大都市震災対策専門委員会提言

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II.大都市地域における震災対策の推進

第5 大都市地域における震災対策の重点課題

大都市地域における震災対策については、以下の1に掲げるような基本的視点を踏まえた施策の推進が必要となる。特に、各主体による横断的な予防対策の推進、各機関の連携に配慮した応急対策の備えの推進に関して、2及び3に掲げるような重点課題がある。

1 大都市地域における予防対策・応急対策の備えの基本的視点

(1)

大都市地域における大規模震災の特殊性を考慮すれば、大規模な地震発生の事前において、施設・構造物の耐震化、避難路、避難地、延焼遮断帯、防災活動拠点等として機能する都市基盤施設や市街地の面的な整備、防災に配慮した土地利用の実現等により、地震に強い都市構造を形成するための予防対策を講じ、人的・物的被害の防止・軽減、さらには社会・経済活動への支障の防止・軽減や、応急対策需要量の縮減を図ることが重要である。

特に、大都市地域には、個人住宅をはじめ住民や企業等が所有・管理する建築物が多数集積しているため、倒壊や延焼の危険性が高い老朽木造住宅が密集した市街地の整備改善や不特定多数の者が利用する都市的な建築物における安全性を確保することが必要である。そのためには、建築物の耐震性・安全性の確保や建築物の共同建替えの推進など、住民や企業等がその責務として主体的かつ積極的に予防対策に取り組むことが重要である。

また、大都市地域においては、国、地方公共団体をはじめ様々な主体が整備・管理を行う施設や構造物が集積し、交通施設やライフライン等の都市基盤施設や産業施設等の危険物を扱う施設も高密かつ大量に存在するとともに、市街地の土地利用も稠密・高度になされているが、適切な土地利用の確保や市街地の整備という市街地の面的な防災性の確保から個々の施設・構造物の耐震性の確保に至るまで、各主体の行う予防対策を総合的・横断的に推進することにより、地震に強い都市整備、施設整備を進める必要がある。

このような予防対策の推進に当たっては、高度に土地利用がなされた市街地の現状や複雑な権利・利害調整の困難さ、合意形成の困難さなど、大都市地域特有の隘路があるが、その原因の分析等を踏まえてその解決に向けての検討を進める必要がある。

(2)

さらに、各主体による予防対策を的確に推進するためには、地震防災に関する調査研究の果たす役割が重要である。

地震防災に関する調査研究は、地震発生メカニズムや地震発生可能性の評価等の理学的研究としての地震学や、地震動が構造物に与える影響、耐震設計、構造の耐震補強、市街地火災延焼抑止技術等に関する土木工学、建築学など工学的・応用科学的な分野での調査研究、さらには、災害時の人間行動や情報伝達など社会学的な分野での調査研究など、多岐にわたる内容を含むものである。地震防災に関するこれらの調査研究の成果を防災対策に的確に活用するよう、特に関連分野の調査研究との相互連携に留意しながら、今後ともその総合的な推進を一層図る必要がある。

(3)

また、地震による被害の軽減を図るためには予防対策を推進することが基本であるが、予防対策の現状を踏まえれば予防対策のみで被害の発生を防ぐことには限界があるため、実際に大規模な地震により被害が発生した後においては、応急対策を迅速かつ的確に講じることにより、被災地の住民の生命、身体及び財産を保護することが重要であり、そのための準備を平常時から進めておくことが必要である。

特に、被害が甚大かつ広範なものになるという大都市地域における大規模震災の特殊性を踏まえれば、防災関係機関の活動が著しく制限されることも予想されるため、住民や自主防災組織が地域社会において自主防災活動に積極的に従事することが求められるとともに、被災地内で応急対策を行うための備えを市町村及び都府県単位で行うことが原則的な対応になる。

しかしながら、迅速かつ的確な応急対策活動を行うためには、特定の課題について市町村及び都府県のみならず国が一定の役割を担い、各主体間の的確な連携を確保しながら対策を講じることが重要であり、そのための実践的な備えを事前に講じておくことが必要となる。

2 予防対策における重点課題

(1) 地域の地震防災に関する整備の現状把握・整備目標等の共有

現在、各種の公共施設に関しては、管理者である国、地方公共団体等において、一般に重要度の高いものから耐震性の点検や診断を行い、目標を定め、順次耐震化を進めている。また、民間の施設を含む市街地整備においても、住民や企業の自主的な取組によるもののほか、耐震改修促進法、密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律、市街地開発事業等に基づく施策により、建築物の耐震化及び市街地の整備改善が進められているが、複雑な権利調整や合意形成の困難さなどその推進を図る上で困難な課題があるのが実状である。

