防災の動き



防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言について
〈内閣府(防災担当)事業継続担当/内閣官房国土強靱化推進室/内閣府(防災担当)普及啓発・連携担当〉

【防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言について】

 2万人を超える犠牲者を出した1896年の明治三陸地震津波から100年以上が過ぎましたが、2011年の東日本大震災においてもなお犠牲者は、2万人を超えています。さらに、熊本地震から5年、東日本大震災から10年、阪神・淡路大震災から四半世紀が経過した今を節目の時と捉えて、今後、巨大自然災害により失われる生命を激減させるという覚悟を胸に「防災・減災、国土強靱化新時代」を切り拓いて行きたいと考えています。

 この「防災・減災、国土強靱化新時代」に向けて、合計5つのワーキンググループチーム(以下「WGチーム」という。)において、検討が進められ、2021年5月25日に各WGチームから提言がなされました。以下、これらの提言内容についてご説明します。

防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言
防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言

【デジタル・防災技術WG】

 近年、頻発化、激甚化する災害に対して、人命にかかわる事前防災や被災後の人命救助に役立つ可能性があるデータの多くが散乱、埋没されています。そのため、デジタル化を推進し、これらのデータの解析により、問題点の検出や解消を図るなど、先手を打つための意思決定を支援していく必要があります。このため、内閣府では、防災分野におけるデジタル化を進めるための施策を検討する「デジタル・防災技術WG」を開催しました。

 本WGは、現在の技術では実現が困難であっても、今後の技術革新等を見据え、中長期(10年程度以上)の時間軸で、デジタル・防災技術として目指すべき未来像を議論する「未来構想チーム」と、既に活用が進みつつある技術について、中短期(5年程度)の時間軸で、実装を見据え、技術・制度両方の観点からの課題の洗い出しや改善の方向性を議論する「社会実装チーム」で構成され、課題と対応方策等について検討しました。検討を踏まえ提言された政策の方向性の概要については、以下のとおりです。

①未来構想チーム

 ○「防災デジタルツイン」による被災・対応シミュレーション

  都市空間をデジタル上に再現するとともに、これを動かすシミュレータを構築。被災状況の推定・可視化と、対策の有効性検討等に役立て、被害を最小化。

 ○リアルタイム情報共有(安否・インフラ情報等)

  民間企業が持つ情報網も活用し人の所在・安否を把握しつつ、被害推計を実施。空間・インフラについてドローン網やセンサーによる情報収集を実施。これらの情報をリアルタイムに統合・可視化し、俯瞰可能にするとともに、安定的に動く情報基盤を構築・運用。

 ○究極のデジタル行政能力の構築(行政機関等のデジタル移転・ハイブリッド化)

  立法・行政機能のレジリエンスを高めるべく、被災時にその機能を別の物理空間ではなくデジタル空間へと移転。24時間365日ダウンしないリモート・分散労働対応の司令塔機能を構築。

【防災・減災、国土強靱化新時代】デジタル・防災技術WG(未来構想チーム)提言
【防災・減災、国土強靱化新時代】デジタル・防災技術WG(未来構想チーム)提言

②社会実装チーム

 ○日本版EEIの策定・進化(災害対応に必要な情報のデザイン・蓄積)

  災害対応のために必要となる情報をデザインし、必要な情報項目、取得時間、更新頻度の目安等を網羅した日本版EEI(Essential Elements of Information)を策定。それに基づき情報所有機関との機械同士のデータ連携を促進。

 ○個人情報の取扱いに関する指針の作成

  自治体等が、災害対応や平時の準備において個人情報を取扱う際の活用範囲や留意点等についてまとめた指針を作成。

 ○防災情報の収集・分析・加工・共有体制の進化(防災デジタルプラットフォーム・防災IoTの構築)

  災害時に、行政機関や電力・通信等の事業者から、システムを通じて医療情報等の人命救助の対応に必要な情報を収集・分析・加工し、自衛隊等の災害対応機関に共有する「防災デジタルプラットフォーム」と、災害時に人手で収集している情報について、ドローン、センサー等を積極的に活用し、迅速に自動で集約する仕組みである「防災IoT」を整備。

【防災・減災、国土強靱化新時代】デジタル・防災技術WG(社会実装チーム)提言
【防災・減災、国土強靱化新時代】デジタル・防災技術WG(社会実装チーム)提言

【事前防災・複合災害WG】

 近年、気候変動の影響により気象災害は激甚化・頻発化しており、また、南海トラフ地震や首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震などの大規模地震の発生も切迫しているところです。また、スーパー台風の東京湾直撃の可能性などが指摘される中、東京湾臨海部低地等における高潮等の対策について、その想定災害規模と併せ、広く理解を得つつ、対策を加速化する必要があります。このようなことから、大規模自然災害における事前防災の取組の飛躍的な加速化を図るとともに、大規模自然災害が複合的に発生した場合の対応や感染症まん延下での災害対応についても早急に実施していく必要があります。

 防災・減災、国土強靱化の取組は、5か年加速化対策を策定し、今後取組を加速化・深化することとしているところでありますが、上記の問題意識に対応した今後の取組の方向性について議論するため、ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会の下に「事前防災・複合災害WG」を設置し、課題と対応方策等について検討しました。検討を踏まえ提言された政策の方向性の中で、主要な事項は、以下のとおりです。

 ○令和3年度からの「防災・減災、国土強靱化対策のための5か年加速化対策」により防災・減災、国土強靱化を重点的・集中的に推進するとともに、地震・水害・土砂災害等の様々な災害を具体的に想定し、それぞれの災害に対する総合的な脆弱性やアウトカム、地域ごとの強み・弱みや広域的な影響を見える化し、地域における具体的施策につながるよう、より科学的・技術的視点からの検討を進め、新たな国土強靱化脆弱性評価の実施方法を構築する必要がある。

