特集 防災教育

タイトル写真
左上:「防災推進国民大会2017」にて(写真提供:多賀城高校)
右上:防災ポスターコンクール審査会
左下:作成したマップの発表をする子供たち(写真提供:日本損害保険協会)
右下:防災クイズによる災害への備えの啓発(写真提供:舞子高校)

はじめに

防災・減災への意識を高めるためには、日頃からの備えやもしもの際の行動などの正しい知識を周知・普及する「教育」の取組みが欠かせません。そこで今回は、国や民間が行う防災教育の支援プログラムや、教育機関の活動などをご紹介します。

絵を描くことを通じて、防災について考える 「防災ポスターコンクール」

「防災週間」及び「津波防災の日」行事の一環として行われている『防災ポスターコンクール』は、内閣府と防災推進協議会による共催で昭和60年にスタートした歴史ある防災教育コンテンツ。防災をテーマにしたポスターを描くことをきっかけにして、家庭や学校、地域などにおいて、日頃からの災害への備えや緊急時の行動などを考えてもらい、防災意識の向上を図るために実施されている取組みです。

第33回を迎えた平成29年度も、「幼児・小学1年生の部」「小学2〜4年生の部」「小学5・6年生の部」「中学生・高校生の部」「一般の部」の5部門について作品募集が行われ、全国から12,245点もの作品の応募がありました。予備審査を通過した236点から、防災担当大臣賞(5作品)、防災推進協議会会長賞(5作品)、審査員特別賞(1作品)、佳作(20作品)が選ばれました。

ここ5年間は常に応募数が1万点を上回っていますが、こうした背景には、小学4年生以下の2部門では標語のない絵のみの作品も受け付けているほか、年齢を問わず「一般の部」としての扱いになってしまうものの、パソコンなどを使用して制作された作品も受け付けるなど、できるだけ間口を広げる仕組みがとられていることも好影響を与えているのではないかと考えられます。

入賞作品は内閣府のホームページで公開されているほか、東京臨海広域防災公園内にある防災体験学習施設「そなエリア東京」でも展示。さらに、「防災に関してとった措置の概況」及び「防災に関する計画」について取りまとめている「防災白書」の表紙に活用されるほか、地方自治体や民間の広報誌などでも防災意識の向上や防災知識の普及を図るために活用されるなど、コンクールの枠を超えて啓発の輪が少しずつ社会に広がるような取組みが行われていることも、長く続いている人気の取組みならではといえます。

第33回表彰式のようす
第33回表彰式のようす

本審査で審査員を務めた為末大さんにインタビュー

● 審査をされた感想はいかがですか?

審査に参加して感じたのは、これだけ多くの子供たちが絵に興味を持ち、ポスター制作に熱心に取り組んでいるということ。描き手によってとらえ方がさまざまなのが非常に興味深かったですね。

中でも、被災地の状況をありありと描いた子供の作品が特に印象に残りました。視覚に訴えかけられると、言葉で訴えるより何倍も強く記憶に残りやすい気がします。あと、スマートフォンを題材にしている子供の作品も一つありました。そういう時代に生まれ育った世代ならではの表現方法だと感心しましたね。

一口に「防災」といっても言葉の意味する範囲はかなり広いと思うのですが、子供たちにはこうした絵を描いている中で何かハッと気付いたり、学校に貼ってあるポスターを見てハッと何かを感じたりしてもらえればいいのではないでしょうか。腑に落ちなくてもいいんです。頭の片隅にあるだけでも、だいぶ違うと思います。そんなに身構えずに、日頃の自分たちの家庭でやるべきことに、ちょっとだけ想像を働かせてみるということをして欲しいですね。

世界的に見ても日本ほど防災に関して意識が高い国はないでしょう。子供の防災に関するリテラシーも相当高いのではないかと感じています。また、協調して動くということも、日本人が非常に得意とする部分ですよね。将来は、留学などで海外にわたる人がますます増えていくのではないかと思うので、今の子供たちには世界に飛び出し、防災のノウハウを広める役割も担って欲しいと思います。

為末大さん
元陸上競技選手、DEPORTARE PARTNERS代表。
アスリートと社会をつなぐ一般社団法人アスリートソサエティの代表理事も務める。

防災教育プランを公募し、実践のための支援を提供 「防災教育チャレンジプラン」

『防災教育チャレンジプラン』は、防災教育への意欲を持つ全国各地の団体・学校・個人などから、より充実した防災教育のプランを公募により選出し、1年間にわたって実践のための支援を行うプログラム。防災教育チャレンジプラン実行委員会の主催で2004年にスタートし、毎年10〜30団体、2017年度までの14年間に延べ276団体の実践活動を支援してきました。