こうした状況を踏まえ、それぞれの大都市地域において課題の解決を図りながら各主体が効果的に予防対策のための取組を実施するためには、地域における各種の施設・構造物等の耐震性や市街地の延焼危険性等について、国や関係地方公共団体が横断的・即地的に把握し、認識を共有することが、まず求められる。

また、整備の進捗状況に応じて、地域における最新の地震防災に関する整備の現状を踏まえた対策の推進を図るため、定期的にフォローアップを行う必要がある。

このため、例えば次のような施策について、検討を進めるべきである。

国及び地方公共団体等が管理する施設・構造物等の耐震性の把握状況や耐震化の推進状況、さらに民間の施設等も含めた市街地の面的な地震防災に関する整備の状況について、国と関係地方公共団体が横断的に把握し、認識を共有するとともに、住民が地域の地震防災に関する整備状況を認識し、理解を促進するような情報の公表を行うこと。

この際、危険度マップの汎用化や地域社会・住民の防災力の評価等の把握・公表方法等について、国、関係地方公共団体等で検討を行うこと。

  • 都市計画の方針等で定められた整備目標やその推進状況について、国の関係機関及び関係地方公共団体間で情報を共有し、地域内の住民等に周知するとともに、地域内の地震防災性の向上に向けて一定期間を掲げた整備目標を設定し、関係機関及び住民で共有すること。地震防災対策特別措置法に基づき地震防災上緊急に整備すべき施設等の整備に関して都道府県知事が策定した地震防災緊急事業五箇年計画について、その推進状況等に関して定期的にフォローアップを行うとともに、結果を関係機関の間で共有すること。

(2) 震災時に有効に機能する施設整備における関係機関の連携の推進

大都市地域における予防対策の効果的推進を図るためには、国、地方公共団体等の関係各機関が連携して取り組むことが必要であり、例えば次のような施策について、検討を進めるべきである。

  • 延焼遮断効果等を踏まえた公園、緑地等のオープンスペースの計画的な整備や、震災時の利用を想定した避難収容等の機能を備えた施設の整備について、防災機関と施設整備機関の連携により推進すること。
  • 道路、鉄道、港湾、飛行場等の交通・輸送施設について、震災時の輸送活動等を想定したネットワークの形成を図るとともに、輸送する物資、緊急車両等を考慮した機能を備えた施設の整備について、各機関の連携により推進すること。
  • 震災時に求められる消火・生活用水を確保するため、消防水利施設の充実及び耐震化を図るとともに、公園、河川、上下水道等の整備において消防・防災機関と施設整備機関等が連携し、災害時に有効に活用し得る施設整備を推進すること。

(3) 耐震基準・耐震改修方法等に関する情報の交換・共有

阪神・淡路大震災以降、各機関において各種施設・構造物等の耐震基準や耐震改修に関する技術的な検討が進められ、耐震化が推進されているが、大都市地域においては、複雑な構造を有する施設・構造物等が多く、地震動を動的に捉えるなど精緻な設計方法が必要となる場合が少なくない。

このため、設計用地震動に関する情報や、最新の研究成果を踏まえた想定地震の設定、耐震工法等の技術情報について、各機関の間で交換・共有することが必要であり、例えば次のような施策について、検討を進めるべきである。

  • 地質や地盤に関する情報、地震動に関する情報(地震動の波形、強さ等)等を含め、施設・構造物等の新設・改修に必要な基準、改修工法等の情報について、学識経験者等を含めて情報交換を行うための場を設けること。特に、最新の地震学や地盤工学等と耐震工学の連携を図り、地域特性に応じて合理的な設計用地震動の設定等を図るため、国の各機関や地盤情報等を有する関係地方公共団体等を含めた情報の交換を行うこと。

(4) 圏域を対象とする多様な地震被害想定の検討

予防対策や応急対策の備えを効果的に、かつ、地域の実情に応じてきめ細かく推進するためには、地方公共団体により地震被害想定の作成及び想定結果の活用に努める必要があるが、大都市地域においては、被災範囲が相対的に狭い直下型の地震であっても都府県の行政区域を越えた被害が発生するため、各機関が連携して事前対策を実施するためには、地震被害を広域的に想定することが求められる。

現在、都道府県等で行われている地震被害想定は、行政区域を超えた被害を総体的に想定していないが、関係各機関が連携して大都市地域の圏域を対象とした地震被害想定を行い、各主体における対策を効果的に推進することが必要である。

このため、予防対策や応急対策の備えなどの活用目的に応じ、圏域を対象として多様な被害を機動的に想定し、その成果を活用することが必要であるため、例えば次のような施策について、検討を進めるべきである。

