東海地震に係る被害想定の検討状況について
(地震の揺れ等による建物被害、人的被害等)
中央防災会議「東海地震対策専門調査会」
事務局(内閣府(防災担当))
東海地震に係る被害想定について、地震の揺れ及び液状化による建物被害、これによる人的被害等の試算結果がとりまとまった。被害想定全体については、中央防災会議「東海地震対策専門調査会」(座長:岡田恒男芝浦工業大学教授)で本年中を目途に検討を進めているところであるが、揺れによる建物被害等は防災対策検討の基礎となることから、各項目に先立ち、去る8月9日の同専門調査会において検討した。この検討を踏まえ、さらなる修正及び関係県等との確認を行い今回結果がとりまとまった。
なお、実際の地震による被害は、建物についても津波、火災、斜面崩壊等による被害があるほか、建物だけでなく各種構造物等の被害も想定される。これらについては、本年中を目途に同専門調査会において検討を行う予定である。
1.被害想定の基礎となる震度分布について
東海地震に関する専門調査会」(平成13年1月〜12月)では、強化地域の見直しが主眼であったため、その判断基礎となる震度6弱以上の領域を出すべく、経験的手法と強震波形計算による手法の二通りの手法で強震動の検討を行った。震度6強や震度7となる大きな揺れの領域については、この段階では必要でなかったこともあり、震源域の直上や近傍の再現性も含め、今後の検討課題とされていた。
今般、被害想定を実施し、必要な防災対策を検討するためには、震度6強、震度7の分布は重要な要素となる。このため、震源域直上や近傍における強震動計算の手法及び地盤等の非線形性について分析し、過去の実際の地震との整合性も確認し、震度6強や震度7の大きな揺れになる強震動の計算手法の修正・改良等により、想定震度分布の検討を行った。
(資料1)
- 資料1−1 (PDF形式:60.1KB)
- 資料1−2 (PDF形式:58.0KB)
- 資料1−3 (PDF形式:133.5KB)
- 資料1−4 (PDF形式:60.2KB)
- 資料1−5 (PDF形式:61.6KB)
2. 揺れ及び液状化による建物被害及び人的被害について
地震は様々なパターンで発生するものであるため、強化地域の検討の場合と同様に、建物被害等を算出するにあたっても、東海地震として想定されるモデルとして「東海地震に関する専門調査会」の検討より採用してきた「応力降下量一定モデル」と「変位量一定モデル」の2つのモデルで、さらにそれぞれ2通りの破壊開始点(西側、中央)を想定し、計4ケースを対象に被害を試算した。
(1)揺れ及び液状化による建物被害について
①揺れによる建物被害について
建物の全壊数の検討に当たっては、木造建物と非木造建物とに分けて、それぞれ阪神・淡路大震災等過去の地震被害における震度と建物被害との関係から、建物全壊棟数を算出した。木造建物については、建築年次別(昭和37年以前、昭和38年〜昭和55年、昭和56年以降)の被害率のデータが整理できることから3区分し、震度と建物全壊率との関係を求めた(資料2) (PDF形式:36.6KB) 。その結果を用いた建物被害数の分布を資料3 (PDF形式:708.9KB)
,資料4 (PDF形式:711.5KB)
に示す。
②液状化による建物被害について
液状化による建物被害の算出にあたっては、通常の被害想定で実施しているように、まず、各メッシュにおけるボーリングデータ又は微地形区分からメッシュ毎の液状化危険度(PL値)を算出するとともに、新潟地震における事例をもとに液状化現象が各液状化危険度毎でどの程度発生するかを求めた(資料5) (PDF形式:311.1KB) 。次に、関東大震災、新潟地震等の被害実例をもとに、液状化が発生した場合の建物全壊率(木造、非木造)を設定し、これにより建物被害数を求めた。
以上をもとに、揺れによる被害と液状化による被害の重複を調整し、揺れと液状化による建物被害を算出した。
○地震動による建物全壊棟数
地震発生モデル | 破壊開始点 | 木造 | 非木造 | 合計 |
応力降下量一定(S1) | 中央 | 約171,500棟 | 約33,800棟 | 約205,300棟 |
変位量一定(D1) | 中央 | 約151,400棟 | 約29,000棟 | 約180,400棟 |
応力降下量一定(S2) | 西側 | 約158,900棟 | 約31,100棟 | 約190,000棟 |
変位量一定(D2) | 西側 | 約138,300棟 | 約26,200棟 | 約164,500棟 |
○液状化による建物全壊棟数
地震発生モデル | 破壊開始点 | 木造 | 非木造 | 合計 |
応力降下量一定(S1) | 中央 | 約22,400棟 | 約3,600棟 | 約26,000棟 |
変位量一定(D1) | 中央 | 約21,300棟 | 約3,200棟 | 約24,500棟 |
応力降下量一定(S2) | 西側 | 約19,700棟 | 約3,100棟 | 約22,800棟 |
変位量一定(D2) | 西側 | 約18,700棟 | 約2,700棟 | 約21,400棟 |
○地震の揺れと液状化による建物全壊棟数(地震動、液状化合計)
地震発生モデル | 破壊開始点 | 木造 | 非木造 | 合計 |
応力降下量一定(S1) | 中央 | 約193,900棟 | 約37,400棟 | 約231,400棟 |
変位量一定(D1) | 中央 | 約172,700棟 | 約32,200棟 | 約204,900棟 |