 ○災害対策基本法改正により可能となった、おそれ段階における災害対策本部の設置を踏まえた広域避難の円滑な実施に向け、早い段階から広域に避難することが必要な者の絞り込みを行うなど、具体的かつ現実的な広域避難の方策検討を進める必要がある。

 ○感染症まん延下で大規模災害が発生した場合、感染症対策を進めながら膨大な被災者対応を行う必要があることから、限られた資機材・人員により効果的に対策を進めるなど優先度を考慮した対応を促進するとともに、災害医療現場における感染症対策の負荷対応、搬送計画、施設の受け入れ区分を含む感染症医療と災害医療のリソース配分、医療関係機関同士の連携、他地域からの支援の充実などの災害時オペレーションについて検討し各地域で対策を進める必要がある。

【防災教育・周知啓発WG】

 全ての国民が災害から自らの命を守ることができるためには、必要な防災知識や主体的な防災行動を子どもの頃から身に付けるための防災教育や意識啓発が重要です。また、災害から守られた生命が災害後の避難生活等において災害関連死として失われることなく、被災者が尊厳ある避難生活を送ることができるようにするためには、国民の共助意識を周知啓発しながら、意欲ある災害ボランティアによる避難生活支援を充実し、避難生活を向上させる環境を整備していくことが有効です。

 こうした課題を検討するため、防災教育・災害ボランティアに関し「防災教育・周知啓発WG」を設置し、その中で、充実させるべき防災教育の内容や効果、その防災教育内容の普及方法を検討する「防災教育チーム」と、地域の災害ボランティアが意欲を持って避難生活支援のスキルを向上させ、地域の避難所運営など避難生活の向上に活躍できる仕組みを検討する「災害ボランティアチーム」の2つのチームを立ち上げ、検討を行いました。検討を踏まえ提言された政策の方向性の概要については、以下のとおりです。

防災デジタル情報・データフロー図
防災デジタル情報・データフロー図


【防災・減災、国土強靱化新時代】事前防災・複合災害WG提言
【防災・減災、国土強靱化新時代】事前防災・複合災害WG提言

①防災教育チーム

 防災教育チームから提言された政策の方向性の中で、主要な事項は以下のとおりです。

 ○災害は全国いつでもどこでも生じ得ることから、全国全ての小学校、中学校の義務教育機関において、地震や水害など地域に応じた災害リスクや、「正常性バイアス」などの必要な知識を教え、学校内だけでなく校外でも、一人でも、災害の危険から確実に逃げられるように実践的な防災教育や避難訓練を実施していく必要がある。

 ○防災教育は地域と学校が連携して行うことで、子どもたちが知識の教育だけでなく地域住民とのコミュニケーションを通じた心を通わせられる機会などを得て、主体的で内発的に避難行動ができる態度や周囲の人を助ける心を育むことができる。また、時間的な制約等の課題を抱える学校にとっても、学校や教員の負担を軽減できる。このため、地域と学校の間に入り、継続的に両者の活動を支援する人材(防災教育コーディネーター(仮称))を育成することが重要である。

 ○幼稚園・保育園では、防災教育に対する保護者の意識、防災について学ぶ保護者の意欲が高く、保護者が防災教育に協力的である。また、小学校に比べれば教育の内容や時間について柔軟な現場対応が可能である。このため、幼稚園・保育園の段階から小学校、中学校、高等学校への発達過程に合わせ、防災教育を学齢に応じたシームレスな体系に整理した防災教育の実施が重要である。

【防災・減災、国土強靱化新時代】防災教育・周知啓発WG(防災教育チーム)提言
【防災・減災、国土強靱化新時代】防災教育・周知啓発WG(防災教育チーム)提言

②災害ボランティアチーム

 災害ボランティアチームから提言された政策の方向性の中で、主要な事項は以下のとおりです。

 ○大規模災害時には自治体職員のマンパワーや避難生活支援の専門的スキルが不足するおそれがある。避難生活支援を充実させるには、避難生活支援スキルの高い災害ボランティア人材を各地に増やしていくことが重要である。

 ○地域の災害ボランティア人材を発掘し、その人材が自主性や意欲に応じて、避難生活支援活動での役割や機能に応じたスキルを、ステップアップしながら身に付けることができる体系的な育成研修や、災害ボランティアの信頼と認知度を高める研修修了認定の仕組みを構築していくべきである。

 ○研修を受け一定のスキルを持った災害専門ボランティアを活動地域とマッチングするため、都道府県レベルの行政、NPO、社協等が連携して、災害専門ボランティアと市町村、市町村はさらに地域とのマッチングを進める。そのための登録データベースを整備するとともに、平時、災害時に、災害専門ボランティアと地域住民等が協働できる環境を整備する。

 ○以上のような、新しい仕組み・体系を導入し、防災人材の育成と地域防災力の強化を飛躍的に加速化する好循環(=エコシステム)を生み出し、災害ボランティアの方々の重要な役割を明確にしていく。

【防災・減災、国土強靱化新時代】防災教育・周知啓発WG(災害ボランティアチーム)提言
【防災・減災、国土強靱化新時代】防災教育・周知啓発WG(災害ボランティアチーム)提言


避難生活支援・防災人材育成エコシステム
避難生活支援・防災人材育成エコシステム

【おわりに】

 上記の防災分野にわたる画期的な取り組みの数々を念頭に、我が国が「防災・減災、国土強靱化新時代」を迎えたことを宣言したところです。提言はいわば中間報告として、今後も提言内容の実現に向け取り組みを推進するとともに、適時適切にフォローアップも行いながら、自然災害の直接死・関連死をできるものならなくしたいと念願しています。



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内閣府政策統括官(防災担当)

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