  • 三大都市圏のそれぞれの圏域において、関係都府県、関係省庁、関係機関等により、予防対策や応急対策の備えに実践的に活用するための広域的な地震被害想定を実施すること。その際、圏域内の都府県等で既に行われている被害想定手法及び結果、さらにそれに基づく施策等を調査・検討する必要がある。

3 応急対策の備えにおける重点課題

(1) 実践的な備えの推進

大都市地域における大規模震災において迅速かつ的確な応急対策活動を行うためには、特定の課題について、関係機関の連携のもとに実践的な備えを事前に講じておくことが必要となる。

このため、応急対策活動のうち特に各機関の連携を確保しながら実践的な備えを事前に講じておくべき課題について、災害時の特別の状況下でも有効に機能するような実践的な対応パターンを構築し、それに対応して、要請手続き等の明確化、応急対策に活用する施設の指定等について検討を進めるべきである。

このような検討に必要となる観点は、次のとおりである。

実践的な対応パターンの構築
負傷者の搬送、緊急輸送等の応急対策の分野ごとに、効果的・実践的な対応パターンを具体的に定めておく必要がある。なお、災害発生時に入手できる情報等は限定されることを前提として、講じるべき応急対策の主な流れと相互関連や優先順位について、あらかじめ定めておくことが必要である。
要請手続き等の明確化
応急対策の実施に必要な要請手続き等について、その相手方や必要な情報を明確にしておく必要がある。要請の相手方等については、情報伝達網が輻輳する場合等も想定し、バックアップも含めて明確にしておく必要がある。なお、名簿や資料等として整理しておくだけでなく、人的な交流を深めてネットワークを構築しておくことが災害発生時には極めて有効であるため、定期的な打ち合わせ等についても、積極的に進めていく必要がある。
応急対策に活用する施設の指定等
応急対策ごとの対応を含め、応急対策に活用可能な施設等について、指定及び周知を行っておくことは極めて有効であり、管理者等との事前手続きを含めて、平常時から進めておく必要がある。

以上のような検討に当たっては、負傷者の搬送など人命に直接的に関係する活動や、関係機関が多岐にわたる活動から順次行っていくとともに、その検討成果については、国の機関が関係するものについては中央防災会議等の場で申し合わせることにより各機関で共有し、国として国レベルと地方公共団体レベルの施策の整合性の確保や、地方公共団体における防災体制充実の支援を行っていく必要がある。

また、検討成果の実効性の確保を図るため、関係者が習熟するための機会を設けるなどの具体的方策について検討を進めるべきである。

(2) 情報の共有の推進

各機関が連携して効率的な応急対策を実施するためには、被災状況や各機関における応急対策の実施状況に関する情報を総合的に収集・分析し、関係機関の間で共有することが極めて重要である。

このため、実践的な応急対策の備えに関する検討を踏まえ、応急対策に活用可能な施設等の情報を関係機関の間で共有し、効果的な対応パターンに沿った対策を迅速に講じることが可能となるよう、積極的に検討を進めるべきである。

一方、災害時における情報については、より迅速かつ的確に収集・伝達するとともに、関係機関の間で共有できるよう、あらかじめ、情報の種類、伝達方法、手順等を決めておくことが有効であり、これらの点についても関係機関の連携により検討を進める必要がある。

なお、情報の共有の推進に当たっては、既存のシステムを相互に活用し、入力等の負荷を極力小さくするよう留意しながら、関係機関のシステムの連結、端末ベースでの共有等のネットワーク化を推進する必要がある。

(3) 広域防災拠点を核としたネットワークの形成

災害時において緊急輸送活動等の応急対策活動を迅速かつ的確に実施するためには、広域的な防災拠点やオープンスペースを活用し、緊急輸送路による陸上輸送、海上及び内陸に至る河川を活用した水運及び空路による輸送を相互にネットワーク化した応急対策活動の実施が有効であるため、そのための事前の備えとして、広域防災拠点を核とした応急対策活動のネットワーク形成を進める必要がある。

このため、大都市地域については、圏域ごとに、広域的な防災拠点のあり方、平常時も含めた活用・運用方策、広域防災拠点を核とした応急対策活動のネットワークのあり方等について関係機関の連携により検討し、その整備を推進するとともに、広域防災拠点を核とした関係機関の交流や訓練についても、推進すべきである。

なお、南関東地域においては立川広域防災基地等の整備が進められているが、地域内の防災拠点間のネットワークを形成するための検討及び取組を推進する必要がある。

また、近畿圏においては、圏域内の防災拠点間のネットワークを形成するための検討を推進する必要がある。


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1998.6.10
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