大都市震災対策専門委員会提言

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II.大都市地域における震災対策の推進

第6 地震発生可能性の評価に関する情報の活用のあり方

地震発生可能性の評価に関する情報の活用については、大都市地域に限らず全国共通の課題であるが、特に、大都市地域における大規模震災による被害の甚大性等を踏まえれば、事前対策を確実に行うことが重要であり、そのために地震発生可能性の評価に関する情報を活用する意義は大きいため、本専門委員会で検討を行ったものである。

1 地震発生可能性の評価に関する情報の防災対策への活用のあり方

(1)

地震防災に関する調査研究のうち、地震による被害の軽減に資するものとして、地震学を中心とした地震調査研究の成果による地震発生可能性の評価がある。

地震発生可能性の評価については、いつ(時間を示す要素)、どこで(場所を示す要素)、どの程度の大きさ(規模、地震動の大きさを示す要素)という3要素を備えた情報とし、防災機関のほか、行政、住民、企業、施設管理者などが行う具体的な防災対策・防災行動(施設・構造物等の耐震化、都市基盤整備、応急対策の備え、施設等の立地選択等)に結びつけるようその情報を活用することにより、死者の軽減、二次災害の軽減、国民生活や地域経済への影響の軽減など地震による被害の軽減に繋げることが可能となるものである。

(2)

地震発生可能性の評価については、地震調査研究推進本部等を中心とした地震調査研究の進展に伴い、活断層に関する評価や余震確率評価手法など新たな成果が得られつつある一方で、現在の調査研究の水準の限界から、その成果に関する情報を具体の防災対策・防災行動に活用する上での課題も多いが、次のような課題に留意して、関連する調査研究との連携を図りながら、検討を進める必要がある。

i) 情報内容についての検討の必要性

地震発生可能性の評価を情報として伝える際には、定量的な評価と定性的な解説を併せて発表することや、他の地域との比較や過去の地震との比較についての情報も併せて発表するなど、情報内容に工夫を講じることにより、防災機関や住民の防災対策・防災行動に繋げやすい形で発表するよう、検討を進めるべきである。

特に、長期的な期間を対象とする地震発生可能性の評価に関する情報については、地域における地震発生の危険性・切迫性を実感できる情報内容とする必要がある。例えば、数十年単位の期間を対象とした情報として提供されることが望ましい。

ii) 地震発生可能性の評価を的確に活用する手法の必要性

活断層に関する評価をはじめとする地震発生可能性の評価に関する情報を、地域の防災体制、被害想定やハザードマップ、住民に対する広報・啓発の材料などとして具体的に応用・活用する手法について、検討を進めるべきである。

その検討においては、地震発生可能性の評価に関する情報を具体的な手法に応用・活用可能なものとするとともに、その手法については、行政や住民の災害予防のための対策・行動に具体的に繋げる契機となるよう留意する必要がある。その際、地震学と関連工学(土木工学、建築学等)、社会学など関連分野との相互連携により、調査研究を総合的に推進する必要がある。

iii) 情報を行政や住民の具体の対策・行動に繋げる方策の必要性

地震発生可能性の評価に関する情報を地域防災計画、被害想定やハザードマップ、住民に対する広報・啓発の材料などとして活用し、地震による被害の軽減という効果を達成するためには、地震学的な情報及びそれを応用・活用した情報をさらに行政や住民の具体的な防災対策・防災行動に繋げる方策が必要である。

このため、例えば次のような方策について、地震発生可能性の評価に関する情報を活用可能なものとするとともに、それを行政や住民の具体の防災対策・防災行動に繋げることが可能となるよう、検討を進める必要がある。

  • 都市整備による火災の延焼防止や救助体制の準備等の事前の備えに結びつけるための方策として、防災都市づくりの目標・マスタープランを策定し、地域防災計画、都市計画等に反映すること。
  • 危険地域への立地を減少させるような選択に結びつけるための方策として、軟弱地盤、液状化危険地域、土砂災害危険区域、延焼危険区域など土地条件等に応じた詳細な危険性を把握し、住民に対する公表により周知すること。
  • 施設・構造物等の耐震補強による倒壊防止、ライフラインの支障防止等に結びつけるための方策として、公共施設及び民間施設の耐震性の評価・診断結果を活用すること。

iv) 調査研究の成果の活用に当たっての重点化の必要性

地震発生可能性の評価に関する情報を地震による被害の軽減という最終的な効果に結びつけていくための方策を検討するに当たっては、死者の軽減等重要な効果に確実に結びつく分野に特に重点を置いて、情報の活用を検討する必要がある。

例えば、阪神・淡路大震災では圧死が死因の9割近くを占めたことから、圧死者の軽減に確実につながる個人住宅の耐震補強を促進するため、地震発生可能性の評価に関する情報をどのように住民に伝え、耐震診断・耐震改修という行動に繋げていくかについて、特に重点を置いて検討を進める必要がある。

v) 地震予知研究の推進

地震の直前予知は、東海地震を除き一般には困難であるのが現状であるが、地震の直前予知が可能となれば適切な予防措置をとることによって地震による被害を大幅に軽減できる可能性がある。

被害の軽減を図るための事前対策としては、直前予知に全面的に依存するのではなく、予防対策や応急対策の備えのための施策が重要であることは当然であるが、それらにより被害を軽減することには限界があること及び直前予知の効果の大きさを考慮した場合、今後も直前予知の実用化に向けた期待は大きい。そのため、地震発生に至る全過程の把握によってその最終段階にある地域の特定を進めるなど、将来的な地震の直前予知の実用化を目標とした調査研究推進の努力を今後も継続する必要がある。

2 地震防災対策と地震調査研究との関係のあり方

阪神・淡路大震災以後に設けられた地震調査研究推進本部を中心として、地震調査研究の新たな成果が得られつつあり、防災機関は、その成果を十分に理解するよう努める必要がある。また、地震調査研究においては、今後、その成果による情報が防災機関や住民の防災対策や防災行動に一層実効的に活用可能なものとなるような調査研究を一層推進することが望まれる。

このため、今後、「地震による被害の軽減」という共通の目標のもとに、防災対策と地震調査研究の相互の連携を一層図る必要があり、両者の情報交換を行うための場を設けることなど連携の具体的あり方を検討する必要がある。中央防災会議においても、地震調査研究推進本部等との連携を図りつつ、地震調査研究の成果を活用した防災行政の推進及び防災行政に実効的に活用可能な地震調査研究の推進を図るべきである。

また、地震学における調査研究と地震学以外の地震防災に関する研究についても、相互の連携を一層図りながら総合的に推進し、防災行政への活用を図っていく必要がある。


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1998.6.10
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