防災リーダーと地域の輪 第39回



伊豆市津波防災地域づくり推進協議会
伊豆市“海と共に生きる” 観光防災 まちづくりをみんなで考える会
〈内閣府(防災担当) 普及啓発・連携担当〉

防災リーダーと地域の輪 第39回

伊豆半島の西岸に位置する静岡県伊豆市土肥地区は、年間約35万人が宿泊する伊豆有数の温泉地です。しかし、土肥地区の人口は昭和30年代をピークに減少を続け、現在は約3,500人となっています。このままのペースが続くと、20年後には2,000人を割り込むと予測されています。さらに、同地区は南海トラフ巨大地震が発生した場合、最高10mの高さの津波が、地震発生から6分後に沿岸に到達すると想定されている地域でもあります。

こうしたことから伊豆市は、総合的な地域づくりの中で津波防災を推進することを目的とした「津波防災地域づくりに関する法律」(平成23年12月施行)を踏まえ、平成28年(2016年)から「観光防災まちづくり」に取組み始めました。伊豆市は、加藤孝明・東京大学生産技術研究所准教授(現教授)を会長に招き、静岡県や伊豆市、土肥地区の観光協会や漁協の代表者などで構成される「伊豆市津波防災地域づくり推進協議会」(以下、推進協議会)を立ち上げました。一方、土肥地区では市民が中心となり「伊豆市“海と共に生きる”観光防災まちづくりをみんなで考える会」(以下、考える会)が結成されました。

「推進協議会は、人口減少と防災への対策を盛り込んだ、まちづくり推進計画の策定を進め、考える会を通じて、計画への市民の意見の反映、推進協議会での議論の周知を図りました」と伊豆市土肥支所長の山口雄一さんは言います。

推進計画策定の中で、焦点となったのが「津波災害警戒区域」(イエローゾーン)と「津波災害特別警戒区域」(オレンジゾーン)の指定です。両ゾーンは津波防災地域づくりに関する法律に基づき指定され、最大クラスの津波が発生した場合に備え、「イエローゾーン」は津波から「逃げる」ことができるように、避難施設や避難路の確保、避難訓練の実施等の取組みを行なっていく区域です。「オレンジゾーン」は、子どもや高齢者等の避難が難しい人が利用する施設において、津波を「避ける」ことができるように、建築物の安全性確保を行なっていく区域です。両ゾーンの指定に当たっては、事前に各市町の意向を確認した上で、県知事が指定します。

両ゾーンの指定により、ソフト面・ハード面で様々な津波対策が進み、津波被害が軽減することが期待できます。その一方で、津波リスクが高い地域という誤ったイメージが広がる可能性も否定できません。こうしたことから市は、ゾーンの指定について意見交換するために大小の市民集会を重ねました。

「指定による風評被害を心配する声もありました。しかし、指定を前向きにとらえ、防災力を向上させることで、後世に”より安全な土肥”を伝えていきましょうという考えで市民の意見がまとまっていきました」と山口さんは話します。

平成29年5月には推進協議会で、両ゾーンの指定を「前向きに検討する」という表現を盛り込んだ「伊豆市”海と共に生きる”観光防災まちづくり推進計画<初版>」が策定されました。

その後、両ゾーンへの指定に備え、様々な活動が行われました。土肥中学校では、加藤会長が講師となり、3回にわたってワークショップが開催され、生徒が観光と防災とを両立させる方法を議論しました。また、宿泊施設と連携して、観光客の避難、津波避難ビルへの避難誘導などを確認する避難訓練が行われています。さらに、地区や中学校、漁協、観光協会、旅館協同組合など19の団体が、それぞれの団体の防災の目標を「がんばる地域宣言」として公表しました。この他、観光防災に取り組む姿を地域内外にアピールするために、「みんなで取組む観光防災まちづくり」と書かれたのぼり旗を各所に設置しました。

こうした活動を経て、平成30年3月に、土肥地区の海岸沿いの一部がイエローゾーンとオレンジゾーンに指定されました。オレンジゾーンの指定は全国で初めてでした。

両ゾーンの指定後も、観光防災まちづくりの取組みは着実に進んでいます。「がんばる地域宣言」を掲げた団体の間では、地区防災計画を策定する動きが進み、現時点で土肥温泉旅館協同組合など4つの地区・団体の地区防災計画が伊豆市の地域防災計画に位置付けられました。

「土肥地区が全国初のオレンジゾーン指定を前向きに受け入れたことで、国や県、大学、企業などからも様々なご協力を頂けるようになりました。今後も、市民との対話を大切にしながら、観光防災まちづくりを一歩一歩進めていきたいと思います」と山口さんは話します。

観光施設「土肥金山」での避難訓練

観光施設「土肥金山」での避難訓練

伊豆市津波防災地域づくり推進協議会で 論する参加者

伊豆市津波防災地域づくり推進協議会で 論する参加者

平成29年9月に土肥中学校で行われたワークショップ

平成29年9月に土肥中学校で行われたワークショップ

「みんなで取組む観光防災まちづくり」と書かれたのぼり旗

「みんなで取組む観光防災まちづくり」と書かれたのぼり旗



(画像提供:すべて伊豆市)



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