3−4 「自助」「共助」の面から見た地域の防災対応力の事例



3−4 「自助」,「共助」の面から見た地域の防災対応力の事例


 第1章で述べたとおり,今後の防災対策の確立には,「自助」,「共助」,「公助」の適切な役割分担が重要であることから,地域における各分野の災害対応力の現状を的確に把握する必要がある。このため,特に「自助」,「共助」の面について,地域の防災対応力の水準を把握する方策について検討することとし,事例調査として,平成11(1999)年6月の広島豪雨等などの土砂災害を経験した呉市の全自治会の防災リーダー役(町内会長等)を対象に,地域の防災に対する意識と,対策の現状に関するアンケートを実施した(平成14年1月郵送による配布。対象347名のうち回答280名(回答率80.7%))。以下にその概要を示す。

(1) 被害経験の有無により認識と対応に大きな差がみられる

 まず,防災全般については,「かなり関心が高い」と「やや関心が高い」合わせて過半数となり,一般的な関心の高さがうかがえるが,具体的に,「今後土砂災害が発生する危険性」について尋ねたところ,「わからない」及び「無回答」が合わせて4割程度になり,相当数の防災リーダーが地域の危険度を的確に把握していないことを示唆している( 図3−3−1   及び−2 )。

(図3−3−1)防災に対する関心の高さ

(図3−3−1)防災に対する関心の高さ
(図3−3−2)今後の土砂災害の発生可能性

(図3−3−2)今後の土砂災害の発生可能性
 次に,普段から行っている風水害対策について尋ねたところ,何らかの対策を行っている自治会はおよそ3分の2である。また,雨が強まるなど危険が高まったときには,「気象情報に注意を払う」,「役員同士で連絡を取り合う」,「市役所と連絡を取り合う」を行うとした自治会が多い一方,そのような状態でも何もしていないと回答した自治会が12%ある( 図3−3−3   及び−4 )。

 このような災害に対する認識と取組み姿勢の差異について,自治会の属性に基づき分析すると,災害体験の有無により大きな差がみられる。即ち,災害を体験した自治会は,そうでない自治会に比べ,災害に対する意識が高く,地域の災害危険性を的確に把握しているとともに,平常時及び危険時の対応も前向きな傾向がある (表3−3−2)

(図3−3−3)普段から行っている風水害対策

(図3−3−3)普段から行っている風水害対策
(図3−3−4)危険が高まってきたときの対応

(図3−3−4)危険が高まってきたときの対応
(表3−3−2)災害経験の有無別にみた災害の認識・対応の差異

(表3−3−2)災害経験の有無別にみた災害の認識・対応の差異
(2) 構成員レベルでは災害の危険に対する理解は必ずしも高くない

 しかしながら,防災リーダーによれば,構成員の災害の危険に対する理解は必ずしも高くない。「危険地区に居住している人が土砂災害の前兆現象を理解しているか」と尋ねたところ,過半数の人が理解しているとした回答は約4分の1であり (図3−3−5) ,これを「土砂災害の被害経験あり」の自治会に限ってみても37%である。
 また,「土砂災害が起きる前に自発的に避難する可能性」については,「全員が誘い合って避難」と「ほとんどの人が避難するだろう」の回答の計と,「自発的に避難する人は少ないだろう」,「ほとんどいないだろう」の計が拮抗している (図3−3−6)

(図3−3−5)危険地域居住者の前兆現象の理解

(図3−3−5)危険地域居住者の前兆現象の理解
(図3−3−6)土砂災害が起きる前に自発的に避難する可能性

(図3−3−6)土砂災害が起きる前に自発的に避難する可能性
(3) リーダー役も不安を抱えている

 災害が迫った際に「独自に危険地区の人へ避難を呼びかけるか」との問に対しては,「必ず」及び「多分」呼びかけるとの回答で過半を占め,相当数の自治会長が避難の呼びかけの必要性を認めているが,「呼びかけや避難誘導をする自信があるか」には,「自信がない」との回答が,「自信がある」との回答を上回った( 図3−3−7   及び−8 )。

(図3−3−7)独自に危険地区の住民への避難の呼びかけ

(図3−3−7)独自に危険地区の住民への避難の呼びかけ
(図3−3−8)避難誘導する自信

(図3−3−8)避難誘導する自信
(4) 地域の防災対応力の強化に向けて
 人々の脳裏に刻まれた災害の記憶が,災害に対する認識,対応の差となって現れるものと考えられ,自主防災組織・自治会においてこういった災害の記憶・記録を保持し,次代に語り継いでいくこと,いわば災害文化の伝承が「共助」の重要な機能である。
 しかしながら,実際に地域を構成する住民は多種多様であり,また新しい住宅地などでは地域コミュニティが未成熟なことが多く,住民一人ひとりが防災対応の担い手であるとの自覚が不足しているものと考えられる。
 さらには,町内会において防災リーダー役に就いている人も,必ずしも防災に対する専門家ではなく,災害時に的確なリーダーシップが発揮できるか不安に思っている。
 従って,行政との適切な連携のもと,住民に対する正しい災害知識の普及と,適切な判断の下せるリーダーの育成等により,地域の防災対応力の強化を図っていくことが必要であり,このためにも地域の防災対応力を的確に評価する仕組みの構築が望まれる。


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