Disaster Management News―防災の動き

避難勧告等に関するガイドラインについて

1.はじめに

近年、我が国において、極端な集中豪雨により、大きな人的・物的被害が発生するなど、自然災害の激甚化が進んでいる。例えば、最近5年間を見ても、平成24年7月の九州北部豪雨による矢部川の氾濫、平成25年9月の由良川及び桂川における氾濫、平成27年9月の関東・東北豪雨災害による鬼怒川の氾濫、そして平成28年8月の台風第10号による小本川(岩手県)や空知川(北海道)の氾濫が発生している。

特に、平成28年台風第10号による水害(以下「台風10号災害」という。)では、死者・行方不明者27人が発生する等、東北・北海道の各地で甚大な被害が発生した。とりわけ、岩手県岩泉町では、高齢者施設が被災し、入所者9名が全員亡くなる等、高齢者の被災が相次いだ(写真1)。

このような事態を踏まえて内閣府が設置した「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドラインに関する検討会(以下「検討会」という。)」において、関係省庁が連携して避難に関する情報提供の改善方策等について検討を行い、平成28年12月に報告をとりまとめた。

内閣府においては、本報告も踏まえ、「避難準備情報」の名称について、高齢者等が避難を開始する段階であることを明確にするなどの理由から、「避難準備・高齢者等避難開始」に変更するとともに、居住者及び高齢者施設等の管理者(以下「施設管理者」という。)が的確な避難行動をとれるよう、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を改定した。

写真1 台風10号災害による高齢者施設の被災
写真1 台風10号災害による高齢者施設の被災

2.台風10号災害を踏まえた各省の対応とガイドラインの内容の充実

台風第10号は、8月30日の朝には関東地方に接近し、同日午後5時半頃に暴風域を伴ったまま岩手県大船渡市付近に上陸した。岩泉町は、夜にかけて台風が上陸するという予報を踏まえ、住民に対して早めの避難行動を促すため、同日午前9時頃に町全域に避難準備情報を発令した。しかし、被災した高齢者施設では、施設が作成する災害計画に水害からの避難について記載されておらず、また、施設管理者は、避難準備情報が発令されたことは認識していたが、その意味を理解せず、入所者の避難には繋がらなかった。さらに、午後5時20分頃には、岩手県の河川担当者から岩泉町に対して、避難勧告を発令する基準に達していることについて電話で連絡があったが、岩泉町の職員は住民からの電話対応に追われ、町長に報告されることはなかった。

これらの実態を踏まえると、課題は大きく以下の3点に集約できる。

①避難勧告等を受け取る立場にたった情報提供の在り方
 ②要配慮者の避難の実効性を高める方法
 ③躊躇なく避難勧告等を発令するための体制の構築

 

政府では、これらの課題について関係省庁が連携して対応するとともに、内閣府においては、市町村の避難勧告等の判断・伝達が主であったガイドラインを改定し、避難行動や防災体制を含めた記載とした。それに併せて、ガイドラインの名称を「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」から「避難勧告等に関するガイドライン」に変更するとともに、使いやすさを考慮して、〝避難行動・情報伝達編〟、〝発令基準・防災体制編〟に分けることとした。

また、災害時にとるべき避難行動等を簡潔にまとめたパンフレット(雛形)の添付に加え、避難勧告等の具体的な発令基準策定に係る市町村支援や市町村長へのホットライン、居住者への伝達方法、避難先等に関する参考事例を紹介した。
(避難勧告等に関するガイドラインのHP:https://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/index.html)

(1)避難勧告等を受け取る立場にたった情報提供の在り方

台風10号災害では、岩泉町において、避難準備情報の発令時に、要配慮者が避難すべき段階であることが周知できておらず、また、被災した施設管理者は、避難準備情報が高齢者等の避難開始を知らせる情報であるということを理解していなかった。さらに、小本川は、浸水想定区域を公表する対象の河川ではなかったことから、町や住民は氾濫域における水害の危険性の詳細が分からず、避難の対象となる範囲が明確ではなかった。

これらを踏まえ、国土交通省では、浸水実績を活用する等、河川の状況に応じた簡易な方法で、地域の水害リスクを周知する方策について検討を開始した。

内閣府では、「避難準備情報」の名称について、浸透しつつある「避難準備」の名称は残すとともに(図1)、「要配慮者」を「高齢者等」と表現する等、直感的にわかりやすい表現とし、高齢者等が避難を開始する段階であることを明確にする等の理由から、「避難準備・高齢者等避難開始」に変更した。併せて、避難勧告と避難指示の差異が明確となるように、「避難指示」に〝緊急〟を付記することとした(図2)。また、ガイドラインにおいては、市町村長が避難勧告等を発令する際には、その対象者を明確にするとともに、対象者ごとにとるべき避難行動がわかるように伝達すること、平時から居住者に対してその土地の災害リスク情報や災害時にとるべき避難行動について周知すること等について、記載の充実を図った。