プランの準備・実践のための活動支援金として最大30万円を提供するほか、実践団体のニーズや実情を踏まえてアドバイザーを派遣し、活動のアドバイスを提供するなどの具体的なサポートを行っています。また、応募の中から選ばれたプランは、活動計画について活動報告会で発表し、さらに1年間実践した結果を交流フォーラムなどで発表。他団体やアドバイザーとの交流を促すとともに、知恵や情報を多くの人々と共有することで、地域で自律的に防災教育に取り組むことのできる環境作りを進めています。

2017年度防災教育チャレンジプラン表彰式の様子
2017年度防災教育チャレンジプラン表彰式の様子

支援を受けたプログラムは内容も目的もさまざま。例えば、独自の取組みを数多く実施している点が高く評価された「豊橋市障害者福祉会館さくらぴあ」では、防災活動を日常の中に取り入れた「防災タイム」と称する取組みを実施。

定例会の際に利用者がグループに分かれて避難経路を確認してみることで、障害者自身が主体的に災害に備えることを目指したほか、防災マンガの制作・配布なども実施したことで、2016年度の防災教育大賞を受賞しています。また、2017年に防災教育大賞を受賞した千葉県立矢切特別支援学校では、天気や気温に関するさまざまなプログラムを実施。子供たち自身で気象情報を読み取り、それらを生活に役立てる力を養うことで、主体的な行動につなげる点が評価されました。

今後も、地域防災力向上のため同プランを実施するとともに、過去の実践団体のノウハウを活かして、継続的な取組を促すための支援策なども検討される予定です。

  • 2016年度防災教育大賞
    2016年度防災教育大賞
    【豊橋障害者(児)団体連合協議会(豊橋市障害者福祉会館さくらピア)】
    楽しみながら学ぶ避難所体験や、親子防災教室での防災頭巾作りなど独自の取組みが多く、障害者に対する防災教育の理解を広げるよう企画立案・実践している点が高く評価されました。
  • 2017年度防災教育大賞
    2017年度防災教育大賞
    【千葉県立矢切特別支援学校】
    水害についての学習や避難訓練と併せて、AR機器を使用した水害体験も実施。迫力のあるリアルな映像を実際に体験してみることで、災害の恐ろしさや対策の必要性を理解することができました。

(写真提供:すべて防災教育チャレンジプラン事務局)

自分たちの街をめぐり、防災のポイントをマップにまとめる 「ぼうさい探検隊」

一般社団法人日本損害保険協会が推進している『ぼうさい探検隊』は、阪神・淡路大震災をきっかけにスタートした取組み。子供たちが楽しみながら、自分たちの住むまちにある防災・防犯・交通安全に関する施設・設備などを見て回り、身の周りの安全や安心を考えながらオリジナルのマップにまとめて発表する、実践的な防災・安全教育プログラムです。

2017年度・第14回『小学生のぼうさい探検隊マップコンクール』では、全国の小学校や子供会、少年消防クラブなど538の団体から16,370人の児童が参加、計2,582作品が寄せられました。受賞作品を見ると、手描きのイラストや切り貼りした写真などで工夫され、避難経路や危険箇所の情報もしっかり網羅された力作揃いで、子供たちが真剣に取り組んだことが伝わってきます。

  • 第14回防災担当大臣賞
    【香川県三豊市仁尾町児童館「におっこ清掃探検隊」】
    「南海トラフから身を守ろう」をテーマに、避難経路や防災宿泊体験などを実施。 清掃活動も行うことで、環境や海の大切さを知ることにもつながりました。
  • 子供たちの提言が改善につながった事例も
    【岡山県緑丘児童クラブ「緑丘キッズキッズ」】
    緑丘児童クラブでは、通学路の中で道が細く暗いために危険と思われる区域があることを発見。 マップの提案によって通学路が変更となり、自分たちの活動が安全へとつながりました。

