大都市震災対策専門委員会提言

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I.総論

第3 大都市地域における地震活動

1 南関東地域における地震活動の評価

(1)

中央防災会議地震防災対策強化地域指定専門委員会は、南関東地域に被害をもたらすおそれのある地震等について検討を行い、昭和63年6月27日付けの中間報告では、特に南関東地域直下の地震の発生について、ある程度の切迫性を有していると指摘している。

また、平成4年8月21日付けの同専門委員会検討結果報告でも、南関東地域直下の地震のうちプレート境界近くで発生するものについて、「相模トラフ沿いの規模の大きな地震に先立ってプレートの潜り込みによって蓄積された歪みのエネルギーの一部がいくつかのマグニチュード7程度の地震として放出される可能性が高いと推定される。関東大地震の発生後既に70年が経過していることを考慮すると、今後その切迫性が高まってくることは疑いなく、次の相模トラフ沿いの規模の大きな地震が発生するまでの間に、マグニチュード7程度の規模のこのタイプの地震が数回発生することが予想される」と指摘している。

(2)

このようなプレート境界近くの地震の発生は、南関東地域の極めて複雑なプレート構造に起因しており、フィリピン海プレートの上面や内部で発生するやや深い地震(深さ20〜50㎞)、太平洋プレートの上面や内部で発生する深い地震(深さ50〜100㎞)と、いくつもの活動域で大規模な地震の発生の可能性があるというメカニズムについての考え方は、現時点でも維持されるものである。

また、最近の観測結果からも、次の相模トラフ沿いの巨大地震発生に向けての歪みの蓄積が着々と進んでいることが示されており、それに先立って発生することが想定されるプレート境界近くの地震の発生が、依然として「ある程度の切迫性を有している」との評価は、現時点においても変わらないものと考えられる。

さらに、南関東地域は、プレート構造の複雑さに起因してさまざまなタイプの地震が発生する可能性があるという点において、他の地域と比較して地震の危険性が高い。

(3)

また、南関東地域に著しい地震被害をもたらすおそれのある地震としては、相模トラフ沿いの地震、神縄・国府津−松田断層帯等の活断層による陸域の浅い地震、房総半島沖の地震、神奈川県西部の地震についても、その発生の可能性を考慮する必要がある。

2 近畿圏及び中部圏における地震発生可能性の評価

(1)

近畿圏及び中部圏において著しい被害をもたらすおそれのある地震のうち、南海トラフ沿いの巨大地震については、最近のものとして1944年の東南海地震(M7.9)と1946年の南海地震(M8.0)が発生している。

このタイプの巨大地震は、ほぼ100〜150年間隔で発生し、また、隣り合う東海沖と南海沖の震源域で短い時間をおいて連続的に、又は同時に発生してきたことが分かっている。1944年及び1946年の地震は、地殻変動の記録からはその前回の安政の地震の4分の3程度の大きさであったと推測されることから、「次の地震までの時間は前の地震の大きさに比例する」という時間予測モデルに従えば、今後20〜30年後に次の巨大地震が発生し得るとの見解もあり、相模トラフ沿いを震源とする関東大地震の再来よりもその発生時期は近いとも考えられる。

(2)

陸域の地震についてみると、近畿圏の中央構造線より北側は日本の中でも活断層の密度が最も高い地域であり、平野・盆地と山地との境目に沿って活断層が分布し、近畿圏の盆地(京都盆地、奈良盆地)や沖積平野(大阪平野)に広がる市街地の内部に、又は市街地に近接して活動度の高い活断層が存在している。

なお、平成7年兵庫県南部地震は、兵庫県南部の阪神地域から淡路島にかけて延びる六甲・淡路島断層帯で発生したが、今後それに隣接する活断層系で連鎖反応的に地震が起こる可能性が高いことを指摘する見解もある。

また、中部圏においては、沖積平野(濃尾平野、伊勢平野)に広がる市街地の内部に、又は市街地に近接して活動度の高い活断層が存在している。

(3)

南海トラフ沿いの巨大地震発生の数十年ほど前から西南日本において陸域の地震活動が活発となり、直下型地震が数回発生するとの見解もあるが、この数年の西日本の地震活動をみると、21世紀前半の次の南海トラフ沿いの巨大地震発生に向けて、近畿圏及び中部圏を含む広い範囲について地震活動が活発化する可能性が高い活動期に入ったと考えられる。

3 地震発生による危険度

現在、地震調査研究推進本部においては、各地域の地震発生可能性の評価について検討が進められているが、本専門委員会としては、現時点において大都市地域における震災対策に関する検討を行う前提として、以上のように大都市地域の地震活動に関する評価を行うものである。

以上のような南関東地域、近畿圏及び中部圏における地震発生可能性の評価を踏まえると、従来から直下の地震発生の切迫性が指摘されてきた南関東地域のみならず、近畿圏及び中部圏を含めた大都市地域については、地域の地震発生の危険性と災害ポテンシャルを勘案した被害の甚大性から、大規模な地震の発生に備えるための対策の必要性は極めて高いと考えられる。

特に、南関東地域においては複雑なプレート構造の上に首都機能をはじめ社会経済活動に関する諸機能や人口が集積していること、近畿圏及び中部圏においては社会経済活動に関する諸機能や人口が集積した沖積平野や盆地の内部に、又は近接して活動度の高い活断層が存在していることから、大規模な地震による危険度を十分考慮して対策を講じる必要性が高い。


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1998.6.10
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