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※「国土庁防災局」は、2001年より、「内閣府(防災部門)」になりました。
地震防災におけるミッシング・リンク
 
片山 恒雄
科学技術庁防災科学技術研究所 所長
国際地震工学会 事務局長
 

 今年8月のトルコ・イズミットの地震に続き、9月21日には台湾で被害地震が起きた。幾つもの調査団がトルコや台湾から帰ってきて、これらの災害の教訓を報告している。どんな地震だったか、人的・物的な被害の程度、メディアや大衆の避難の声、二度と繰り返さないという政府の決意表明、責任のなすり付けあい、研究機関が発表する「地震の教訓」的なレポート、当該地震に関する数え切れないほどの研究論文。これらさまざまなことが起きるなかで、確かなことはひとつだけである。このようなプロセスの繰り返しは、これが初めてではなく、いわんや決して最後ではないということだ。
 それにも関わらず、世界全体を見るとリスクは大きくなっている。地球上の都市化地域の数は増大しつつある。その大部分は経済的に恵まれない国々にあり、これらの国々では、地震に対する危険は最重要課題のリストには載っていないかもしれない。トルコや台湾の災害と同じような災害、もっと大きな災害がいつ起きても不思議ではない。
 我々は誰でも、個人的に蓄えた経験を通して、地震リスクにどう対処すればよいのかの解法を求めようとする。一方には、科学的・工学的な領域がある。地学、地震学、地理学、社会科学、工学、建築工学、地震工学、土地利用など、この領域に関係するさまざまな研究はすべて重要である。この領域の逆側に、災害マネジメント、緊急対応や復旧、健康管理、公的支援などの専門家が関わる領域がある。

  だが、実際に被害地震を経験すると、いつも何かが欠けていると考えざるを得ない。現存する知識とその普及・応用の間に大きなギャップがある。災害前の教育、心構え、計画、リスクを見分け軽減する戦略などの重要な事柄が、二つの領域の間にある大きな割れ目に落ち込んで見えなくなっている。しかも、このブラック・ホールは大きくなり続けている。我々が、日本やアメリカやヨーロッパの一部でごく当たり前と考えている簡単なことでも、世界の多くの場所では行われてはいないのである。

  我々は、このギャップを埋めなければならず、そのための計画を持つ必要がある。最新の震災軽減の分野において、幾つもの機関が提供している科学、工学、防災支援、健康などに関する知識やサービスを、適切に理解し評価することによって、ギャップを見つけださなければならない。これは、以前から存在する二つの領域間の割れ目に消えている新しい領域を見極めようとする「ビジネス・プラン」的なやりかたである。この新しい領域こそが、世界の多くの地域にもっとも役に立つ領域になりうると、我々は信じている。それでは、どうやって援助すればよいか。

 世界で地震危険度の高い地域にある主要な都市化地域の行政・産業・市民を含めて、それぞれの地域が自分たちの地震リスクを理解する手助けをしなければならない。我々は、人命や財産を守るためにそれらの都市が今行っている戦略がどの程度効果的かを専門家の目で評価し助言することで、それらの地域を助ける必要がある。先進国が持っている資源を動員して、選び出した都市化地域に行き、その地域の地震防災政策を包括的に監査できる専門家チームを設立するのである。この監査は、政策、地球科学、土地利用、工学、基準遵守、点検、建設の品質管理、公共教育、防災計画などの広い範囲を含むものでなければならない。

 この調査のレポートは、それぞれの地域が何をすべきかを一つひとつ明示したものとなろう。工学的な問題や科学的な問題を詳細に述べるものではなく、マネジメントに関する「アクション」レポートでなければならない。たとえば、建築基準をどのように改善するか、点検をどう義務づけるか、より良い土地利用政策をどのようにして導入するかなどが問題となる。そして、地域が必要としていることを、実行すべき事項と必要な経費とともに示すのである。我々は、世界銀行や類似の機関に対して、地震後よりも地震前の援助のほうが有効であることを説得し続ける必要がある。

 世界の各地に一度に派遣できる専門家チームはせいぜい3つか4つとなるだろう。少なくとも、それくらいの数のチームを結成しなければなるまい。1つのチームには、地震工学の専門家2名、地球科学、公共政策、土地利用、構造工学、設計点検、建設の品質管理、社会科学、メディア関連などの専門家がそれぞれ1名は必要となろう。

 専門家チームをつくるためには、地震に関係する専門家の国際的な協力が必要である。これらの専門家は、知識と経験はもちろんのこと、この目的に貢献したいという意欲のある人でなければならない。簡単なことではないが、これについては可能だと信じている。難しいのは、計画を実現するための財政的な裏付けである。目的を達成するためには、興味を示してくれる国家政府に加えて、世界銀行、国連機関、JICA、OFDA、EUなどの国際機関にやる気を起こさせる必要がある。

 我々の努力は、日本とかアメリカとかの特別の国のものではない。全地球的な運動なのである。貴重な時間を割いてもらう専門家たちの頭だけではなく、それらの人々の琴線に触れるものでなければならない。 (本文は、ハレシュC.シャー(スタンフォード大学名誉教授)との連名により、台湾地震後、"The Missing Link in Earthquake Disaster Mitigation"という題名で発表したものの和訳である。)

 

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