熊本地震からの復興 平成28年(2016年)・熊本県

熊本県南阿蘇村にあった国道325号の阿蘇大橋(旧橋)は昭和45年に架けられた黒川を跨ぐ全長206mのアーチ橋で、熊本市や熊本空港方面と南阿蘇村や高森町を結ぶ交通の要衝であり、阿蘇山観光の重要なアクセスルートのひとつでした。
平成28年4月16日未明に発生した熊本地震で、橋が立地する南阿蘇村河陽は震度6強の揺れを記録し、阿蘇大橋は崩落してしまいました。当初は橋のすぐそばで発生した大規模な斜面崩壊に巻き込まれたことが原因とされましたが、後の調査で橋の直下の断層が動いたことで地盤がずれ、橋を圧縮する強い力がかかったことで崩落したことがわかりました。この崩落で地震発生時に乗用車で橋を走行していた大学生が犠牲になりました。
専門家から同じ場所での復旧は困難という見解が出されたことから、旧橋から600m下流に新たな橋を建設することとなり、地震から5年を経た令和3年3月7日、全長525m、最大橋脚高97mのラーメン橋(複数の橋脚と上部の橋桁を一体化させた構造)「新阿蘇大橋」が開通しました。新しい橋も直下に活断層があることが推定されていることから、地震で地盤がずれた際の落橋を防ぐために橋桁を2つの部分に分け、橋脚と橋桁の接合部の強度をあえて弱めて外れやすくすることで、強い地震が起きれば橋桁がずれることで揺れの力を逃がす構造になっているほか、橋桁が落ちた場合は橋脚上部で受け止めるつくりとするなどの工夫が施されています。
新阿蘇大橋の開通により熊本方面から南阿蘇方面へのアクセスが改善されたことで、阿蘇山を訪れる際の利便性が向上し、観光産業の活性化による地域経済の復興にも期待がかかります。

熊本地震による大規模山腹崩壊と落橋した阿蘇大橋(国土地理院撮影)

震災直後の航空写真(上)と現在の地図(地理院地図より)
![]() |
熊本地震で崩落した旧阿蘇大橋の橋桁は、「熊本地震 震災ミュージアム」を構成する震災遺構のひとつとして保存されています。国道57号沿いの大規模山腹崩壊(数す鹿が流る崩くずれ)跡に「数鹿流崩之碑」が建てられ、展望所から旧阿蘇大橋の橋桁と新阿蘇大橋を望むことができます。また、新阿蘇大橋の南阿蘇側の袂にも展望所「ヨ・ミュール」が設置されており、新阿蘇大橋と背後の数鹿流崩れを一望できます。 新阿蘇大橋展望所「ヨ・ミュール」からの景観 |
表紙の写真
旧橋の600m下流に架けられた国道325号の新阿蘇大橋。下を流れる黒川は深い谷を刻み、橋脚は100m近い高さがあります。南阿蘇側の袂には新阿蘇大橋展望所「ヨ・ミュール」が設けられており、見学が可能です。

Build Back Betterとは
「Build Back Better(より良い復興)」 とは、2015年3月に宮城県仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議」の成果文書である「仙台防災枠組」の中に示された、災害復興段階における抜本的な災害予防策を実施するための考え方です。
本シリーズでは、災害が発生した国内外の事例を紹介し、過去の災害を機により良い街づくり、国土づくりを行った姿を紹介いたします。