図1 避難準備情報の認識
図1 避難準備情報の認識
図2 避難情報の名称の変更
図2 避難情報の名称の変更

(2)要配慮者の避難の実効性を高める方法

高齢者施設等の災害計画は火災を中心とした計画が多く、水害等からの具体的な避難対策まで記載されていないことが多かった。また、地方公共団体が定期的に実施している指導監査においては、施設の運営体制等について確認しているが、災害計画については、水害等からの避難に関する記載や避難訓練の実施状況等は確認していなかった。
高齢者施設等は、その設置目的を踏まえた施設毎の規定(介護保険法等)や、災害に対応するための災害毎の規定(水防法等)により、災害計画を作成することとなっている。このことを踏まえ、厚生労働省では、高齢者施設等での水害等からの避難に関する災害計画の策定と訓練実施の必要性について、全国の自治体に対して再周知するとともに、その点検・指導を行うよう依頼した。また、全国の高齢者施設等に対して、水害・土砂災害から適切な避難行動がとられるよう、関係省庁が合同で説明会を順次実施しているところである。
内閣府では、施設管理者向けに特化した項目をガイドラインに新たに追加し、災害時において施設管理者がとるべき避難行動の原則を明記した。また、施設管理者は、介護保険法等の規定に基づく災害計画は、自然災害からの避難も対象となっていることを認識し、必ずそれを盛り込んだ計画とすること、地方公共団体は施設開設時や指導監査時に災害計画や避難訓練の実施状況等について確認すること、市町村から高齢者施設等へ情報が確実に伝達されるように、情報伝達体制を定めておくこと等について、記載の充実を図った。

(3)躊躇なく避難勧告等を発令するための体制の構築

a)市町村の防災体制

台風10号災害では、岩泉町において、被害が出始めた地域住民からの電話対応に追われる状況となり手が回らなくなった。それに伴い、県からの河川水位、気象台からの雨量予測等の電話連絡の情報が防災担当部局内に留まり、避難勧告の発令基準に達した事実も、首長に報告されなかった。また、避難勧告等の発令基準の設定にあたっては、河川管理者等の助言を求めておらず、河川特性を十分に踏まえたものとなっていなかった。

それらを踏まえ、消防庁では、地域の防災体制の再点検結果を受け、地域防災計画、マニュアルなどの必要な見直しを行うよう全国の自治体に対して依頼した(「今後の水害及び土砂災害に備えた地域の防災体制の再点検結果等」(平成28年12月20日公表))。また、国土交通省では、河川管理者が関係市町村へ河川防災情報を伝達する「ホットライン」の取組を、都道府県管理河川等へ定着させるための検討を行い、平成29年2月に「中小河川におけるホットライン活用ガイドライン」を策定した。

内閣府では、分冊にした避難勧告等に関するガイドラインの〝発令基準・防災体制編〟において、防災体制に関する記述を充実した。具体的には、災害時の応急対策に万全を期すため、市町村は、災害時において優先させる業務を絞り込み、その業務の優先順位を明確にしておくこと、全庁をあげて災害時の業務を役割分担する体制や、発令に直結する情報を首長が確実に把握できるような体制を平時から構築しておくこと、水位上昇に一定の時間がある大河川と、急激に水位が上昇する中小河川等、それぞれの河川特性を考慮した、より的確な避難勧告等の発令基準とするため、発令基準の策定段階から河川管理者や気象台の職員、その経験者、防災知識が豊富な専門家等の知見を活用できるような体制を構築しておくこと等について記載の充実を図った。

b)中小河川における避難勧告等の発令基準の具体的な例示

台風10号災害では、洪水予報河川及び水位周知河川以外の河川(以下「その他河川」という。)である小本川の氾濫により大きな被害が発生した。その他河川は、一般的に水位周知河川より流域面積が小さく、降雨により急激に水位が上昇する場合が多いため、早い段階から台風情報や気象警報等、予測情報を活用して防災体制、水防体制を整えておくことが重要である。

消防庁が実施した、地域の防災体制の再点検結果によると、洪水予報河川及び水位周知河川における避難勧告等の発令基準の策定率が約9割であったのに対し、その他河川では約5割であったことから、この度のガイドライン改定において、その他河川における避難勧告等の発令基準の設定例を具体的に示すとともに、洪水全般に対する避難勧告等の発令基準に関し、様々な判断要素について解説し、地域の実情に応じた基準が作成できるように改善した。

3.おわりに

政府では、台風10号災害を教訓とし、各省が連携して対応するとともに、内閣府においては、検討会の報告等を踏まえ、避難情報の名称の変更、ガイドラインの改定を行った。

今後は、自然災害からの避難対策に万全を期すため、検討会の報告及びガイドラインの内容について、国や地方公共団体、施設管理者、住民が一体となり、地域の防災力を高める具体的な取組を各主体が確実に実行していく必要がある。

〈内閣府(防災担当)調査・企画担当〉

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内閣府政策統括官(防災担当)

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