防災リーダーと地域の輪 第29回

生きぬく力を育む

東京・日野市立平山小学校では、防災教育を基盤とした新しい教科「生きぬく科」のカリキュラム開発に取り組んでいる。

未来を生き抜く子どもたちにとって、本当に必要な力とは何か─。

東京・日野市立平山小学校ではそんな課題に向き合い、平成25年度から28年度にかけての4年間、文部科学省研究開発学校の指定を受け、防災教育を基盤とした新しい教科「生きぬく科」のカリキュラム開発に取り組んできた。

その開発のきっかけになったのは、平成23年3月に発生した東日本大震災だったと、五十嵐俊子校長は振り返る。

「東日本大震災によって、私たちは多くの課題を突き付けられました。世界一の変動帯であり、地震や火山噴火がいつ起こってもおかしくない日本に暮らす以上、いざという場面で子どもたちが自分で考え、行動できるように、カリキュラムそのものを根本から見直す必要があるのではないかと考え、生きぬく科の開発に取り組み始めました」

生きぬく科の研究開発では、まず学ぶ内容を吟味した。子どもたちに必要な「生き抜く力」を①自然の恵みを大切にする ②命を大切にする ③人を助ける ④共に生きる ⑤防災に努める ⑥安全な社会をつくる─という6つの実践力として明確にし、その基礎となる「知識・技能」と「能力」を整理した。

防災について系統的に学ぶ教科をつくるためには、理科では天気の予測、流れる水の働き、台風、地震、火山、社会では環境の保全や自然災害の防止、情報化社会、災害の歴史、国民生活、保健ではけがの手当て(心肺蘇生法)、安全な環境…など、従来は教科ごとに分かれていた知識を教科横断的につなげ、実際に生かせるように配列することが必要だった。そこで既存の教科で実施してきた自然現象、災害、環境、健康、情報などに関する学習内容と、それまで行ってきた安全指導も統合し、防災に必要な知識や技能を追加してカリキュラムを再編成した。低学年は週1時間、中学年は週3時間、高学年は週4〜5時間を充てた。

さらに内容の開発だけではなく、「学び方」を変える授業改革も実施した。生きぬく科を含むすべての教科・領域において、正解を求めた一方的な指導ではなく、子どもたちが自ら主体的に学びとり、答えを創りあげていくことを目標とする協働型・双方向型の授業へと変革を開始。日野市、大学、企業による産学官共同プロジェクト「次世代型学びプロジェクト『ひの@平山小』」により、同校では児童一人一台の最新タブレットを日常の学びのツールとして活用し、生き抜く力を育成する新たな学び「ディープ・アクティブ・ラーニング」に挑戦している。

たとえば5年生の生きぬく科の授業では、沿岸部、山間部、河岸段丘という地形別グループに分かれ、立体模型やタブレット上の地図をもとに、地形を読み取って災害リスクを理解し、情報を活用しながら安全な避難ルートを一人ひとりが考え、ハザードマップをつくる。地形ごとに予想される災害を考え、「ここは沢が近いから土砂崩れの危険がある」など、児童自身が選んだ危険箇所や避難所について説明し、話し合う。

さらに6年生では、地域の大地のつくりや自然災害の歴史を学び、現状の地域の課題を把握して、安全なまちづくりを提案する。平成27年度の卒業生は、こうした成果を踏まえて自分たちの考察や意見をまとめ、最終的に日野市役所防災安全課にまちづくりの提言をした。

生きぬく科のゴールは未来のまちづくり、国づくりの担い手を育てること、と五十嵐校長は言う。

「一人で考えるよりも、みんなで考えたほうがより多くの案が出ます。最終的には、立場や価値観が異なる他者と協働し、何かをつくりあげる力が必要です。自ら考えて判断する学びの経験をできるだけ多く積むことで、その基礎力を培えると考えます」

平成28年12月、中央教育審議会総会で、学習指導要領の改善及び必要な方策等について答申が出された。その中に、「生きて働く知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」という文言が盛り込まれた。このことに五十嵐校長は、今まで取り組んできたことへの達成感を得た。

「私たちが4年間取り組んできたカリキュラム開発の骨子は、次期学習指導要領の方向性と重なります。これまでやってきた方針が間違っていなかったことをあらためて実感しています。教科新設を目指すのは大きな挑戦ですが、防災教育は待ったなしの火急の課題です。今後も研究を続けていきます」

なお、平山小学校は平成29年2月18日(土)に研究発表会を開催し、生きぬく科の公開授業、講演、パネルディスカッションなどを行う。(詳細は平山小学校のホームページ 参照

ハザードマップ作りに取り組む5年生

体育館で行われた4年生の避難所宿泊学習

(写真提供 日野市立平山小学校)

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