第1回からの延べ参加数が5,000団体を超え、複数回応募の団体が全体の約6割を占めることからもわかるように、取組みは地域へと着実に浸透。また、近年ではボーイスカウトや児童館など、異なる学年の子供たちが混在する団体からの作品が増加傾向にあるほか、自然災害だけに限らず「Jアラート」を扱う作品が登場するなど、人災をテーマに取り入れた作品も応募がありました。

さらに、マップにまとめた内容をもとに行政などへ提言を行ったことで、老朽化して崩れそうなブロック塀が行政予算によりフェンスに改修された福島県相馬市のケースをはじめ、実際に危険箇所が改善された事例も少しずつ増加。活動を通じて周辺住民との交流が深まり、子供たちの地域への関心や愛着が増す効果もあるといいます。

この取組みに関連して、大学生や地域ボランティアなどを対象とした『ぼうさい探検隊リーダー養成講座』も実施しており、指導者の養成に向けた取組みも進められています。

2017年度防災教育チャレンジプラン表彰式の様子
第14回 小学生のぼうさい探検隊マップコンクール表彰式

(写真提供:すべて日本損害保険協会)

防災専門学科のある高校 兵庫県立舞子高等学校/環境防災科宮城県多賀城高等学校 災害科学科

阪神・淡路大震災をきっかけとして、防災教育を推進する全国初の専門学科として平成14年に設置されたのが、神戸にある兵庫県立舞子高等学校の「環境防災科」。同校は震災直後から市民救命士(心肺蘇生法)の資格取得に全校で取り組んでいたほか、教育委員会が作成した防災副読本『明日に生きる』の実践事例集制作にも参加するなど先進的な取組みを進めており、屋上には防災型のソーラーパネルが設置されているなど条件も揃っていたことが設置につながりました。

とくに力を入れている取組みは、設置のきっかけにもなった阪神・淡路大震災の学習。被災の教訓を後世に語り継ぎ、命の大切さや助け合いの素晴らしさを伝えていきます。また、震災時に大火災に見舞われた長田区の街歩きや、六甲山を歩いて地学の視点から地震や水害について学ぶフィールドワークなど、体験活動も数多く実施。いざというときに自分で考え、臨機応変に行動できる市民のリーダーとなる人材の育成を目指しています。

教科書もないところから試行錯誤を重ねて今年で16年。近年に発生した災害を学びの中に取り入れているほか、同じく防災に取り組む学校を増やすことにも尽力。兵庫県や全国規模の「防災ジュニアリーダー合宿」など、防災教育の裾野を広げる活動も行われています。

舞子高校に続いて全国2例目の防災専門学科を設置したのは、宮城県多賀城高等学校。東日本大震災で学んだ教訓を確実に次世代へ伝承するとともに、国内外で発生する災害から多くの命と暮らしを守ることができる人材育成のため、平成28年に「災害科学科」が開設されました。

さまざまな活動を通して一人ひとりの防災意識を高め、科学的な視点から防災・減災教育が行われているのが特徴。生徒がファシリテータとなり、災害発生直後の行動や避難所生活などを県外の高校生や海外からの視察者などと一緒に考える「防災ワークショップ」の実施や、津波浸水域が示された広域地図に自分の通学路を書き込み、学校と家庭で共有する「通学防災マップづくり」など、体験型のカリキュラムが数多く行われています。

また、外部講師を招いての特別授業や課題研究だけでなく、茨城県つくば市にある宇宙航空研究開発機構(JAXA)や防災科学技術研究所(NIED)などの研究機関において、研究員による授業や施設見学なども実施。第一線の研究内容に触れる機会も豊富です。

まだ設置から2年ながらも、生徒たちが自ら考え、意見を表明する力は確実に向上しており、今後の継続的な取組みにより、地域はもちろん、国内や海外で貢献していける人材の育成が期待されています。

  • 防災専門学科のある高校①
    舞子高校環境防災科の小学校への防災出前授業。南海トラフ地震で想定される津波の高さをブルーシートで表現し備えと避難の大切さを呼び掛けました。
    (写真提供:舞子高校)
  • 防災専門学科のある高校②
    多賀城高校災害科学科では、昨年秋に仙台市で開催された『世界防災フォーラム/防災ダボス会議@仙台2017』にも参加。防災の取組みについて発表しました。
    (写真提供:多賀城高校)

〈内閣府(防災担当)普及啓発・連携担当〉

所在地 〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1 電話番号 03-5253-2111(大代表)
内閣府政策統括官(防災担当)

Copyright 2017 Disaster Management, Cabinet Office.