個別訪問や自治会・町内会等への電話連絡など多様な手段を活用したり,情報伝達や避難支援等について災害時要援護者に配慮した取り組みを実施するなど,行政側が住民に対して,きめ細かな対応を行っていることが明らかになった。
 この調査結果を踏まえ,消防庁では,内閣府との連名により都道府県に対し通知を発出し,「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(平成17年3月中央防災会議報告)や「津波対策推進マニュアル検討報告書」(平成14年3月消防庁検討委員会報告)等の主旨の再確認と,沿岸市町村における津波対策の一層の推進を要請した。

(b)津波避難についての課題と取組方針
 消防庁の調査結果からも明らかなように,11月及び1月の津波においては,避難勧告等を受けて避難所へ避難した住民の人数が避難勧告等の対象地域の住民の人数に比べてかなり少なかったなど,避難勧告等の情報伝達や住民避難のあり方についての課題が明らかになっている。
 今後,東海地震や東南海・南海地震,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震など津波による大きな災害が懸念される地震が切迫していることから,今回の津波予報への対応に関し,避難勧告等の発令や住民の避難実態を検証するとともに,情報伝達や避難誘導,住民に対する啓発方法のあり方などについて,関係省庁間で十分に情報共有を図り,その対策について検討を行っていく必要がある。
 このため,内閣府では11月27日及び1月30日に「災害時の要援護者避難支援対策及び情報伝達に関する推進会議」を開催し,津波避難に関する課題と各省庁における津波避難対策等について情報の共有を図った。
 また,推進会議における検討結果を「津波避難についての課題と取組方針」として取りまとめ,津波避難についての課題を①津波予報の精度向上と理解の促進,②市町村における迅速・的確な避難指示等の発令及び避難誘導,③避難に向けた住民意識の向上の3点に整理し,それぞれの項目について,関係省庁において次のような必要な対策を講ずることとしている。
 気象庁では,津波予報発表時の予測値と実際の観測値との間で差が生じうる仕組みを出前講座等の機会を通じて周知・広報を図るとともに,津波予報の適切な利用につながるよう,訓練の企画等を支援する。また,引き続き津波予測のデータベースを改善し,予測精度の向上に努める。
 消防庁では,内閣府との連名により地方公共団体に対し通知を発出し,「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(平成17年3月中央防災会議報告)等の主旨の徹底と今回の津波対応を踏まえた取組の留意点等について周知を図る。
 国土交通省及び農林水産省では,東海地震防災対策強化地域などの重要沿岸域において,平成21年度までに津波ハザードマップや津波避難計画の策定が完了するよう,関係自治体の取り組みを支援する。
 内閣府では,「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する基本方針」等を踏まえ,「稲むらの火」の物語など地域の災害史を活用した津波・地震に関する防災教育の実施など,意識啓発活動の促進に努める。また,住民や自治体担当者への津波に対する意識調査を実施し,住民意識の向上に資する新たな施策を検討する。
 国土交通省では,関係機関等と連携し,地震による津波を想定した「津波防災総合訓練」を,住民参加の下に引き続き実施する。
 このほか,関係省庁が共同して津波災害に関するリーフレットを作成し,津波避難の重要性について,住民に対する普及啓発活動を実施することとしている。


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