防災リーダーと地域の輪 第42回



高知県立大方高等学校
〈内閣府(防災担当)普及啓発・連携担当〉

防災リーダーと地域の輪 第42回

高知県西部にある黒潮町(人口約11,000人)は、南海トラフ地震が発生した場合、最大34メートルの津波に襲われると予測されています。同町では、「犠牲者ゼロ」を目指して、津波避難タワーの建設や地区防災計画の策定など、ハード・ソフトの両面から様々な対策を行なっています。

同町唯一の高校で、平成28年11月に「世界津波の日」高校生サミットの議長校を務めた高知県立大方高等学校(生徒数84名)も、防災教育に力を入れています。その中心となっている活動が、避難所運営ゲーム「HUG」の作成・実践です。

HUGは、平成19年に静岡県が開発した、避難所の運営を疑似体験するカードゲームで、進行役1名とプレーヤー数名が、避難所となる体育館や教室に見立てた平面図を囲んで行います。進行役は、年齢や性別などが書かれた「避難者カード」と、受付や仮設トイレの設置、物資の搬入など避難所で発生する様々な事柄が書かれた「イベントカード」を読み上げ、プレーヤーに配布します。プレーヤーは、イベントカードの出来事に対応しながら、平面図の上に避難者カードを配置していきます。個々の事情に応じて避難者をいかに最適な場所に配置するか、避難者からの要望や行政からの指示などにどのように対処するかを学ぶことができます。

同校教諭の近森美保さんは、HUGに取り組んだ背景を次のように説明します。

「私たちの生徒の約7割は、電車や自転車を使った遠距離通学なので、平日の日中に大きな災害が発生すれば、生徒の多くは帰宅できません。その場合、生徒は校舎に開設した避難所で住民と過ごすことになります。そうした状況に備え、避難所生活の訓練が必要と考えました。」

HUGの取組みは、平成30年に防災教育チャレンジプランとして採択後、本格的にスタートしました。同校で「地域学」の科目を選択している2年生の10名がHUGの作成・実践の中心となりました。生徒は、住民からの聞き取り、避難路や避難タワーの調査などで地域の情報を集め、東日本大震災を経験した宮城県多賀城高等学校との交流を通じて、実際の避難所で発生する事柄や災害への心構えを学びました。こうした活動を踏まえ、生徒は地域の実情に合ったオリジナルのHUGを作成しました。

平成30年夏に完成したHUGでは、避難者カードは実際の住民の情報をもとに約100名分を作成、一方、イベントカードは、例えば、『扇風機が届く。どのように配布すべきでしょうか。』、『寒さで眠れなくなる人がいる。どのような対策をするべきでしょうか。』など、夏と冬それぞれで発災した場合を想定したものを作成しました。

完成後、数回にわたってHUGが実践され、同校の生徒のみならず、中学生、住民、役場の職員、防災関係者など様々な人が参加しました。生徒は実践を重ねるごとに、改良を加えていきました。同校の全生徒が参加した実践では、仮設トイレの設置、車椅子の用意、防寒シートの用意などの指示が書かれた「実行イベントカード」を加え、その指示を生徒が実際に行うという工夫をしました。

この他にも、近隣の保育所、小学校、中学校との共同避難訓練、炊き出しや備蓄品の持ち出し訓練、非常食となる山野草「防災植物」の調理などの様々な防災活動を行ないました。

こうした活動が評価され、大方高校は平成31年2月、防災教育チャレンジプランの「防災教育優秀賞」を受賞しました。

同校教諭の浦田友香さんは、チャレンジプランの活動を通じて、生徒の意識や行動に変化が現れたと話します。

「様々な人との交流で、コミュニケーション能力が高まりました。また、多くの人に感謝されることで自信がつき、自分は社会のために何ができるのかを考えるようになりました。」

同校は平成31年に再びチャレンジプランに採択され、高齢者や障害者などの要配慮者を受け入れる福祉避難所を想定したHUGの作成、視覚・聴覚障害者が参加した防災訓練、同校オリジナルの「防災カルタ」を使った小学校での出前授業など、さらに活動の幅を広げました。その結果、令和2年2月に「防災教育特別賞」を受賞しました。

「地域の高齢者からは、『若い人がこんなに住民のことを考えてくれているのなら、自分たちも頑張らなければ』といった声も上がっています。若者の地域への影響力は非常に大きいです。これからも、地域の人たちに信頼される生徒を育てていきたいです」と浦田さんは話します。

「正確な情報をもとに、マイ・タイムラインを実行すれば、台風や大雨から逃げ遅れる人をゼロにすることは可能です。今後も平常時の防災活動を継続し、災害時にしっかりと行動できるようにしていきたいです」と須賀さんは話します。

大方高校の体育館でHUG を実践する生徒(左) 大方高校と、近隣の保育所、小学校、中学校との共同避難訓練(右)

大方高校の体育館でHUG を実践する生徒(左) 大方高校と、近隣の保育所、小学校、中学校との共同避難訓練(右)

防災カルタを使った小学校での出前授業(左) 炊き出しの訓練(右)

防災カルタを使った小学校での出前授業(左) 炊き出しの訓練(右)


(画像提供:すべて 大方高等学校)



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