応力降下量一定(S2) | 西側 | 約178,600棟 | 約34,200棟 | 約212,800棟 |
変位量一定(D2) | 西側 | 約156,900棟 | 約28,900棟 | 約185,800棟 |
※Sモデル:強い揺れの範囲が比較的西側の地域に現れる
※Dモデル:強い揺れの範囲が比較的東側の地域に現れる
(2)揺れ及び液状化による建物被害に係る人的被害(死者)について 人的被害については、阪神・淡路大震災等過去の建物全壊数と死者数との関係をもとに、人的被害(死者)を算出した。 次に、地震発生時間を考慮した滞留場所別の人口を求め、これをもとに人的被害を推計した。夜は夜間人口を、昼間は昼間人口を基にし、その間はパーソントリップ調査のデータを用いて時間別の滞留者数を求めて人的被害(死者)を算出した。 なお、液状化による被害に関しては、一般的に近年ほとんど死者が発生していないとされていることから、静岡県第3次被害想定等と同様に人的被害(死者)はないものとした。 |
○建物全壊による死者数(予知情報なしの場合)
地震発生モデル | 地震発 生時刻 | 木 造 | 非木造 | 合 計 |
応力降下量一定(S1) | 5時 12時 18時 | 約7,800人 約3,700人 約3,600人 | 約300人 約400人 約400人 | 約8,100人 約4,100人 約4,000人 |
変位量一定(D1) | 5時 12時 18時 | 約6,900人 約3,300人 約3,200人 | 約200人 約400人 約300人 | 約7,100人 約3,600人 約3,600人 |
(参考)建物被害による死者数(予知情報ありの場合)
予知ありの場合の建物全壊による死者数については、静岡県第3次被害想定と同じ手法(静岡県が実施した「東海地震についての県民意識調査」により警戒宣言時に適切な対処ができる人の割合(73.9%)は被災しないものと仮定)で算出すると、以下のような数値となるが、今後さらに精査する予定。
・応力降下量一定モデル(S1)の朝5時では、約2,100人
・変位量一定モデル(D1)の朝5時では、約1,800人
<問い合わせ先> 内閣府 地震・火山対策担当 電話:3501−5693 担 当:参 事 官 布村 明彦 担 当:参事官補佐 筒井 智紀 |
警戒宣言による経済的影響について
内閣府(防災担当)
(1)検討の背景等
地震予知情報による警戒宣言により、各種生産活動等が直接的に制約を受けるほか、交通等の停止による人・物の流通が制約を受けたことにより影響を受けると考えられる。また、これらの影響が他の産業に連関して影響を及ぼすことも考えられる。
東海地震対策専門調査会で種々の角度から東海地震対策のあり方を検討するに当たり、その基礎資料とするため、現行制度や計画での警戒宣言時の経済損失について内閣府で試算を行った。
また、今後の新たな東海地震対策の検討結果を踏まえ、新制度・計画における警戒宣言時の経済損失についての想定も行う予定である。
なお、昨年行われた静岡県第3次被害想定においてもそうであるように、警戒宣言による地震発生前の準備行動により、経済被害の軽減効果があると考えられ、そのような軽減効果についても試算することとしている。
(2)検討の方法
①産業連関表上詳細な分類である27業種について、分析を行った。
②大きく分けて、以下のような経済的影響を試算した。
- a.強化地域内外の産業停止による影響
警戒宣言発令時には、強化地域内の産業が停止するとして、産業停止割合を産業別に設定し試算を行う。
強化地域外については、周辺地域の県等が地域防災計画等で定める警戒宣言発令時の規定を基に、関係事業者からのヒアリングも踏まえ、産業に与える影響を定量的に推測した。 - b.交通の寸断による影響
高速道路等については、貨物車両は業務目的の物流、乗用車両については業務目的以外の人流として取り扱い、それらの損失額を算出。新幹線等については、人流として取り扱い、業務目的とそれ以外に区分して試算。 - c.上記の波及による影響
直接経済損失額を基に産業連関分析を行い、波及額を算出。
③実質的な経済的影響と見かけの経済的影響の2種類について試算した。
- a.実質的な経済的影響
製造業の一部や建設業等では、長期的には受注量が減少しなければ生産調整が図られ損失はあまり生じない。通常においても、製造業における連休時の休業や建設業における悪天候時の休業等があり、それらと同様にみることができる産業もある。このため、各業種についてヒアリング等を行い確認し、そうした状況も加味した実際的な影響について算出した。 - b.見かけの経済的影響
ガス、水道などのインフラ産業以外すべての産業について、停止するとした場合の影響全額を整理。計算上の経済的影響とは言えるが、実質的にはa.のようになると想定される。
④今回の試算では、最も経済的影響が出るように平日を想定した。また、数値については
警戒宣言が3日間続いた場合の1日あたりの影響として算出している。
(3)試算結果
警戒宣言時の経済的影響額(1日あたり) (単位:億円)
産業停止による損失額 | ||
強化地域内産業停止 | ||
周辺地域産業停止 | ||
交通・物流の寸断による損失額 | ||
高速道路等 | ||
新幹線等 | ||
直接損失額(上記の計) | ||
波及額 (関係する地域や業種への波及) | ||
合 計 |
参考資料
資料2